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「雪女」遭難

「こっちであってるんだよね?」

 エマは泣きそうな声で聞いた。


「大丈夫だよ。道は絶対に街に繋がってる訳だし」

 ヤマトはそう言うと、また正面を向いた。

挿絵(By みてみん)

 スキー場を出発した5人は既に1時間以上歩いていた。

 時田さんが連れてきてくれたであろう道を逆に進んでいるが、ここまで遠かったのかと思うほどに、なにもない真っ暗な道だった。


 該当もなくさっきまで殆どなかった雪は、いつの間にか20センチ近く積もっていて、歩くのもやや困難になってきた。


「ちょっとヤバくない」

 ユリは誰に言うでもなく言った。


「何でそんな事言うのよ?何なの?マジで?」

 ユリの言葉に遥が反論した。


「はぁ?実際そうじゃん。電話も通じない。道はあるけど車も一台も通らない。しかもこの暗さと雪と風!マジで死んじゃうよ!」

 ユリはヒステリックに言った。


「だから、こうして頑張ってんじゃん!泣き言なんて言わないでよ!」

 遥も負けずに言い返したが、目には涙が滲んでいた。

 誰もが不安で、誰もが怖かったのだ。


 光は各々の携帯電話のライトと時田さんが渡してくれた首からぶら下げる懐中電灯が2つ。吹雪く風の音は5人を更に恐怖へと誘う効果があった。


「もう1時間も歩いてるんだ。そろそろ着くよ。頑張ろう!」

 ヤマトは皆を励ましたが、それも数回もすれば効果はなくなり、逆に不安感を煽ることになるだろう。


「あれ!?委員長ちゃんは?」

 エマはこころがいないことに気がついた。


「え!?マジで?」

 ヤマトは流石に慌てて先頭から戻ってきた。吹雪のせいで声が聞こえない、視界が極めて悪かった。


「委員長ちゃーん!」

「こころちゃーん!」

 口々に大きな声で叫んだが、声が聞こえなかった。


「こころさん!こころさん!そんな!!こころさん!どこ!?返事して!」

 遥は完全にパニックに陥った。

挿絵(By みてみん)

「待って皆離れないで!これじゃあ、本当に遭難しちゃう!」

 ヤマトが3人に声をかけた。


「エマちゃん、ユリちゃん、金刺さんはここにいて。俺見てくるから」

 ヤマトはそう言い残すと来た道を戻っていった。


「どうしよう。どうしよう。私のせいだ。私が呼ばなければ…」

 遥は完全にパニック状態で泣き出した。


「落ち着きなよ。大丈夫だよ。大丈夫だよ。」

 エマはそう言うと遥を抱きしめた。遥はエマに抱きつくと子供のように泣き出した。


「このままここにいても仕方ない。私達も戻ろう」

 ユリはエマと遥に言った。


「うん。そうだね。戻ろう」

 エマとユリは遥を支えるようにして、ヤマトの後を追うように元来た道を戻り始めた。


「大丈夫!大丈夫!絶対大丈夫。委員長ちゃんも大丈夫だよ」

 独り言のようにエマが呟く。そんなエマをユリは黙ってみていた。

 遥はもう何も言う気力もなかったのか、ただ泣きながら歩いていた。


「ねぇ、エマ。もしさ、戻れたらさ。最初どこに行きたい?」

「は?ユリ何いってんの?こんな時に…」

「こんな時だから聞いてんの!!私はね、クラブに行ってバイトして、そんでたまに勉強して、映画見て…」

 そういうとエマは思わず泣き出してしまった。

挿絵(By みてみん)

「私は…私は、水島くんと一緒に街をぶらぶら歩きたい。別に付き合って無くてもいい。ただ一緒に今はいたい!」

 吹雪の中でエマは大声で言った。


「…なんでよ。私だって瞬と一緒に遊びに行きたい。今まで出来なかったこと、沢山やりたい。カラオケ行ってみたい。ボーリングもしてみたい。夏には海行って、学校帰りにマクドナルド行って…そんだけなのに…」

 遥はエマに聞こえるように大声で言った。


「何よ!そんなの!いいわよ!戻ったいくらでも連れてってあげるわよ!だからちゃんと歩きなさいよ!水島くんだってきっと来てくれるわよ!」

 エマは遥に大声で言い返した。


「じゃあ、連れてってよ。私も…」

 遥はそう言うとまた泣き出してしまった。


「さぁ。泣いてる場合じゃないって二人共」

 ユリはエマと遥の背中をぐいっと押し込んで歩いた。


「おーい!おーい!こっちだー!おーい!」

 3人が来た道を戻って居る途中、遠くから声が聞こえた。

 吹雪の中で聞こえる声は男の声か?女の声かも分からなかったが、確かに聞こえた。


 3人の目の先100メートルほど行った所に小さな光が見えた。携帯電話の光だろうか。


「やまと君かな?行ってみよう!」

 エマは二人に声をかけて光の所へと急いだ。

 だが、光は消えてしまった。


「え?何?今の?消えた?」

「誰も居ない…よね…」

「なんで…」

 3人共目の目の前にあった携帯電話と思われる光頼りにやってきたのだが、それがこつ然と消えてしまったことに困惑した。


「おーい!みんなー!」

 したから懐中電灯が見えた。ヤマトだった。


「やまと君!委員長ちゃんは!?」

 ヤマトが3人の所にやってきたが、こころは見当たらなかったのか首を振った。


「どうしよう…」

 絶望に打ちひしがれた4人が居るすぐ横にぼんやりと光りが現れた。


「!?」

「な、何あれ?」

「ね、ねぇ!!あれちょっと人魂??」

 吹雪の中にゆらゆらと青白い光が見えた。光はそのままスーッと脇道へとそれていきそこでまたゆらゆらと漂った。


「ちょっとマジでヤバいやつじゃん…」

「し、死んじゃうのかな…」

「もう嫌だ。嫌だよ。嫌だよ…」

 エマ、ユリ、遥はゆらゆらと漂う人魂のような光の恐怖におののいた。

 ヤマトはこんな時、東一郎だったらどうした?アイツだったらどうやって切り抜ける?そればかりを考えていた。



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