「財閥」勘違い
「まだ怒ってんの?エマのやつ。何にそんなにキレてんの?」
東一郎はやや呆れ気味にいった。
「水島くんも相当だね…」
ユリは呆れた顔で言った。
その場にエマは居なかった。先日の保健室での出来事以来、ほぼ毎日のように来ていたエマはパタリと顔を見せなくなった。
と言っても、ユリが来ているという事は、どうやら単独行動をしているようだ。
ユリいわくモデルの仕事が入っているからクリスマス前は仕事モードとのことだ。
一方で金刺遥はあの日以来、東一郎の前に現れなかった。
金刺遥が東一郎によって保健室に運び込まれた時に、取り巻きの一人が大騒ぎした事で学校中が騒然となった。
もはや渦中の人と言っても過言でもない二人の接触は確かにやや難しい状況とも言えた。
東一郎は元々そんなに深くものを考えるタイプでもなかったため、金刺遥のことを意識する事は結構早い段階でなくなっていた。
「水島さん。ちょっとよろしいかしら?」
冬休み直前午前の授業のみ出席し、放課後に学校近くのコンビニエンスストアに向かおうとした東一郎の前に、現れたのは金刺遥であった。
「おお、何か久しぶりな感じだな」
東一郎は無理やり引きつった笑顔を作って答えた。
「少しお話したいことがあるので、お時間よろしいかしら?」
金刺遥はそう言って東一郎の目の前にやってきた。その極端に近い距離感と圧倒的な存在感に東一郎は思わず後ずさった。
「な、何だよ?俺は何もしてないぞ!」
「それはあなた次第です。あの時私が襲われたという事も可能ですわ」
「いやいや、勘弁してくれよ。ただでさえ誤解を解くのが大変だったんだから」
「まぁ、それは冗談です」
「いや、笑えないって。あといつもの凸凹コンビはどうしたんだ?喧嘩でもしたのか?」
「彼女たちにはちょっと聞かれたくない話ですので…」
「はぁ、で?俺に何の用?お前の家のことで大変なのは分かるけど、俺にはどうにもならないぞ。大体1高校生の俺に何ができる分けないだろ」
東一郎は両手を広げて言った。
「は?私の家がどうかしたのですか?」
「え?お前家のことで悩んでたんじゃないの?そんであんなにボロボロになるまで心を病んでたんじゃないの?」
「え?先週のアレは私がインフルエンザだったことですか?」
「!? え?インフエンザ??」
「病み上がりで立ちくらみしただけですけど…」
「な、何だよそれ!え?じゃあお前、俺に何聞きたいの?」
東一郎はアテが全く外れたことで逆に混乱した。
「私が聞きたいのは、桜井こころさんの件です。あなた達は…その…お付き合い…しているのですか?」
少しモジモジしながら金刺遥はいった。
「はぁ?何だそれ?あ!思い出した!お前なんかこころちゃんの邪魔しようとしてたんだって?」
東一郎はふと思い出していった。
「えぇ?そんな訳無いでしょ!バカじゃないの!?」
遥は慌てて否定したせいか、いつもの言葉遣いではなかった。
「え…?」
東一郎は一瞬戸惑った。
「あ…、ち、違いますわよ。私がそんな言葉言うはずありませんわ!ほほほ」
遥は慌てて取り繕った。
「…まぁいいけどさ、で?こころちゃんの何が知りたいのよ?俺だって大して知らないけどな…」
「それでも、彼女が他の男子生徒と話している姿を見たことがありませんわ。あなたは特別に思えましたの」
「いや、そう言われても、実際別に普通に話すだけだし…」
「いえ!あなたと一緒にいる時のこころさんは、とても楽しげで明らかに違いますわ!」
「えぇ?そうなの??そんな風に思えないけど…?」
「いいえ!間違いありませんわ!こころさんをずっと見ていた私が言うのですから間違いありませんわ!」
「おいおい、怖いよ。お前そんなに選挙負けたこと根に持ってんの?次頑張りゃいいじゃねーか?」
「根に持つ?あなた何言っているのかしら?」
「はぁ?だから、選挙で負けてこころちゃんを恨んでいるから、その彼氏候補に見えた俺に嫌がらせした来たんだろ?」
「え?何を仰っているの?私が何故こころさんを恨むのですか?」
「ん?え?違うの?」
「ぜんぜん違う!バカじゃないの!?」
遥は勢いよく東一郎に悪態をついた。
「お前、ちょくちょく口悪いな…」
「そ、そんな事ありませんわ。ほほほ」
「いや、今更…ほほほほ…言われてもなぁ…」
「私は育ちが良いものですからね。おほほ」
「えー?漫画とかのキャラ並みに何か変なんですけど…」
「うるさいわね!さっさとこころさんの事を教えなさいよ!」
遥はだんだんなりふりかわまわない言い方になってきた。
「教えろって何をだよ?大体お前何がしたいの?」
「それはもちろん!こころさんと友達になりたいのよ!!」
遥は勢いよく言った後に、赤面した。
「え?友達?」
東一郎は短く聞いた。遥は黙ったまま大きく頷いた。
「は?ナニソレ?恨んでるってのは?」
「だから、何で私が恨むのよ!」
そう言うと遥はくるりと東一郎に背を向けて話し始めた。
「私はね。入学当初から彼女が気になって仕方なかったの。だって明らかに輝きが一人だけ違うんだもの。だから、彼女の気を引くことは何でもやったわ。生徒会選挙に出たのも彼女に私を知ってほしかったから!別に恨むとかありえないんですけど!」
遥はまるでセリフを言うかのように一気に話した。
「えぇ?じゃあ、本人に言えばいいじゃんか。友だちになりましょう?マドモアゼルって…」
東一郎は面倒なやつに関わってしまったことに改めて気がついた。
「できるはずないでしょう!だって私は超シャイ何だから!恥ずかしいじゃない!」
「いや、お前…よく言うなそんな事…超目立ってるっての…」
東一郎はうんざりしながら思わず天を仰いだ。




