「財閥」遠因
「え?ナニコレ?ちょっとマジウケる!」
ウケるといいつつ、エマの顔は一切笑っていなかった。
「あの、少しよろしいでしょうか」
桜井こころは、東一郎に話しけ掛けた。
「おう!こころちゃん!元気してた?」
東一郎は親しげにこころに話しかけた。
その姿をすごい目でエマが目で追っている。
「ああ、前にね海岸清掃ボランティアで一緒になってね」
ヤマトはすっとエマの目の前に身体を入れ込むようにして立った。
エマの敵意がこころに伝わらないように気を使ったのだ。
「てか、ちょー意外なんですけど、水島くんと委員長ちゃんって…何か対極って感じで…ふふふ」
ユリはどうやらエマの心情を知ってか知らずか思わず笑いだした。
「いえ、私は生徒会役員であって、クラス委員長ではありません」
こころは落ち着いた物言いでユリに向かって言った。
ユリはなにか言いたげだったが、何も言わなかった。
「ま、まぁまぁ!で、桜井さんどうしたの?」
東一郎がこういった事に役に立たないのを薄々感じていたヤマトは再び割ってはいった。
「実は…金刺さんが水島さんに話に行くって聞いたので…」
「ああ、その事。いや別にそんなの気にする必要ないよ。俺は関係ないし」
「実は私が原因なのかも知れないです」
「!?」
そこに居た一同皆驚いた顔をした。
「え?なになにどういう事?」
先程まで不機嫌そうな顔をしていたエマは楽しげに食いついてきた。
モデル業をこなすエマと正統派容姿端麗の桜井こころが二人揃うと見た目には、非常に華やかな場になる。だがそれぞれの心情は全く同じ方向は向いていない。
ヤマトだけでなく、ユリも流石にあからさまなエマに少し引いていた。
「実は9月にあった生徒会の選挙の時なのですが、1年生から立候補したのは私と金刺さんの2人だけだったんです」
こころは当時の状況を話しだした。
「結構接戦になったのですが、私が得票で上回りました。結果私が当選、彼女が落選する事になったのです。それ以来何かに付けて、私に対してライバル心というか、張り合おうとしているみたいなんです…」
こころは伏し目がちに過去の結果を話した。
「ああ、あれじゃない?やっぱりほら、かわいさで言ったら、委員長ちゃんの方がちょっとだけ上じゃん、だからだよきっと」
エマは冗談を交えつつも、あからさまな敵意を含んでこころに言った。
「恐らく容姿の優劣はあまり影響していないと思います。私の主張が投票する生徒により響いたということだと思います」
こころは真っ直ぐな目で東一郎に言った。
「カワイさを否定しないんだね…」
エマは自分の意見を真っ向から否定されて不機嫌さを隠さずブツブツと独り言を言った。
「ふーん、で、それがどうして俺に関係あるの?」
東一郎はいまいち要領を得ずこころに聞いた。
「はい。それで最近、水島さんや望月さんと一緒にいる所を見たとか、話をしている所を見たって言うのをどうやら誤解したらしくて…」
こころはそう少し伏し目がちに言った。
「はぁ!?ナニソレ?全然見たこと無いんですけど、てか話してるのすら知らなかったんですけど!!」
何故かエマが桜井こころににじり寄った。
「その…私と水島さんがたまたま話しているのを見て、誰かが誤解してそれが金刺さんに伝わったみたいなんです…」
こころは心苦しそうに言った。
「えー?俺とこころちゃんが話している所?いつの事だろ?」
東一郎は考え込むように言った。
「……。」
ヤマトは知っていたが、敢えて何も言わなかった。
当人たちは特に意識せずに居たのだろうが、東一郎は遠くでこころを見かけると、手を振ったり近くですれ違うと直ぐに声をかけていた。
クールビューティーと呼ばれる桜井こころが男と親しくしている。しかもそれがイケメンで、且つ最近やたらと学校で目立つ存在の水島瞬(東一郎)だという事で、誤解を与えるに十分なシチュエーションがいくつもあったのだ。
「で、何を誤解してるんだろうな?」
東一郎は何も思いつかずに天を仰いだ。
「そ、それが…私と水島さんが、その…お付き合いするかもって…」
櫻井こころはうつむきながら顔を赤らめそう言った。
「へーそうなんだ…。何でそうなるのかね」
東一郎は全く驚く様子もなく言った。隣でエマが眉間に深いシワを寄せていた。
「ちょっと…何なのよ!それ!ぽっと出の委員長ちゃんが、水島くんと付き合うとか笑っちゃうんだけど!」
エマにいつもの余裕がないのが、相手が頭脳明晰、容姿端麗、スポーツも万能な生徒会役員の「完璧女子」桜井こころだからであろう。
隣で見ていたユリとヤマトは少しだけエマに同情した。
「ええ。なので誤解なのに、水島さんにご迷惑をおかけしてしまって…」
こころはそう言って頭を下げた。
その場にいる全員、何かを言いたげなのだが、何も言い出せなかった。




