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「雪女」旅の栞

「いやー楽しみだなー。良かったなー」

 東一郎は顔を綻ばせながらその場にいるメンバーを見た。珍しく上機嫌に見えるのは、気のせいではないだろう。


「で?誰が行くの?チケットって6枚あるんだろ。だったらえっと、エマ、ユリだろ。それとこころちゃんと遥か…これで4人だろ、あ、そうか後ヤマトか!?で、あと一人は?」

 東一郎はそれぞれの顔を見ながら言った。


「は?水島くんは?」

 エマはぽかんとした顔で言った。


「え?俺は行かないよ。だって寒いじゃん!」

 東一郎は笑顔のままであっさりといった。

挿絵(By みてみん)

「!!?」

 その場にいる一同は同じ思いで驚きの表情をした。


「おい!ヤマト!これってチャンスじゃね?アカリちゃん誘っちゃえよ!」

 東一郎は何故かウキウキした態度のまま、ヤマトに耳打ちをした。


「いや、お前マジで言ってんの?」

 若干震える雰囲気でヤマトは東一郎に聞いた。


「なんだよ。遠慮すんなよ!こんなおいしい展開!漫画のレベルだぞ!俺が声かけてきてやろうか?ちょっとまってろ!さっき見かけたから!」

 東一郎は言い終わる前にあかりを探しに行こうとした。


「なぁ!水島!良いから!ほんとに良いからそういうの!彼女を”これに”巻き込むな!ついでにいうと俺も巻き込むな!」

 ヤマトは東一郎の肩に手を置いて真剣な表情で訴えた。


「あー、お前、こういうイベントでの成功率高いんだぞ!勿体ない!」

 東一郎はヤマトの真剣な表情を見てあっさり諦めると両手を開いてため息を付いた。


 そのやり取りを残りの4人は信じがたい化け物を見るような目で見ていた。


「一人足りねーな…、うーん、じゃあ、蒼汰でも呼ぶか?男一人は辛いだろ。あいつはアホだから喜んでくるだろ…ああ、でも下手したらアイツじゃなくて、ねーちゃんの方が出てきたらやだなぁ。まぁ、それはそれでだな…」

 東一郎はブツブツ言いながら蒼汰に連絡しようとスマホを取り出した。


「おい!水島!!お前が来い!お前が来ないなら俺は行かねー!お前だ!お前だよ!!頼むよ!!」

 遂にヤマトが何故かブチギレて涙ながらに東一郎の胸ぐらをつかんだ。

挿絵(By みてみん)

「何だよ。ヤマト。そこまでオレに来て欲しいとか、どんだけ寂しがりやなんだよ!あははは!ガキだなー!」

 東一郎はヤマトの真剣な表情をみて笑いながら言った。


「いや、ガキはお前で大人なのはヤマトだよ」

 ユリは小さな声でボソリと呟いた。

挿絵(By みてみん)

 結局6人で金刺遥の別荘に泊まり、エマのチケットを活用するという事になった。

 丁度その週が受験日という事で、学校が火曜日まで休みだったので、2泊3日での小旅行という事になった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 午前10:00東北新幹線のある駅にある新幹線のホームに降り立った6人は、金刺家の用意していたワンボックスカーに乗り込むと別荘に向かった。


「ようこそおいで下さいました。今年は雪が多くてスキー場は賑やかですね」

 ワンボックスを運転してくれたのは、金刺家の別荘管理をしている「時田さん」という中年の女性だった。にこやかな表情で田舎のおばさんという雰囲気だ。


 車を走らせること、30分ほどで奥州未来スキー場が見えてきた。このスキー場はまだできて間もなく、穴場のスキー場という位置づけだ。どうやら別荘は更にその先

 10分ほど車を走らせる必要があるそうだ。


「はい着きましたよー」

 管理人の時田さんは小型のホテルのような建物の前で6人を降ろしてくれた。

 建物は山の中にぽつんとあるが、見晴らしはよくスキー場も遠目に見える少し人里離れた場所にある建物であった。


「おお!想像していた別荘とぜんぜん違う!」

 東一郎は目の前の建物を見て、一軒家・ロッジ風な別荘を想像していたので印象がだいぶ違って小さなホテルのような建物だった。


「別荘というより、うちの会社の保養所だからね。今週使うはずだった人達急遽キャンセルになったから使っていいって事なんですわ」

 金刺遥はフフンと鼻を鳴らした。

挿絵(By みてみん)

「この辺りはスキー場に行くと歩くと30分以上掛かるから、出かける時は言ってくださいね」

 時田さんはそう言うと一行を建物の中に招き入れた。

 小さなフロントのようなスペースがあり、その横には暖房器具があり入口付近には、更に玄関脇には乾燥室まで備えてあった。


「ちょっとした旅館やホテルみたいですね…」

 桜井こころはあたりを見渡しながら、呟いた。


「この辺この建物しか無いけど、ゆっくりしていってくださいね。お風呂は天然の温泉なんですよ!」

 時田さんがいうと、風呂の場所を案内してくれた。


「まじかよ!すげー!最高だな!俺、スキーは良いから、ずっとここにいるよ」

 東一郎は空気を読まずに自分の願望を述べた。


「ちょっと!水島君!せっかく来たからにはスキーするんだからね!」

 エマは東一郎が来ないといい出しかねないので予防線を張っている。

挿絵(By みてみん)

「えぇ…やっぱり行かなきゃ駄目?」

「当たり前でしょ!何しにここまで来たのよ!」

 エマは東一郎を絶対に連れていきたい思いのようだ。


「さぁ!皆さん部屋を決めますよ!」

 金刺遥は手を叩いて号令を掛けた。


「二人部屋を三部屋準備していますから、それぞれ好きな所を選んでくださいね」

 遥は建物の1階にある3部屋を利用することにしているようだ。


 入口付近には、東一郎とヤマト。

 その隣の部屋に、ユリとエマ。

 更に一番奥の部屋にこころと遥。

 という部屋割りになった。


「じゃあ、それぞれ着替えて、またロビーに集合ね」

 遥はそう言うとそれぞれ部屋に別れて戻っていった。


「あ、あの…金刺さん…」

 エマが遥に声をかけた。


「はい?どうしたのです?」

 遥はやや警戒しながら、余裕を感じさせるような言い方をした。


「あの、こんないい宿の手配。ありがと。それだけは言っとこうと思って…」

 エマは目線をほぼ反らした状態で遥に告げた。


「ふふふ、別に構いませんよ。お互い正々堂々…」

 遥はそう言うと、ニコッと笑顔を作るとエマに会釈をして部屋に入っていった。

 エマは言ったは良いものの、やはり好きになれないと改めて認識をするのであった。

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