「財閥」金刺遙というお嬢様
おっさん空手家の神崎東一郎と普通の高校生である水島瞬の意識が入れ替わって4ヶ月程が過ぎたある日の事。
「ちょっと水島さん!遙さんが用事があるって仰っているわ。少しお時間頂けないかしら?」
3人組の女子生徒が東一郎の前に現れたのは、放課後人もまばらな教室でのことだった。
「は!?え?何?俺?」
帰り支度をして帰る寸前だった東一郎は混乱した。突然現れた女子生徒3人にいきなり囲まれたからだ。
中央にいる女子生徒を中心にまるでフォーメーションを組んでいるようだ。
「ちょっと水島瞬!少しお話したい事があるのよろしいかしら?」
中央の女子生徒は、まっすぐ東一郎を見据えて堂々と言った。
長い髪は少し明るいカラーリングがされており、毅然とした態度は整った顔立ちと相まって高圧的な印象さえ与えた。
「はぁ?何いってんのお前?誰だよ?」
東一郎はいきなり高圧的な態度で迫る女子生徒に、眉をひそめながら立ち上がった。
教室に居た生徒はその異変を感じると、慌てだした。
「おい、あれって確か…」
「ああ、そうだよな。例の…」
「うわー、水島もエライのに目を付けられたな」
「この学校の影の支配者ともいわれる、金刺の…だろ。あれ。」
「なんか、アイツに逆らうと学校に居られなくなるって噂だぜ」
「ほら、前に目を付けられたっていう5組の生徒、退学に追い込まれたって…」
「親がとんでもない額の寄付金入れてるから、学校も文句言えないらしいぜ」
「家が敵対した生徒どころかその親すら潰すらしいぜ」
「うわー、関わりたくねー」
クラスの生徒たちは小さな声で、そんな話をして巻き込まれた東一郎を憐れんだ。
「水島!相手が悪い!ちょっと抑えて!」
突然ヤマトが割って入ってきた。
「何だよヤマト!誰これ?」
東一郎は3人組の女子生徒を親指で指した。
「私はアナタに用があるの水島瞬!」
高圧的な女子生徒は尚も東一郎にそう言って詰め寄ってくる。
「はあ?こっちは用なんてねーよ!邪魔だ!どけよ」
東一郎は高圧的な態度に腹を立てて女子生徒の前に敢えてたった。
「ちょっと!アナタ!無礼じゃない!この方をどなたか分かっているの?」
3人組の女子生徒の背の低い生徒が言った。
「この方は、この地域の名家中の名家、金刺家のご令嬢よ。アナタも聞いたことあるでしょう!金刺グループと言えば、不動産、ビル管理、飲食店、アミューズメント関連企業の大グループよ。この街に住んでいる人は少なくともお世話になっているんじゃない?アナタの親御さんもね!」
隣に控えていた背の高い生徒が言った。
「さあ、水島瞬!分かったでしょう。ちょっといいかしら?」
勝ち誇った顔で、金刺遥は東一郎の前に立ちはだかった。
三人の立ち姿はまるで戦隊ヒーローの登場のような立ち方であった。
クラスメイト達は、強引な自己紹介を見せつけられ違和感を覚えつつも戦慄した。彼らに逆らって無事であったという噂を聞かない。皆なるだけ関わらないように生きていたはずだからだ。
「な、なんか…お前ら痛いな…ちょっと怖い…」
東一郎はそう言うとバッグを片手で持ち上げると、ヤマトに目配せしてからササッと教室から出ていった。
まさかそこに居たメンバーが、彼女らを無視して出ていくとは思っていなかったらしく、ヤマトも含め皆唖然とした。
「あ、えっとー、じゃあ、ちょっとすみません」
ヤマトは彼女らに会釈して立ち去ろうとした。
「ち、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「まちなさよ!」
「ふざけるんじゃありませんわ!」
三人組は口々に声を上げると、東一郎を猛然と追いかけだした。
それを感じた東一郎は猛ダッシュで教室から離れていった。
その場に取り残されたヤマトは、残っているクラスメイト達と目を合わせたが、誰も言葉を発する者は居なかった。
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「ちょっとまずいんじゃないか?」
翌日の昼休みヤマトは東一郎に言った。
「はぁ?何が?なんかあったっけ?」
東一郎は何のことだか分からずに、呆けた顔になった。
「ええ。水島くん、金刺さん達と何かあったの?あの子達何かすごい勢いで絶対捕まえるって息巻いてたよ」
エマとユリが昨日の騒動を聞きつけて、探りを入れてくれたようだ。
「いや、そりゃ焦るだろ。いきなり現れて「アナタ?よろしいかしら?」って言われて、バーンって宝塚みたいなのに目の前に立たれてみろよ。普通ビビるだろ」
東一郎は昨日の騒動について、自分は悪くないと言わんばかりだった。
「でも気をつけなよ。あんまりいい噂聞かないよ。あのお嬢様。親に言って何でも買ってもらえる超ワガママ娘なんだってよ。その延長で裏でやりたい放題らしいよ」
ユリは顔をしかめて真面目に話をした。
「はぁ?何だよそれ?くだらねー。ガキのワガママでできる範囲なんてたかが知れてんだろ?」
東一郎はほとんど意に介してい居ないようだ。
「いや、でも本当らしいよ。うちのクラスの子が、外国留学の選抜鉄ストに受かって交換留学で10月からアメリカに行く予定だったらしいけど、あのお嬢様の機嫌を損ねたとかで、希望のアメリカじゃなくて、ぜんぜん違うイギリス留学に切り替えられたって噂よ。元々アメリカの芸術文化に触れたいっていう希望で受験したのに、イギリスに急に変えられて本人もショックだったんじゃないかな…」
エマはまるで自分が被害にあったような言い方だった。
「とにかく、話だけは聞いてみたら?別に悪い話じゃ無いかも知れないじゃん」
ヤマトは東一郎に言った。
「いや、俺は普通に話しかけられたら普通に話すよ。誰でも。でも何だアイツラのあの人を見下したような態度は?あんな奴らと関わる時間すら勿体ない!嫌だね」
東一郎はフンとハナで息をして腕組みした。
「変なところが子供だよな…」
ヤマトは少し呆れ気味に言った。
丁度そこに一人の女子生徒が現れた。
生徒会役員の「桜井こころ」だった。
そこに居たクラスメイトはもちろん、エマとユリも意外な組み合わせに驚いたのだった。




