「雪女」伝承
食事を食べ終えた6人は、食器類を洗い後片付けを行っていた。
例によってこころが自分で片付けを率先して買って出たが、結局全員で片付けようということになった。
「ふと思ったんだけど、コンビニってこの近くに無いんだよな?」
東一郎は遥に聞いた。
「ええ、無いですわ。もはや陸の孤島ですわ!」
遥はそう言うと東一郎の目の前に洗い物のナイフを差し出していった。
「何か小説や漫画なら殺人事件が起こるケースですね。うふふ」
「おいおい、止めろよ。何かこういう感じのゲームあったぞ…」
東一郎は顔を少し引きつらせてから、洗い物を急いだ。
洗い物を終えたメンバーは、何となくロビーのソファーに集まってきた。ここは本来は待合室のような場所なのだが、暖房も効いておりなにげに6人程度であれば集まるのに適した場所になっていた。
「いや、普通は誰かの部屋に集合するもんじゃね?」
東一郎の問に誰も応えるものはいなかった。誰も自分の部屋に招き入れることは無かった。
とは言え、旅の開放感も手伝い6人は他愛もない話をして夜も更けていくのだった。
「でも、この状況ってマジで陸の孤島だな。この宿泊施設に若い男女が6名。これ映画なら確実に誰か殺されるパターンだな…」
「あはは。ほんとだねー」
「だってこの建物以外この辺りなにもないだろ」
「ヤバいやつが夜、来たら怖いよね」
「携帯電話も繋がらない山あいの宿泊施設…何故か固定の電話も繋がらない…外は真っ暗…怖いですねぇ…」
「いや、もっと怖いのが、この建物でね。従業員でも宿泊客でも無い女が…」
「お、おい!止めろよそういうの!」
東一郎は悪乗りする女子たちを諌めた。
「あれれ~おっかしいなぁ〜お兄さん怖がってるの〜」
ユリが突然甲高い声で探偵アニメキャラのモノマネをした。
「うるせーな!クソガキが!大人を舐めんじゃねえ!」
東一郎は結構本気で文句を言った。それを見てユリがケタケタと笑っていた。
「でも…」
遥が何かを言いかけた。
「でも…何だよ?」
東一郎は何だか不安げな様子で遥に聞いた。
「ううん。まぁ、この地方ってほら田舎じゃない。だから結構迷信深いっていうか、冗談みたいな話を聞いたことあるのですわ…」
遥はそう言うとみんなの方をじろりと見た。本気なのか冗談なのかが分からず、また遥の様子が少し物憂げに思えて皆一瞬、言葉を失った。
「ちょ!やめてよ!結構この辺心細いじゃん!」
エマは遥に結構な勢いで文句を言った。
「うん…でも…まぁね…そうですわね…」
遥は言い返すかと思ったが思いの外、静かに話すのをやめた。その様子がこの話はそれなりに信憑性が高いとメンバーは思った。
「な、なんだよ!気になるじゃんか!?おいおい、幽霊の話とか俺は基本信じねーからな!なぁ!」
東一郎は慌てながら周りに意見の同意を求めた。
「ああ、お化けっていうのとはちょっと違うんだけど、私が聞いた話ですわ」
遥はそう言うとこんな話をした。
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この地方には民間伝承。要するに都市伝説という感じの噂が結構あるそうだ。
遥が数年前にこの施設に訪れた時に、祖父から聞いたという話を始めた。
昔、この村に狩人の親子が住んでいた。
親子が冬のある日、山の奥深くに入り込んで道に迷い込んでしまったそうだ。
そんな山奥の道を歩いていると、若く美しい女が親子の前に現れたそうだ。
女は父親の前に行きふーっと息を吹きかけると父親はそのまま凍りついて死んでしまったそうだ。
息子は腰を抜かして座り込んでしまった。女は男を見ると自分のことは他言するなと言い残して去っていった。
その数年後、息子はとても美しい女と結婚をして、子供が授かった。
とても幸せだった男だが、ふと自分の妻に言った。
「お前は、昔オヤジと入った山で見かけた女と似ているな」
たったそれだけの事だったが、女は目を見開き怒りながら男を罵った!
そして男にフーっと息を吹きかけると、男はみるみる凍りついていった。
だがその時、赤ん坊が泣き出した。
女は息を吹きかけるのを止めると子供を抱き上げ、男に言った。
「お前を殺しては子供が可愛そうだ。子供を頼む…」
そう言って、家を出るとそれっきり帰ってこなかったそうだ。
遥はこの話を6人に話を終えるとふーっと息をついた。
「ちょっと悲しくて切ない話ですわね」
と彼女は感慨深げに言った。
皆一言も誰も何も言わなかった。
「あ、あの…」
「あのさ…」
少し間があいて、東一郎とこころがほぼ同時に遥に声をかけた。
「うん。何ですの?少し怖い話ですわねぇ…」
遥は伏し目がちに言った。東一郎とこころは思わず見合ってから東一郎が口を開いた。
「あの…これ…雪女だよね…」
東一郎は言っていいのか悪いのか判断がつかずに、探るように聞いた。
こころだけでなく、遥を除く5人がそうだと言わんばかりに頷く。
「はぁ!?雪女?違うわよ!お雪様っていうのよ」
遥は東一郎を少し見下したような口調で言った。
「いや!それ雪女!なんかこの地方の名産にでもしたいのか?かっぱの里的な!」
東一郎が思わず早口になるような口調で遥に詰め寄った!
「はぁ!?雪女って何?どんな話よ?」
「いや、まんまお前が言った話だよ。何だよお雪様って…」
「え?本当に?」
「マジだよ。逆にその話をまさかそれっぽく俺らに話してくることが怖いわ」
「ちょ、そんなの聞いてないわよ!ほんとに??」
遥はお嬢様言葉を忘れて残りのメンバーに聞いた。
残りのメンバーは大きく頷いた。
遥は顔を真赤にしてから携帯で雪女を検索使用したが、この辺りは電波が届かず圏外で検索できなかった。
「お嬢様の赤っ恥」とエマがかなり煽っていた事もあり遥は心穏やかでない旅の一日目であった。




