「雪女」リゾート
おっさん空手家の神崎東一郎と普通の高校生である水島瞬の意識が入れ替わって5ヶ月程が過ぎた1月下旬のある日のこと。
ヤマトは放課後の1年D組の教室で一人狼狽えながら東一郎の到着を待ちわびていた。
目下、彼の目の前にいるのは、
モデルもこなす1年A組の可愛い女子の三上エマと親友のユリ
完璧女子の1年B組生徒会役員の桜井こころと財閥金刺家の令嬢、金刺遥
学園内でもかなり目立つメンバーが、険悪なムードの中沈黙している。
1年D組のクラスに残っていた数名の生徒は、興味津々に様子を窺っているが面と向かって何かを言うものは誰も居なかった。
「あ、あのさ…水島もまだ来ないみたいだし、今日のところは解散ってことで…」
ヤマトは気まずい空気の中切り出した。
「はぁ!?嫌!」
「ここで待ちます」
「当然待つわ!」
エマ、こころ、遥の3名はほぼ同時に言ったので、ヤマトはそれ以上何も言えなかった。ユリは3人をジロジロと見渡すとふーっとため息を付いた。
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事の始まりは30分ほど前のことだ。
「やっほー!やまと君!水島くんはー?」
エマとユリがヤマトに声をかけた。
「やあ!エマちゃん、ユリちゃん!水島なら今居ないよ。もうすぐ戻ってくると思うけど」
「あー、ほんと。ならここで待つねー」
エマはヤマトとユリと他愛ない話をしていた。
「ねぇねぇ!見てみて!これ!ジャ~ン!」
エマはそう言ってヤマトに見せたのは、東北の奥州未来スキー場のリフト券2日分だった。それが全部で6枚あった。
「おお!凄いね!スキーとかスノボできるの?」
「ううん。私は出来ないけど、やりたくない!?」
「楽しそうだけど、難しそうだね」
「これね、事務所から持ってきたの!凄いでしょ!まぁ、2月の10日と11日の土日限定だけどねぇ〜」
「へぇ、でも凄いね!楽しそう!」
「私も全然。子供の頃、家族で行った事はあるけどね」
ヤマトとエマの会話に、突如加わりユリは少し自慢げに話した。
「で!これ!水島くんとやまと君達も行かない?一緒に行こうよ!」
「ええ!?マジでいいの?行きたい!でも、水島なんて言うかな?」
「そこはお願いします!やまと君説得してよ!」
「ていうか、2日分って泊まりで行くってこと?」
「ああ、別に日帰りでもいいんじゃない?泊まるなら泊まるでもいいけど、宿探さないとだねぇ」
「うーん、説得って言っても、アイツ極端な寒がりで、結構頑固だし…」
ヤマトは自信なさげにエマに回答した。
「ねぇねぇ!そんな事言ってないでさ!リフト券6枚あるからさ!山口あかりちゃんも誘って行こうよ!」
いたずらっぽい笑顔でコソコソとヤマトに耳打ちした。
「な、何でその事を!?」
ヤマトは一瞬で顔を真っ赤にして狼狽えた。
「ふふふ、女子の情報網舐めてもらっちゃ困るよ。うふふ。D組のちっちゃい可愛い子だよね〜」
ユリが少しゲスな顔をしながら腕組みをした。
「ねぇねぇ、そのあかりちゃんとはその後どうなの?お姉さん気になるなぁ。あんな可愛い子と君との関係!」
エマはニヤニヤしながらヤマトに迫った。
「いや、特に…たまに電話で話したり、一緒に帰ったり…」
「いやああ!青春!アオハルだぁ!」
「いいなぁ!いいなぁ!私もそういうの憧れる!」
もじもじと話をするヤマトにエマとユリは、ここぞとばかりに勝手に盛り上がっていた。
その盛り上がっている時にふと教室に二人組の女子生徒が入ってきた。
1年生にして生徒会役員を務める桜井こころと、学校にも影響力を持つと言われる地元の名士、金刺グループの令嬢、金刺遥であった。
「あの、ヤマトさん少しよろしいでしょうか?」
完璧女子の桜井こころは軽くエマとユリに会釈をしてヤマトに話をした。
エマは笑顔を崩さなかったが、少し顔が引きつって見える。隣に控える金刺遥の存在も気になっていた。
美人コンビと言われるエマ、ユリと負けずにキレイと評されるこころと遥がいる空間はとても華やかに見えるが、空気がピリッとした雰囲気に変わった。
この状況に残っていたクラスメイト達も遠巻きながら興味津々に見ていた。
ユリは興味津々に二人を交互に見ていた。




