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「雪女」酒と温泉

 東一郎と小雪は、ツマミをアテに日本酒を味わいながら飲んだ。


「ふぅ…おいし…」

 小雪はたった一杯の酒を飲むと少し顔を赤くして、ふーっと息をついた。

 その姿がとても色っぽく少女のような顔立ちに、大人の色香を感じて東一郎は思わず狼狽した。


「これはヤバい…」

 東一郎は過去の自分を思い出していた。完全に口説く時のパターンだった。

 だが今は水島瞬として生きている東一郎は自らの軽率な行動で、水島瞬の人生に余計な記憶をさせるのは気が引けていた。


 だが、小雪の整った日本人形のような顔立ちと美しい黒髪と先程見てしまった彼女の裸体を思い出すと、我を忘れそうになった。


 バチン!と東一郎はほっぺたを叩くと、自分に気合を入れ直した。

挿絵(By みてみん)

「駄目だ!駄目だ!駄目だ!」

 東一郎はそう言って自分に言い聞かせた。


「ちょ、ちょっとどうしたの?」

 小雪は東一郎の行動を不思議そうに見ながら笑っていた。


「小雪ちゃん!君はカワイイ…じゃなかった!君の事を教えて…じゃなかった!」

「ん?なーに?」

 小雪は東一郎の心情を知ってか知らずか、いたずらっぽく笑った。

 東一郎は普段の冷静さを完全に欠いていた。神崎東一郎の頃から女性に苦労をしたことがなかった東一郎は、こんなに狼狽えるのは非常に珍しかった。

 いつの間にか東一郎が持ってきた日本酒は、無くなっていた。

 二人はいつの間にか酔っていたのかもしれない。どんどん饒舌になって楽しく会話をしていた。


「あーっと、普段は何してるの?働いてるの?」

「うん。働いてるよ。この辺の山にいくつか神社があって、そこの管理人みたいなものかな。お正月になると巫女やったりもするよー」

「そ、そうなんだ。巫女さん姿似合いそうだね」

「そう?なら今度着てあげよっか?」

「え?マジで!?本物の巫女さんなんてかなり新鮮かも!?」

「じゃあ、今から家行く?巫女さんプレーしちゃおうか?」

「な…な!!?なんて!?」

「アハハハ!冗談だって!君は反応カワイイなー」

 小雪は東一郎をツンと小突きながら笑った。

挿絵(By みてみん)

 東一郎は言葉が何も出てこなかった。

 そしてまるで子供のように彼女に抗えないような不思議な感覚だった。彼女の魅力を無視すればしようとするほど、小雪にハマってしまいそうな不思議な感情だった。


「ちょ!ちょっと、俺風呂入ってこようかな!」

「あ!じゃあ、私も行くー!」

 当然のように言う小雪に、東一郎は大いに慌てた。


「いや、小雪ちゃん!ちょっとそれはまずいよ!」

「えー、なんで〜?」

 小雪は不服そうな顔をして、東一郎を睨んだ。


「いや、だって、その二人で入るってこと?そりゃ嬉しいけど…」

「そりゃそうだよ。こっちの地方じゃ、混浴なんて当たり前だったんだよ。それに、さっき君のはよーく見たから!」

 小雪はそう言って東一郎のお尻をポンと叩いた。東一郎は必要以上に飛び上がって後ろにはね避けた。


「アハハハ!そこまで警戒しなくてもいいじゃん。マジメ君か!?」

 小雪はお腹を抱えて笑いながら東一郎に言った。


「こ、小雪ちゃん、ちょっと飲みすぎなのでは…それにほら、もうすぐアイツラ帰ってくるし…」

 東一郎はふと時計を見た。時間は夜の10時30分だった。


「あ、あれ?もう10時半?」

 東一郎は一気に真剣な表情をして外を見た。外はいつの間にか吹雪になっており、とても普通には帰ってこれない雰囲気だった。

 東一郎は思わず青ざめた。しまったいつからこの状況だ?アイツラは大丈夫なのか?悪い予感がした。


「ん?どうしたの?」

 小雪も東一郎の雰囲気を感じ取ったのか、真面目な表情をしていた。

 東一郎は各メンバーの携帯電話に電話を掛けてみたが、全員電波が届かない場所にいるというアナウンスが流れるだけだった。


「小雪ちゃん、ちょっとまずいかも。この辺りのこと詳しいよね?」

「そりゃ地元だからね。どうかしたの?」

「俺の友達がスキーから戻ってこないんだ。本当なら9時には戻ってくるはず。外いつの間にかすごい雪じゃん。途中で迷ったりしてるかも…」

「え?そうなの?ちょっとスキー場に聞いてみるね」

 そう言うと、小雪は宿泊所の電話の所に向かい、スキー場に電話をかけていた。


「スキー場に電話しても誰もでないよ。バス会社に電話してみたら今日は8時前に吹雪でリフトの操業を中止したんだって、でもうバスもとっくに終わってるって。しかも帰りのバスに誰も乗ってなかったらしいよ…」

 小雪も流石に心配そうな顔をしていた。

挿絵(By みてみん)

「小雪ちゃん。本当に申し訳ないけど、案内してくれる?この辺りで迷ってるかもしれない!」

「分かった。すぐに行こう!懐中電灯持ってくる!」

 さっきまでのふわふわとした空気は一変して緊張感が漂った。

 東一郎は念の為、聞いていた時田さんに電話してみたが電話は通じなかった。一応、遥たちが戻ってないことを留守電に残しておいた。


 コートを着込んだ二人は、宿泊施設から外に出ると雪と風がすごい勢いで吹き付けてきた。


「結構吹雪いているね。雪が深い所は危ないから無理はしないでね!」

 小雪は東一郎に言った。そう言うと小雪はまるで分かっているかのようにどんどん吹雪の中、山間の道を進んでいった。とても少女の歩みとは思えないほどのスピードだった。


「雪国の人ハンパねーな!ちょっと待ってくれ!」

 体力に自信のある東一郎も吹雪と積もった雪に足を取られて思うように進めなかった。

 小雪は先行しつつも東一郎を気にかけて、都度止まっていてくれた。

 二人は真っ暗な闇の中を歩いていった。

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