「雪女」夕食
「おお!!」
「すっごい!」
「まじか!?」
一同は目の前に出された料理に驚きの声を上げた。
まさに温泉旅館で部屋に運ばれてきた宴会料理を見るような豪華さだった。
特に山間の地域なのに、冬の魚介が所狭しと並んでいた。
管理人の時田さんが給仕をしてくれるのだが、一見すると普通の主婦にこんなすごい料理が作れるものだろうか?
誰しもがその料理に思わず息を呑んだ。
「これは私が作ったんじゃありませんよ。街のホテルから運んできたんですよ」
時田さんは雰囲気を察したのか笑顔で言った。
「今日はお祖父ちゃんがせっかくだからって言って、用意してくれたです。どうぞ召し上がれー!」
遥はそう言って両手を広げて言った。
「これは凄いな。マジで。サンキューな!遥!」
東一郎は嬉しそうに礼を言った。
「ううん。せっかくの機会だからね!皆遠慮せずにどうぞ!」
「いただきま~す」
「いただきます…」
スキーで疲れ果て、ぐったりとして戻ってきた6名は風呂上がりの部屋着に着替えいた。皆、普段に比べテンションも高くまた並んだ豪華な料理に驚きの声を上げていた。
東一郎は今更ながら、奇妙な感覚に襲われていた。
親戚の家に居るような、保護者になったようなそんな気分だった。目の前に居るのはヤマトを除けば花の女子高生で、学校でも飛び抜けてキレイ・可愛いと噂される女子生徒たちばかりだ。
普通であれば、大喜びでドキドキしてしまいそうなものだが、実に冷静そのものだった。湯上がりの女子たちの色香を感じられない訳ではないが、おもわず自分の心情を少しばかり心配する程に混乱した。
「しかし…まぁ、皆カワイイよな…」
ぼそっと東一郎が思わず呟いた。思わず口に出た本音であった事は間違いない。
「!?」
「え!?」
「は!?」
エマ、こころ、遥の三人は過剰に反応した。
「は!?ああ!!ごめんごめん何でも無い!!こっちの話だよ」
東一郎は慌てて取り繕ったが、ユリはその様子を少し楽しげに眺めていた。
「ええ〜水島君、誰のこといってんのー?」
ユリはニヤニヤしながら東一郎に話しかけた。
「は!?ああ、いや、お前ら全員そう思うよ。マジで、今改めてそう思った」
東一郎は照れるどころか真面目に答えた。
「!?」
「え!?」
「は!?」
再度、エマ、こころ、遥の三人は過剰に反応した。
「あはは!ちょっとそこボケるところじゃないの〜?」
笑いながらユリは言った。
「いや、多分お前らより色々な経験してると思うけど、これだけのメンツが集まっている状態ってマジで無いぞ。もっと自信もてよ。これから先まじで皆結構モテるだろうから、変な男に引っかかるなよ」
東一郎は引き続き真面目な顔で言った。
「え?水島、何いってんの?」
ヤマトはイマイチ理解できずに東一郎に聞いた。
女子達は何かいいたげではあったが、周りと目を合わせるだけで何も言わなかった。
「あれ?俺なんか変なこと言ったか?割と思ったこと言っただけだけど、まぁ、今はとりあえず、これ頂こうぜ!なんつーか、贅沢だなぁ!」
東一郎はそう言うと出された割り箸を両手に持って頂きますのポーズを取った。
「じゃ、じゃあ、乾杯しましょう皆さん!飲み物は何がいい??」
遥はそう言うとペットボトルに入ったジュースの蓋を開けた。心なしか顔が赤らんで見えた。
管理人の時田さんは、皆が夕食を食べ始めたのを見届けると家に帰っていった。
美味しい料理の前には、敵も味方も関係がないようだ。
エマ、ユリ、こころ、遥も普段のギスギスした会話もあまりなく、昔ながらの友達かのような笑顔で会話をしていた。
宴会料理のような料理は地元の食材をふんだんに使ったとても美味しい料理であった。金刺家のご用命のホテル料理を運んできている訳なので正直、高校生にこの料理を出すのか?と東一郎は金刺家の裕福ぶりに驚いた。
そんな中、食べているときに、誰かが言った。
「今日は面白かったねー。でも全然上手くならなかった…」
ユリは食べ物を味わいながらしみじみと言った。
「確かに…、やっぱりスクールとかに入るべきじゃない。誰も教えてくれる人が居ないわけだし…」
遥はそれに同意した。
「そうだねぇ。確かにその方がいいかもしれませんね…どうしても上達速度が遅くなってしまいますね…」
こころもその案についての意見を述べた。
「今日はほら、午後からだったけど、明日は一日できるじゃん。半日スクールっていうのがあるから、これでやってみる?」
遥はそう言ってメンバーに聞いた。
「いや、皆勘違いしてないか?スクールって多分金かかるぞ?一人5000円とかかるんじゃないか?」
東一郎は至極当たり前の話をした。
「確かに…」
ヤマトはボソリと言った。
「ああ、その辺りはイイよ。私が何とかしてあげますわ」
遥はお嬢様口調でニッコリと笑った。
「いや、それはいいよ。こんなに用意までしてもらって、更にそんな金出してもらうとかありえないから」
東一郎はあっさりと断った。
「ううん。気にする必要ないわ。お願いすれば普通にやってくれるから」
遥は気にする素振りを見せずにそう言った。
「いや、それは駄目よ。お金の問題じゃないわ」
エマも東一郎の意見に同意した。
「そもそも今日の明日でスクールって入れるのでしょうか?」
こころの発言に皆、確かにそうだという思いで統一されたようだ。
「スノーボードの方が簡単そうじゃない?だって板1本だし…」
ユリは何の気無しに言った。
「なるほど、一理あるわね」
エマも大きく頷きながら同意した。
「レンタルは多分できると思う。明日はスノーボードにしましょう!皆さんよろしいかしら?」
遥はあっさりと決断した。
「え?スキーじゃなくて良いのか?」
東一郎は遥に聞いた。
「ええ、別に何でも構いませんわ。おほほ」
遥はわざとらしく、上品な笑い方をした。
「ああ、そうなんだ。スノボだったら俺が滑り方、教えてやるよ」
東一郎がそう言うと、周りの5人は驚きの表情を浮かべて声を失った。
「え?滑れるの?」
「ああ、滑れるよ。スノボ世代だったから、昔は結構行ったよ」
東一郎はあっさりといい切った。
「!?」
「!!?」
「え!?」
「は!?」
「マジで!?」
東一郎以外のメンバーの心は「早く言えよ」という心持ちであった。




