「雪女」スノボ
「うわぁー!」
「凄くない!?」
「昨日のスキーは何だったの?」
「ちょ!普通に上手くない!?」
「上手ですねぇ!」
スキー場に来て2日目、スキーではなくスノーボードに変えたのだが、他5名に滑り方を教えるために、東一郎は見本として滑ってみせた。
「という感じで、滑るのだが…」
東一郎は各メンバーにスノーボードを教え始めた。
元々の世界でスノーボードブームもあり、東一郎も若い頃にスノーボードにのめり込んだ時期もあったので、かなり上手に滑れたのだった。
午前10時頃からスノーボードを滑り始めた一行だが、夢中になって14時頃に遅めの昼食を取るため、近場の休憩所のあるレストランにやってきた。
「なんか凄い楽しくない!?」
「超楽しかった!」
「スノボ楽しすぎる!!」
滑り終えた面々は口々にそう言った。
理由は単純である程度滑れるようになったからだ。
とは言え、初心者コースを上から下まで数回転びながら何とか滑りきれる位の腕前なのだが、スキーやスノーボードの経験のない面々にとってはとても新鮮で、とても興奮するものであった。
「よかったなー。皆ちょっと上手くなったと思う」
東一郎は注文した1000円のカレーを食べながら言った。
「水島くんのおかげだよー」
エマは興奮した様子で東一郎に言った。
「それは良かったな!エマは結構運動神経良いんだな」
東一郎が言うとおりで、エマは半日ほどの練習で上から下まで転ばずに降りられるようになったし、ターンも割とスムーズにできるようになった。
そんな中浮かない顔なのが、遥だった。
決して運動神経が悪いというわけではなさそうだが、転ぶ回数は他のメンバーよりも少し多い気がした。
「…。」
「どうしかしたか?遥?」
東一郎は遥に聞いた。
「ううん。何でも無いよ!」
遥は努めて明るい声で返した。
「あー、何?自分がちょっと他よりできてないとか思ってる?」
「んー…やっぱりそう思う?」
「ふーん、まぁ、俺からしたら皆おんなじようなもんだけどな。じゃあ、午後は俺がしっかり教えてやるよ!」
「ほんと!?」
遥はそう言ってニッコリと笑った。
「良かったじゃん。金刺さん」
ヤマトは素直に遥にそう声をかけたが、エマはちょっとツンとした顔をした。
午後に入ると東一郎がそれぞれ振り分けをした。
初級コースをある程度滑れるようになったヤマトとエマは中級コースに行くように指示し、ユリとこころは引き続き初級者コースの練習をするように言った。
遥と東一郎はマンツーマンで滑ることになった。
必然的に二人乗りのリフトには東一郎と遥が乗ることになるのだが、それが気に入らないエマは自分も初級コースに残るといい出したが、説得して中級コースに向かっていった。
東一郎は遥に滑り方をマンツーマンで教えた結果、他のメンバーに少し遅れていた遥かも何とか転ばずに初級コースを滑れるようになってきた。
「ねぇ、水島さん。ほんとにありがとう」
「は!?な、何だよ。改まって!?」
東一郎は思わず吹き出しそうになった。
「でも、感謝していますわ!」
遥はまたお嬢様口調で東一郎に礼を言った。
「ああ、お嬢様もなかなか根性がお有りのようで、ここまでうまくなるとは思わなかったよ」
「本当に!?私上手くなった?」
「ああ、そう思うよ。元々スポーツもそれなりにできるんだろ。多分コツさえ掴めればあっという間に滑れると思うよ」
「わぁ!ありがとう!水島さんにそう言われると、そんな気になるよ」
「そっか、それは良かったな」
「ねぇ、吊り橋効果って知ってる?」
遥はリフトの上で、少し足を上に上げながら言った。
「吊り橋効果?あの、危険な場所に居るドキドキと恋愛のドキドキを勘違いするってあれか?」
「そう!吊り橋効果!ねぇ!水島さん!今、リフトの上で高い位置に居るじゃない!ドキドキしないの?」
「あー、まぁ、怖いっちゃ怖いけど、そこまではドキドキはしないかなぁ」
東一郎は自分を確かめるに考えてから言った。
リフトの終点が見えてきて、二人はゆっくりとリフトから降りた。少しバランスを崩しそうになる遥をそっと東一郎は背中を支えていた。
「私はね。めっちゃドキドキしているよ!」
遥はそう言うと、バインディングと呼ばれるとブーツとボードを結合する金具をがちゃんとはめると、飛び切りの笑顔でコースを滑っていった。
「おい!!あんまりはしゃぐなよ!転ぶぞまた!」
そういって東一郎もゆっくりと遥の後を追うように滑り始めた。
その様子をこころがリフトの上から眺めていた。
表情は無表情であったが、一言も言葉を発することが無かった。
一緒にいたエマはとても気まずい気分であったことは間違いないであろう。
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帰りの車の中で誰かが言った。
「もう明日には帰るんだねーもっと滑りたかったなー」
エマとユリは疲労感を残しつつもスキー場との別れを惜しんでいた。
「ナイターあったら行きたいね!」
ヤマトはふと思いついたように言った。
「ナイターもやってるはずですよ。ご飯食べたら送りましょうか?」
時田さんは運転しながら言った。
「本当に!?いいんですか?」
遥は食い気味に時田さんに聞いた。
「行きたい人ー!!」
遥は全員に声を掛けた。
「はーい!」
「絶対行く!」
「行きたい行きたい」
「行きたいです」
東一郎以外のメンバーが大喜びで賛同した。
「えぇー…。ちょっと頑張りすぎじゃね?俺はもういいよ」
東一郎は少しうんざりした気分で言った。
「なんで!?行こうよ!」
「イヤだ…俺は温泉に入っている!だったら皆で行ってこいよ」
「じゃあ、私もやめておこうかな…」
こころがそう言うと、エマもそうはさせじと自分もと言いかけた時、遥が言った。
「分かった!水島さんは休んでて!その代わり他の皆は徹底的に滑り込んで、水島さんに見せつけてやりましょうよ!」
遥のこの一言で、東一郎以外のメンバーはナイターに出かけることになり、東一郎は宿に一人残ることになったのであった。