「財閥」誤解
「水島さん、ひとまずお礼を言っておきます」
金刺遥は別途から上半身を起こして東一郎を睨みるけるように言った。
「あ、おお…誤解が解ければ俺はそれでいいけど…」
東一郎はひとまず言われもない罪を着せられずに済んだことに安堵した。
「金刺さんあなた、先週ずっとお休みしていたのは?風邪でも引いていたの?」
養護教諭の里美はやんわりと聞いた。
「はい。その…インフルエンザになってしまって…熱も下がったしもう大丈夫と思って来たのですが、途中でめまいがして…」
遥はそう言って里美に答えた。
「ほらほら!俺がいなかったら逆にやばかったくらいじゃねーの?」
東一郎はやや呆れ気味に言った。それから取り巻きの二人を一瞥した。
「あの、先生この事は家には言わないで貰えますか?」
遥は里美に不意に懇願するかのような言い方をした。
「え?どうして?ちゃんと親御さんにも言わないと…」
「変に心配してしまうので、そしたらまたお休みさせられてもう冬休みになっちゃうから…」
「そう…。じゃあ、倒れたなんて言わないけど、少し体調を崩してって事にしましょうか」
里美はそう言って金刺遥の額にまた手を当ててニッコリと笑った。
遥は真っ赤な顔をして下を向いた。
「あのさ、こんな時に聞いていいか?」
東一郎はやや申し訳無さそうに遥に聞いた。
「何かしら?」
「ああ、そのなんつーか、お前が休んだ原因って俺関係ないよな?」
「何故?水島さんが私をインフレンザにしたのですか?」
「いや、そんな能力はないよ。ただ、ほら前にちょっとやり合った直後に学校休んだみたいだからさ…」
「少しは反省してもらえましたか?」
「いや、反省っていうか、俺悪くないし…まぁ、ちょっと言い過ぎたかも…」
「水島さんは関係ありませんよ。病気になったのは私ですし」
「あと、何か…家のことで色々と噂っていうかネットにも書かれたとか…」
「ああ、そんな事ですか…いつもの事ですよ。気にしてません」
遥はそういうと少しだけ辛そうな顔をした。
「まぁ、俺も悪いところもあったかもだから、何か聞きたかったんだろ?俺に?」
東一郎は立て続けに言った。
「はい。そこまでにしましょう!まずは身体をゆっくり休めること。お家には連絡しておいたけど、迎えをよこすって言って…」
養護教諭の里美は遥に言いかけた。
「あの先生、いつものところで待つようにいいますので…」
遥はそう言って直ぐに電話を掛けた。
「いや、校舎の目の前に来て貰えばいいじゃんか」
東一郎はやや腑に落ちない表情で言った。
「そうよ。せっかくだから近くまで来てもらったほうが…」
里美が言い終わらない内に、遥は誰かに電話をしていつものところで待つように伝えていた。
「ありがとうございます。でも良いんです。私にはそっちのほうが…」
そう言うと足取りも割としっかりと立ち上がると里美に深々と礼をした。
「水島さん、今度改めてお話させてください」
そう言うと取り巻きの遠野、近藤の二人とともに金刺遥は保健室を出ていった。
東一郎はほぼ空気のような状態で、金刺遥を見送った。
「さぁ。お疲れさまでした。遅くなっちゃったね。水島君」
養護教諭の里美は東一郎に言った。
「ああ、先生。ちょっと聞いていい?」
東一郎は真面目な顔をしていった。
「はい?別に構わないわよ。どうしたの?」
「里美先生って…今いくつ?」
「…」
里美は少し驚いた表情をしてからまたにっこり笑った。
「君よりはお姉さんであることは間違いないわ。女性に年齢を聞くのは失礼ね。ふふふ」
里美は余裕な笑みを見せた。
「あー、先生、それちょっと違うんだな。うーん、俺の予想だと28?29くらい?」
東一郎は悪びれもせずに聞いた。
「うーん、惜しいかな。でもありがとう!若く見てくれるのね」
里美は少し笑みを含んで答えた。
「えー?マジで?もうちょい上か!先生童顔じゃないのに、若く見えるね!流石は保健の先生、肌も髪もキレイじゃん!モテるでしょ?」
東一郎は椅子に座り込んで言った。
「残念。モテないんだな。でも、嬉しいこと言ってくれじゃない」
里美は思わず吹き出しそうになりながら言った。
「いや、マジでマジで。俺、先生みたいな飾らないけど、所作が女っぽい人憧れちゃうんだよね」
東一郎は敢えて真剣な顔で里美にいった。
「うふふ。私ったら高校生に口説かれちゃってる気分だわ」
里美の少し明るい色でカラーリングされたきれいな髪をふわっと押さえながら笑った。
「いや、口説くなんてそんな事ないよ。でも学校に来る楽しみ増えたかも?あー、でも結構俺、頑丈だからあんまり保健室に来る機会無いかなー」
東一郎は腕を頭の後ろで組んで言った。
「そう、でも…後ろの子達が機会作ってくれるかも…」
里美はそう言って手のひらを後ろに向けた?
東一郎は回転する椅子をくるりと回して後ろを向いた。
バシッ!
東一郎は振り向きざまにいきなりビンタを喰らった。
不意を突かれた東一郎はそのまま椅子から転げ落ちた。
「心配して来てみれば…バッカじゃないの!」
エマが叫ぶとそのまま保健室を飛び出していった。
「水島…お前が悪い…」
「さいてー」
ヤマトとユリは呆れ顔で東一郎を見ていた。
「え!?お前らいつの間に…てか、いつから…」
東一郎は完全に油断していたようで、かなりバツの悪い顔をしていた。
里美は面白そうにその様子を遠目で見ながら、日誌を取り出し何やら書き込み始めた。
クリスマス前の冬の日のこと、外の空気は思った以上に冷たかった。