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「雪女」スキー

 時田さんがスキー場まで送ってくれた。スキー場までは車なら10分程度


 スキー道具を持っているのは、金刺遥一人だけだった。その他のメンバーはスキー板をレンタルするために、近くのロッジに立ち寄った。


 スキーは過去に数回来たという金刺遥以外は、殆どが未経験もしくは1回か2回程度の経験でまともに滑れそうな人は居なかった。


「じゃあ、4時頃に迎えに来ますから、下の駐車場に来てくださいねぇ」

 時田さんはにこやかに言うと去っていった。


「さぁ!滑るぞぉ!」

 エマはテンション高くそう言うとスキー板を振り上げた。

挿絵(By みてみん)

「あぶねーって!!」

 東一郎は調子づくエマを抑える形で制した。エマはその拍子にバランスを崩し尻餅をついた。その時に東一郎の腕を掴んで離さなかったので、まるで覆いかぶさるように東一郎が倒れ込んだ。


「うわ!おい!エマ大丈夫か!?」

「あ、ごめん!大丈夫大丈夫!」

「ふぅ、焦らせるなよ。滑る前から怪我してちゃ意味ないぞ!」

「うーごめん、ちょっと調子に乗っちゃった」

「ちょっとお前浮かれすぎだろ。ったく」

「えへへ、ちょっとだけねー」

 エマと東一郎のやり取りを、こころと遥の二人は能面のような顔で眺めていた。

挿絵(By みてみん)

 6人はリフト乗り場まで移動することにした。緩やかな傾斜で距離にすると100m程度は距離がある。それぞれスキー板を踏み込んでバインディングをセットした。

 その時点ですでに立てない状況なのは、こころとヤマトの二人だった。


「おー委員長ちゃんの弱点はっけーん!」

 ユリが愉快そうにこころを見て言ったが、次の瞬間ユリのスキー板は左右に流れていき、大股開きの状態でそのまま前のめりに倒れ込み顔面を強打した。

 ヤマトは踏ん張ろうとして立ち上がった体勢のままで板が進みだして、よろよろと進んで2メートルほど転がっていった。


「おお…うわ…まじか…」

 東一郎はほぼ直立の状態のまま、立ち上がるとピクリともせずにリフト乗り場方向に滑っていったが、何も動かないので加速した状態で最終的には派手に転んで止まった。目の前に子供を含む家族連れがいたので自爆した事は明白だった。


 エマに関しては、スキー板を履くことを諦め担いでリフト乗り場に向かおうとしていた。


「え、何ですのこの地獄のような状況は…」

 遥は目の前の惨劇を見ながら呟いた。残りの5人はみな遥の滑りを見ようと彼女に目線を向けていた。


「これだから素人は…」

 遥は颯爽とスキー板をセットするとパンと雪の地面を蹴った。スキー板に乗っていた雪を弾き飛ばした。

 そしてストックを地面に突き立てるとふわっと浮いた状態から滑り始めた。


「おお!」

「凄い!」

「まじか!?」

「やるぅ!」

「さすが!」

 全く滑れない5名は遥の滑走に賛辞を寄せた。


 が、彼女のスキー板はハの字を描き、なだらかな斜面を歩く程度のスピードでほぼ下半身の動きを使うこともなく、大きなターンを2回ほど繰り返してリフト乗り場にやってきた。

挿絵(By みてみん)

 つまり5人が全く滑れず、一人が初心者レベルの集団。

 外見の派手さと裏腹な超絶地味なスキー集団になっていた。

 ある意味ゲレンデの中で、彼らの姿は悪い意味で目立っていた事は間違いなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうでしたか?楽しかった?」

 時田さんが4時になって駐車場に迎えに来てくれた。


「はい。とっても」

 遥は言葉ではそう答えたものの疲労の様子がありありと見えた。

 午後1時過ぎから滑り出した一行だったがこの3時間ほぼ何もできずに過ごした。


 やった事と言えば、リフトで上に上がるが上手く降りられず、毎回リフトを止める始末。リフトを降りた地点は初心者コースであるのだが、彼らにとってはチャンピオンコースに匹敵する難易度の高さだった。


 遥はひたすらボーゲンを指導したが、本人も大して上手くないため、他のメンバーの上達にどこまで役に立ったのかは分からなかった。


 殆どのメンバーは転がりながら何とか下にたどり着き、運動神経がよい東一郎とこころはボーゲンレベルの事ができるようになったが、転倒せずに元のリフト乗り場にたどり着くという事は一度もなかった。


 エマに関しては、全く動けず、最終的にスキー板を担いでゲレンデを降りてくるというほぼ登山のような状態になっていた。

挿絵(By みてみん)

 これを繰り返すこと3時間。

 各メンバー疲労困憊で迎えを待つことになったのだ。


「いやー、マジ疲れたな…」

 東一郎はぐったりしながら、別荘の部屋に戻ってきた。

 各部屋に風呂場はあったのだが、せっかくなので温泉に入ろうということになり、5時から6時が女子の時間、6時から30分を男子の時間に割り当てた。


 6時になったので浴場に向かうことにした東一郎とヤマトは途中で、風呂上がりの女子4人をロビーで見かけた。


「おい!!どうだった?温泉!」

 東一郎は気さくに聞いた。


「温泉最高だったよ!」

「ほんとほんと!」

「6時半ご飯だって言うから早くね!」


 女子たちは昼間の惨劇で仲間意識が芽生えたのか、同じテーブルを囲んで和やかに話をしていたようだ。


「そっか!それは楽しみだ!じゃあまたな!」

 東一郎はそう言うとさっさと浴場へ向かっていった。


 ヤマトも後をついていくときに女子の会話が聞こえてきた。


「へぇ!モデルって言うから、もっとお肌の手入れとかこだわってるのかと思った」

「ああ、私は自然派で結構行けるから!えへへ」

「そうなんだあ。私は今よりも未来。何も手入れしないとおばさんになるの早いらしいよーふふふ」

「委員長ちゃんって、結構髪とかテキトーなんだねー」

「そんな事ありません…でも、髪が強いって言われるので、あまりケアは必要ないみたいです…ちょっと自慢かな…うふふ」

「へ、へぇ…」


 誰の声かはよく分からなかったが、ヤマトは聞かなかったことにして浴場に向かうことにしたのだった。

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