「雪女」トラッシュトーク
「ああ、どうしたの?桜井さん」
「あの、水島さんとヤマトさんの2月10日と11日のご予定を聞きたくて…」
「え?俺と水島の??どうして?」
ヤマトはイマイチ要領を得ないで聞き返した。
すると金刺遥がじれったそうに話に加わった。
「ウチの別荘が東北の奥州未来スキー場の近くにあるのよ。たまたまその日に使っていいよっていう話になったから、誘いに来たの!」
遥はそう言うとヤマトに対して勢いよく説明した。
「チョット待ってよー。残念!その日はもう私達が押さえちゃった!ごめんねー。また今度誘ってあげてね」
エマは間髪入れずに笑顔で会話に割り込んできた。
「でも、まだ水島さんに直接お話してないので…」
桜井こころは、落ち着いた口調で諭すようにエマに言った。
「あれー委員長ちゃん、そもそも金刺さんと仲良しだったの?」
ユリは口を挟むようにして聞いてみた。
「ええ、そうよ!私はこころさんと大親友よ!」
金刺遥はユリの一歩前に立ち、堂々と宣言した。
「まぁ、何か濃いなー。胃もたれしそうだよ〜あははは」
エマはお腹を抑える真似をしながらわざとらしく笑った。
「ま、まぁ。ちょっと水島が居ないところで話しても、アレだからちょっと待とうか…」
ヤマトは冷や汗をかきながら、二人の間に入った。
「えぇ〜、聞くまでもなくない。ウチらが先に約束したんだし〜委員長ちゃん達が遠慮しなよ今回は〜」
あからさまに不満顔をしながらエマが言った。
「はあ?アンタちょっとモデルだかやってるからって、調子に乗ってんじゃない?」
お嬢様らしく気の強い遥は、強い口調になってくる。
「はぁ?モデル関係なくない?お嬢様こそ、学園やりたい放題って噂だけど?」
エマも引き下がらない性格らしく、遥の前に出ていった。
「ま、まぁ!落ち着いて!」
ヤマトは慌てて二人の前に入ってきた。
「不毛なお話はやめましょう。おふたりとも…」
こころは慌てる素振りもなく、二人に言った。
「ああ、ホント、不毛だわ。委員長ちゃんもその不毛な話に巻き込まれないように高みの見物?随分余裕ねぇ」
「私は話の論点がずれていると言っているのですが…」
「論点?出たでた。成績の優秀な委員長ちゃんはロジカルだねー」
「ロジカル?いえ、ここではロジカルな話以前の問題で、論点が全くあっていないので、意味がないと思うのです…」
「は?なんかさ、もっと簡単に話せない?なんか難しい事を難しく言うのって結局使えない人の思考らしいよ…気をつけなね〜」
「ああ、忠告ありがとうございます。それと私は生徒会役員であって、クラス委員長ではありませんので、お間違い無いよう…」
こころはエマにほぼ表情を変えずに言った。エマはにこやかな笑顔を崩さずに話していたが、表情がにこやかなまま全く動かないという凄みが出ていた。
「まぁ、遅かれ早かれ、私と瞬は付き合う事になるんだから、だったら早いほうがいいかと思っただけだからどうでも良いけど…」
遥は二人のやり取りを横目にため息を付いた。
「んなわけ無いでしょ!お金以外の魅力磨きなさいよ!」
「それはちょっと違うと思います。というか、全然違うと思います」
エマとこころは一斉に遥に反対意見を言った。
「ちょっ!何なのよ。こころさんまで!」
遥は反論されたことに、納得がいかないという表情だった。
エマとこころはここの部分で引く考えは無いようで、3人が互いににらみ合う構図になっていた。
「ねぇ、やまと君、早く水島君来てくんないかね…」
「そうだね。直ぐに…早く来てほしいよ…」
ユリとヤマトは流石にこの不毛なやり取りを見るのに嫌気が差しており、東一郎の到着を誰よりも心待ちにするのであった。
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「お!?何だよ皆して集まって!珍しいな!」
いつの間に戻ってきた東一郎が睨み合う3人とヤマトとユリの近くにこつ然と現れた。
「は!?水島君!?」
エマは慌てて取り繕ったが、声が裏返った。
「お!?何だ?何だ?すげー!リフト券じゃん!スキーに行くのか?」
東一郎は前後のやり取りを知らないので、素直に聞いていた。
「そうなのよ。ねぇ!水島くんも一緒に行こうよ!やまと君も行くって!」
エマは間髪入れずに東一郎を誘った。ヤマトは返事をしていないのに、行くことになっていた。
「チョット待ってよ!水島さん!2月10日って奥州未来スキー場近くのウチの別荘を使えるから、皆で一緒に行きましょうよ!」
遥はまるで被せるように慌てて東一郎に言った。
「はぁ!?だからリフト券が2月10日って言ってるじゃん!ウチらが先に…」
エマは遮るように言った。
「ああ!!そういう事か!そうか!皆で行くんだな!」
東一郎はポンと手拍子をして笑顔で言った。
「は?」
「ん?」
「え?」
エマ、こころ、遥の3名は一斉に東一郎の方を向き返った。
「いや、だからさ、遥の別荘に皆で行くんだよな。エマとユリとこころちゃんと!んで、そのためにエマはリフト券を用意したってことだろ!」
東一郎はリフト券の「奥州未来スキー場開店記念特別招待リフト券」と書かれたリフト券を手にとって満面の笑みで見せた。
「あ…いや…ちが…」
エマが言いかけたが、東一郎が続けた。
「いや、でもさ、お前らタイプは皆違うけど、結構話したら仲良くなるんじゃないかと思ってたんだよね。だから俺としても嬉しいよ!ほら、お前らイマイチ友達少ないじゃん。お父さんとても嬉しく思うよー」
東一郎は勝手に解釈してウンウンと頷いた。
「ありがとな!エマ!」
東一郎はキラーンとした笑顔でエマにお礼を言った。
「ん…」
エマは煮えきらないままで頷いた。
「ワザワザ調整してくれたんだな遥!どうもありがとう!俺からも礼を言うよ!」
東一郎は遥に向かって同じくキラキラした笑顔で礼を言った。
「ウ…ウン…」
遥かも返す言葉がなくて、煮えきらない返事をした。
「こころちゃん!良かったな!俺も嬉しいよ!」
東一郎はこころにも同じ顔で言った。
「はい!水島さんのおかげかも知れませんね…うふふ」
桜井こころはそういって飛び切りの笑顔を東一郎に向けた。
「うふふ…じゃねーだろ!」
エマと遥は計らずも心の中で同じことを思っていたのだった。




