「財閥」発見
約一週間ぶりに現れた金刺遥はやつれた顔をしていた。
それを見た学園中の生徒たちは、只事ではないと噂をした。
遥は間もなく冬休みに入る直前の2学期末のテストすら一部受けられないという自体に、只事ではない彼女の身の上をある者は好奇の目で、ある者は哀れみの目で見ていた。
彼女の家に起こった危機は、娘の通学に影響を及ぼすほどの大事なのだろうか。多くの生徒達は好奇心を持って事態を見守った。
「とりあえず、謝ったほうがいいよ」
ヤマトは東一郎にそうアドバイスした。
「何を謝るんだよ!?俺は何も悪くない!」
「いやー、でも水島君と”やりあった”直後から不登校だからね…」
「おい!!言い方おかしい!」
東一郎は口を出してきたユリに強めに言った。
「とりあえず、事情だけでも聞いてきたら?」
ヤマトは東一郎に諭すように言った。
「別にいいんじゃない?突っかかってきたのは金刺さんなんでしょ。水島くんが行く必要なくない?」
エマはずっと黙っていたが、静かに言った。
「ふーん、エマちゃんは水島くんを庇ってるのかな?それともお嬢様とお近づきになるのが困るのかなー」
ユリはエマをからかうように言った。
「はぁ!?アンタ何いってんの!!」
エマはユリの髪の毛を掴もうとして飛びかかったが、ユリはすっと身を引いてエマの手は空を切った。
入学以来カワイイを全面に押し出してきたエマだったが、ユリに対しては昔から本音であることがほとんどだ。
「まぁ、そのうちな。気が向いたら聞いてみるわ」
東一郎はそう言って手をひらひらと振った。
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「いや…なんつーか…その…元気?」
”そのうち”がその後すぐに巡ってきた東一郎は、珍しく狼狽しながら金刺遥に聞いた。
「この姿が元気に見えまして?」
膝をつき息が荒い金刺遥は睨むように東一郎に答えた。
昼の休憩時に校外のコンビニに買い物にでかけた東一郎は、たまたま通りかかった道端にうずくまる女子高生を見つけ声をかけた結果、この状況になた。
「ちょっと!!何をしてるの!?」
背の低い取り巻きがそのシーンを見て声を上げた!
「いや!ちょっと待て!違う!違うぞ!!お前の思っているのとは違うぞ!」
東一郎は慌てて否定したが、背の低い取り巻きは金刺遥と東一郎の間に割って入るとキッと東一郎を睨みつけた。
「遥さんに何をしたんですか?人を呼びますよ!」
背の低い取り巻きは低い声で東一郎に言った。
「何もしてないっての!俺が来たときにはもう…!ていうか、おい!!お前からもなんか言ってやれ…」
と、東一郎が言いかけた時、金刺遥はそのままその場に倒れ込んでしまった。
「遥さん!?遥さん!!?」
背の低い取り巻きは慌てて金刺遥を抱きかかえた。
遥はぐったりとしていて、意識が無いようだ。
「おい!!とりあえず保健室まで運ぶぞ!」
「いやあああ!遥さんに触らないで!!誰か!!誰かあ!!」
「ちょ!ちょっと待て!マジで違うって!!」
「誰かぁ!誰かあああ!!いやあああああ!」
悲鳴をあげ、東一郎に罵声を浴びせる背の低い女子高生を伴い、保健室に金刺遥を抱きかかえ運び込む東一郎は、ヒーローに見えたのだろうか?悪者に見えたのだろうか?
あまり考えたくない結果であろうことは予想がついた。最後は絶望と諦めに似た気持ちで保健室の扉を開けたのだった。
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「あら?目が覚めたのね?」
金刺遥は目を覚ますと、そこは学校の保健室であった。
保険担当の養護教諭はそう言って、遥の額に手を当てたひんやりした手は心地よかった。母親の居ない遥にとって少しドキッとした。
「遥さん!大丈夫ですか!?」
「平気ですの?大丈夫ですの?」
2人の女子生徒が涙ながらに遥の手を取った。
「ええ、どうもありがとう。大分良くってよ。遠野さん、近藤さん」
金刺遥はそう言って、二人の手をそっと取った。
「よかった…本当にどうなることかと…」
背の低い女子生徒はそう言って、涙ながらに遥に言った。
「遥さん、本当にこの人に何もされていないのですよね!?」
背の高い女子生徒はそういうと東一郎を指さした。
「ちょっと、説明してくれよ。コイツラが俺を疑ってるんだよ」
東一郎はそう言って金刺遥に言った。
遥は一瞬きょとんとした顔をしてから少し考えてから話しだした。
「わかりました。あなたが私にした事は問いません。あなたもまだ若く、やり直す機会は必要でしょうから…」
「ちょっと待て!その言い方やめてくれる!?何か俺がなにかやったみたいに聞こえるから!!」
慌てて東一郎は遥に反論した。
「でも、あなたが私に浴びせた暴言と言われもない言いがかりは、決して忘れることは…」
「いや!違う違う!それじゃない!今日だよ!さっきの事!」
「さっき?さっきとはいつの事です?あなたは私になにかしたのですか?」
「するはずないだろ!おいおい!覚えてないのかよ!?」
「水島さん…ひょっとしてアナタが運んでくれたのですか?」
「そりゃしょーがねーだろ。他に誰も居なかったし、いきなりぶっ倒れたんだから…」
東一郎は背の低い女子生徒を横目に見ながら言った。
金刺遥はそれを聞いて、顔を真赤にして下を向いてしまった。
「あなたやはり遥さんに!?」
二人の取り巻きは、般若のような顔になった。
「それは大丈夫ですよ。二人共。金刺さん、あなたはまだ体調が優れないのに学校に来たでしょう。無理をしてはいけませんよ」
微笑みながら養護教諭の小倉里美は言った。
「ほら!里美ちゃんもそう言っているだろ!ねぇ!もっと言ってやってよ」
こころなしか楽しげに見える東一郎を見て、金刺遥は不愉快な気分になった。




