「財閥」対面
東一郎はおもむろにスマホを取り出すと電話をかけ始めた。
「ちょっと…誰に電話をしているのですの?」
「え?こころちゃんに決まってるだろ」
東一郎は当然という顔で言い返した。それを聞いた金刺遥は東一郎に飛びかかると、スマホを奪い慌てて通話終了をおすと携帯を投げ捨てた!
「うわ!ちょっ!お前何してんだよ!」
東一郎が慌てて投げられた携帯を追いかけた。
「ちょっと!!何考えてんのよ!アンタ!バカもいい加減にしな!」
「え?お前、ちょっと何か口悪くない?」
「はぁ!?アンタがアホな事ばっかりするからでしょ!こっちはね!この半年一生懸命お上品を演じてきたんだよ!こんなアホ相手に芝居もしきれないわよ!」
遥はもはや本来の姿を晒しているようだ。
「えぇ…逆ギレされても…てか、なんでこころちゃんと仲良くなりたいの?」
「だって完璧じゃない。私みたいなお金持ちっていうだけのステータスしか無い人間とは別の本物の魅力を備えてるわ」
「いや、前に聞いたけどこころちゃんは、彼女なりに苦労してるみたいよ」
「ふん、アナタみたいながガサツな人には分からないでしょうけど、彼女を見ているだけでとても幸せな気分になれるの」
「はぁ、そうなんだ…。でも、多分そういう趣味があるかは本人じゃないとわかんないと思う」
「はぁ!?アナタ何言っているの?別に私は女好きじゃないわよ!」
「ええ!?そうなの?もう、何なの?もう俺帰っていいか?勝手にやってくれよ」
「ちょっと!困るのよ!それじゃあ!もうここまで話したんだから協力してもらうからね!」
金刺遥はそう宣言するとぐいっと東一郎に迫った。
「私がこころさんと仲良く出来たらちゃんとお礼するわ」
「何だよ、お礼って?」
「ふふ、アナタの彼女になってあげる!」
金刺遥はそう言って堂々と宣言した。
「いや、意味がわからん。俺子供に興味ないし、そもそも水島瞬に悪いじゃん」
東一郎はそうあっさりと答えた。
「ええ!?ちょっと!!待ってよ!自分で言うもの恥ずかしいけど、私はそれなりの容姿だと思うけど、後お金もあるし」
「いや、あの、そういう人と付き合いたいって思う人割と少ないと思うぞ。悪いけど」
東一郎は眉間にシワを寄せて言った。
「信じられない!私じゃ不満っていうの?」
「あー、いや、ちょっと考えてみろよ。仮にお前と付き合っても、終始この調子でこられたら疲れる。あと多分立場が圧倒的に下になる」
「ああ、それは大丈夫。普段の私は偽りの私だから!」
「どういう事?」
「まぁ、それは追々ね。とりあえずアナタの彼女になってあげる」
自信満々にいう金刺遥を前に、
「結構です!それより来週の駅前のパチンコ屋のスロットの高設定台教えろ!それが条件だ!」
東一郎は一言そう言うと、眉間にシワを寄せて遠くの街に目線を向けた。
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「余計なことしない、気取らず普通に話せ!誰もお前のお嬢様キャラを必要としていない!」
東一郎は遥にそう言って聞かせた。
「分かったわよ…」
遥かも仕方なく同意した。
結局、東一郎は電話でこころを呼び出したのだった。
桜井こころは、東一郎からの呼び出しに応じて直ぐに二人がいる場所にやってきた。
そして金刺遥と一緒にいる東一郎を見ると一瞬驚いた表情をしたがその後は普通に話し始めた。
「水島さん、それに金刺さんどうしたんですか…」
やや困惑の表情を浮かべつつこころは言った。
「あー、こころちゃん。悪いね。あー、なんつーか、この金刺さんがさ、こころちゃんと話をしたいんだって…」
東一郎はなんと言えばよいか分からず、奇妙な紹介をした。
「ごきげんよう。桜井さん」
「いや、普通に話せよ!何なのお前!?ごきげんようって何?お昼の番組!?」
「はぁ!?何いってんの?普通に話すってどうやれっていうの?」
「いや、だから普通に話せよ!何なんだよそのお嬢様キャラ!それいらん!」
「本当にお嬢様なんだから仕方ないじゃない!ちゃんとフォローしなさいよ!」
遥と東一郎はヒソヒソ声で互いに文句を言った。
「あー、あの桜井さん、私のこと知っているかしら?」
「はい。知っていますよ」
「私は、金刺遥。あの金刺グループの…」
「それいる?おまえの家の事なんてどうでも良い!」
東一郎が途中で口を挟んだ。
「私の家の車は5台ほどありまして…ほとんどが外車で…」
「おい!」
「毎年家族で海外に旅行に行くんですよ。今年はパリ…」
「おい!」
「冬になると、スキー場近くの別荘で…」
「おい!興味もないのにお前の自慢話を聞かされる身にもなれ!」
「はぁ!?私のこと紹介しているだけでしょ!」
「紹介の仕方がスネ夫と一緒だ!自覚を持て!自覚を!」
「うるさいわね!だったらアナタが紹介しなさいよ!」
東一郎と遥は小声で言い争った。
「お前のパーソナリティーだよ!」
「私のパーソナリティ?」
「そうだよ。例えば何が好きで!趣味は何で!普段はこうして過ごしているとか!」
「そうね、私は馬が好きで、趣味は乗馬で、普段はウチの管理する牧場で過ごしているわ!」
「何だよその自己紹介!なんだお前!?調教師かよ!?ワザと言っているだろ!」
「ちょ!何でとめるのよ!意味分かんない!」
「ふざけるな!サポートも何もねーだろ!どうやって友達になろうってんだよ!?やる気あるのか!?」
「アナタがいちいち邪魔するからじゃない!」
東一郎と遥は桜井こころが目の前にいるにも関わらず、言い争いを始めた。
「あの…」
桜井こころは不意に声をかけた。
「金刺さんの事、私もよくわかりません。慌てなくて良いのでゆっくり話しませんか?私も仲良くなりたいです」
そう言うとニッコリと笑った。
天使がいるとしたら、こういう子の事だろうと、遥も東一郎も思った。
金刺遥はよほど嬉しかったのか、桜井こころの手を取ると涙ぐんでいた。




