「雪女」雪道
「行ってみよう!」
ヤマトは力強くそう言った。
「嘘でしょ!?」
「ムリムリムリ!」
「お化けじゃん!死んじゃうよ!」
エマ、ユリ、遥はヤマトを必死に止めようとした。
「俺が行ってくるから、皆は大丈夫そうなら付いて来て」
ヤマトはそう言うと、一人でゆらゆらと揺れる青白い光の方へと歩いていった。
「よしなよ!危ないよ!」
エマはヤマトを止めようとしたがヤマトはお構いなしに歩いていった。
ヤマトは光の方まで歩いていくと、急に振り返ると三人に対し大きなジェスチャーで手をふると手招きした。
「え?何あれ?」
「来いってこと?」
「呪われたりしてないかな?大丈夫かな?」
3人は恐る恐るヤマトの方へと歩いていった。先程の青白い光は既に消えていた。
ヤマトの近くまで来るとヤマトは光があった方を指さした。
山の中、何の建物もなかった人気のない山道に、忽然と建物が現れたのだ。
建物は2つあり、手前には鳥居があった。どうやら神社のようだった。
大きな建物が社であろう。小さな建物は物置小屋のような6畳程度の小さな社だった。
4人は大きな建物に近づき扉を開けてみると意外とすんなりと扉が空いた。
中は温かいとはとても言えなかったが、吹雪を凌げるだけでだいぶ楽に感じた。
「ここで少し休もう」
「ああ、助かった…」
「良かった…」
「…」
4人はそう言うと積もった雪を払うと、その場に座り込んだ。
扉を閉めると吹雪の風の音が少し小さくなって、自分たちが助かったという実感が湧いてきた。
それと同時に、こころが居ない事は皆分かっており、誰も何も言わなかった。
「少し休んだら、俺また見てくるから、皆はちょっと休んでて」
ヤマトは3人にそう言った。
「やめなよ!危ないよ!」
「この状況じゃ、また遭難するよ!本当に!」
エマとユリは大きな声でヤマトを止めようとした。
「…、私も行く」
遥はそう言って顔を上げた。
「ちょっと!何いってんの!アンタマジで死ぬよ!」
エマは怒りながら遥に強い口調で言った。
「だって…。初めて出来た友達だもん。私にとっては初めての友達…」
そう言うと遥は大粒のナミダを流した。
「金刺さん大丈夫。俺絶対見つけてくるから!」
そう言うと、ヤマトは扉を開けようとしたが、何故か扉が開かなかった。
「え?何だこれ?」
ヤマトは思い切り押したり引いたりしたが、さっきは簡単に開いた扉が全く動かなくなっていた。正面の扉以外に扉はなかった。
部屋の奥には神棚があり、何やら大きな御札が置かれている以外何もなかった。
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「小雪ちゃん!どこ行った!?」
東一郎は先行している小雪に向かって叫んだ。
「こっちこっち!早く早く!」
姿は見えないが、吹雪の中少し先から小雪の声が聞こえてくる。
「無理するなよ!こんな吹雪の中じゃ、迷っちゃうぞ!」
東一郎は声の方向に向かって叫んだ。
「大丈夫!大丈夫!それより急がなきゃ!友達がやばいよ!」
小雪の声は吹雪など関係無いようなよく通る声で、東一郎の耳元まで届いた。
東一郎は必死になって声の方へと歩いていった。
「ほら!早く早く!友達助けるんでしょ!」
突然目の前に小雪が現れると、東一郎の手を引っ張った。
「うわ!小雪ちゃん早いよ!転ぶって!」
「こんなの慣れだよ!雪国女子を舐めちゃいかんよ!もう何年もここで暮らしてるんだから!」
「わかった!でも適当に歩いてもまずいんじゃない?」
「ああ、大丈夫。道は一つしか無いから迷うことはないけど、この吹雪がやばいよ。都会から来た子達はどうしたらいいかわかんないだろうから」
小雪はかなりの距離を歩いてきたにもかかわらず、息も切らさずに疲れも見せなかった。
「小雪ちゃんすげーな」
東一郎は本気で感嘆の声を上げた。
「ありがと。でも今は友達を助けなきゃでしょ!急ぎましょ!」
小雪はさっきよりも更に勢いを増して東一郎の手を引いて歩いた。
「あ!あそこだ!」
小雪は道の木の横をを指さした。
木にもたれかかるように、桜井こころが動けないでいた。唇は紫色になって意識も無かった。
「おい!嘘だろ!こころちゃん!!しっかり!こころちゃん!」
東一郎の呼びかけにもこころは答えなかった。
「嘘だろ…まさか…」
東一郎は動かないこころを抱きかかえると思わず絶句した。
「ほら!何してんの!助けるんでしょ!」
小雪が東一郎を叱責した。
「でも…これじゃ…もう…」
「でもじゃないでしょ!君がしっかりしないと!ほら!」
小雪はこころの雪を払うと、こころの顔を覗き込んだ。
「…まだ、大丈夫!急ぐよ!」
小雪はこころを抱きかかえるとそのまま、スタスタと歩きだした。
「ちょ!小雪ちゃん!?どこ行くの!?」
「この近くに神社があるから、そこで一旦この子を休ませるよ!」
小雪はそう言うと雪の中小走りに走り出した。
小柄な少女が自分と同じくらいのこころを抱きかかえて走っている。
東一郎は必死になって小雪を追いかけた。
小雪が走ること5分程度で、ふと脇道に入っていった。
「ほら!早く早く!急いで!」
東一郎に向かって声をかけた。かなり離されたはずなのに、声は東一郎の耳元で聞こえるようだった。
小雪は2つの建物のうち、小さい方の建物の扉をぱっと開けると、こころをその中に入れて寝かせた。
息も絶え絶えの東一郎が汗びっしょりで入ってきたのは、それから数分後であった。




