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「勧誘」勘違い

「ああ、お前、なかなかやるんだな。悪かった。ちょっと舐めすぎた…」

東一郎は油断を解かずに低い声で言った。


パーカーの生徒は、相変わらずパーカーを深く被って小刻みにステップしていた。

先程の攻撃は、金的、鼻、顎といった急所に的しぼった連続攻撃で躊躇が全く無かった。つまり当たった時点で東一郎といえども無事で済まなかった事は間違いない。

パーカーの下から見える口元は少し笑ったように見えた。


「っち、薄気味悪いやつだな!じゃあ、挨拶代わりにこっちから行くぞ!」

東一郎は叫ぶとそのままポンと2段階ステップで、相手との距離を一気に詰めた。


東一郎は飛んで着地とほぼ同時に、下段の蹴りを高速に放った。相手はそれを見越していたようで、さっと前足である左足を後ろに引いた。

だが、東一郎はそこからさらに押し込むように、中段蹴りに切り替えていた。

距離バッチリで相手の腹部を捉えたかと思ったが、相手は直撃を避けるために腰を引いて空振りを狙ってきた。

東一郎は届かない、間に合わないと判断しそのまま大きく空振りをワザとして、360度回転すると右足を軸足にした後ろ蹴り繰り出した。


「やめろぉ!」

蒼汰が後ろから叫んでいた。


相手は両腕をクロスするようにガードして直撃を免れたが、まともにガードに当たった事で、バンと後ろに吹き飛んだ。

東一郎の後ろ蹴りはそれほどまでに強烈だ。いくらガードしたとはいえ3m位後ろにふっ飛ばされたのだ。


「おい、お前、今ダメージ逃がすために、自分で飛んだな。なかなかやるな」

東一郎は体勢を整えるようにゆっくりと近づいた。


「あとお前、スピードもテクニックも相当だが、体重がなさ過ぎる。あと身体が細すぎる。当たれば骨折られ…」

東一郎は言いかけて思わず目を疑った。


パーカーのフードが取れ顔が見えたのだ。

髪の毛はやや栗色で少し癖の掛かったのような髪を後ろに束ね、ポニーテールであり、キリッとした目と長いまつ毛、筋の通った鼻。一見するとやや童顔の可憐な女子生徒だった。

挿絵(By みてみん)

「姉ちゃん!」

蒼汰は尻餅をついたパーカーの生徒のもとに向かった。


「大丈夫か?姉ちゃん!!」

「ってー!」

ガードした腕を抑えながら、女子生徒はゆっくり立ち上がった。


「え…えぇ…」

東一郎は混乱していた。


「お前!強いな!!」

女子生徒は立ち上がると何事もなかったように東一郎の目の前にやってきた。


「ええ!?あ、いや、知らなかったんだ」

東一郎も相手が女子生徒だった事に驚きを隠せなかった。


「蒼汰!これが昨日言ってた1年生か?」

「そうだよ。姉ちゃん。彼が水島くんだよ!」

「お前、だいぶ強いな!私は柿崎そら!蒼汰の姉だ!そして空手道部の元キャプテンでもある」

女子生徒はそう言って自己紹介をした。

ぱっと見ると普通の女子高生、体つきは圧倒的なスタイルであった。グラビアアイドルでいてもおかしくないような姿であった。


「ふーん、これがねぇ…」

そう言うとそらは東一郎の身体を勝手に触り確認しだした。


「おい!!ちょっと何だよ!止めろ!」

東一郎は慌てて後ずさった。

挿絵(By みてみん)

「ふーん、気に入った!お前!強いな!私と付き合え!」

そらはそう言うと、少し伏し目がちに東一郎を見た!


「姉ちゃん!チョット待ってよ!いくら何でも早すぎだよ!」

蒼汰は慌てて姉を止めた!


「当たり前だ!何で初めて会ったやつといきなりそうなるんだよ!」

東一郎は慌てながら半ば逃げる体でドア付近まで移動していた。


「私は強い男が好きだ!お前は強い!しかも割と顔も好みだ!ということでお前しか居ない!ソレにこういっては何だが私はカワイイ!胸もある!結構モテるぞ!文句はないだろう!」

自信満々にそらは東一郎に宣言した。

挿絵(By みてみん)

「いやいや!いちばん重要な性格の要素が何で無いんだよ!」

「いや、男は強さこそが正義!女はカワイさこそが正義!世の中の摂理だ!」

「何だよその世紀末的思想はよ!あるわけねーだろ!」

東一郎は飛びついてくるそらを必死に遠ざけながら言った。


「姉ちゃん!だから早いって!まずは父ちゃん・母ちゃんに紹介を!」

蒼汰はそう言って姉を止めた。

挿絵(By みてみん)

「お前ら頭おかしいだろ!ちょっと何なんだよ!」

東一郎が叫んでいる時に道場の入り口から複数の空手道着を来た生徒が入ってきた。


「え!?これ何!?」

「あ!先輩!どうしたんですか!?」

「ちょっと大丈夫ですか!?」

道着の生徒たちは昨日の2年生で無傷であった。

道着の生徒たちは東一郎に倒されて転がっている3年の先輩たちの元に向かったのだった。


「あ、あれ?理不尽にしめられたのでは?」

東一郎は狼狽しながら言った。


「え?何のこと?しめるって??」

キャプテンは東一郎に不思議そうに聞いた。


「あれ?だって何か昨日3年に1,2年がしめられたって…」

東一郎は半ば自分が勘違している事を、疑いながら歯切れ悪く言った。


「ええ?そんな事あるわけないよ。昨日は先輩たちが練習に付き合ってくれて、君の話で大いに盛り上がってたんだけど…」

キャプテンは少し引きつりながら、周りの倒れている3年の先輩たちをみた…。


「だって、その弟は何で倒れてたんだよ!?」

「ああ、アレは昨日姉ちゃんのゼリーこっそり食べたのがバレて金的打たれて倒れてたんだよ。あはは」

蒼汰はあっさりとそう言って笑った。


「てことは、俺がこの人達を倒してしまったのは…アハハ…」

東一郎は引きつった笑いをしながら、3年の先輩たちを見た。

3年の先輩たちは、ヨロヨロと立ち上がりながら東一郎を睨みつけるのだった。


東一郎は通常部活に参加しない事を条件に、試合に出るという約束を強いられることになったのだ。彼に断る権利などもちろん無かった。

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