「完璧」炊き出し
清掃開始後2時間が経ち、11時になる頃には大半の生徒が戻ってきていた。
生徒たちを待っていたのは、生徒会役員が準備した「おしるこ」と「豚汁」だった。
寒空の下、生徒たちは炊き出しに群がった。
生徒会の役員で本日の清掃に参加したのは10名程度であったが、1年生は櫻井こころ一人だけであったため、彼女は気を使って多くの役割を買って出ていた。
炊き出しの準備、買い物、清掃用具の準備に至るまでその多くを彼女が中心的に担っていた。
炊き出しなどの準備に桜井こころは前日の夕方からかかりきりで準備をした。豚汁の下ごしらえをして、今日のための準備をして、確認作業を何度も行った。
炊き出しのお汁粉と豚汁を作るのも、その中心的な役割を彼女が果たした。
彼女は炊き出しのお汁粉や豚汁を配りながら、忙しく動き回っていた。
大半の生徒は戻ってきたのだが、30分近くに過ぎても東一郎とヤマトは帰ってこなかった。
東一郎とヤマトが帰って来ないのに何となく気がついたこころは、あたりを見渡すと遠くから2人が帰ってくるのが見えた。
「オー!マジで!?お汁粉あるじゃん!豚汁あるじゃん!」
東一郎は炊き出しの存在を見るとゴミをごみ置き場に投げ捨てると、喜々として駆け寄ってきた。
ところが中身を見ると、その殆どがもう無くなりかけていた。
豚汁の具材は殆ど残っていなかったし、お汁粉の白玉は一つもなかった。
「あの、すみません。ほとんど無くなってしまって」
桜井こころはそう言って落ち着いたトーンで謝った。
「あ!!君はさっきカイロくれた子だよね!すげー助かったよ!あれ無かったら凍死してたよ!」
東一郎は寒さのせいか嫌にテンションが高かった。こころに対して高いテンションのままお礼を言った。そしてお汁粉の汁だけを受け取ると、フーフーと息を吹き付けながら、お汁粉の汁を飲み始めた。
「あ!抜け駆けしたな!」
ヤマトは笑いながら、お汁粉の汁を受け取るとゆっくりと飲み始めた。
「お!豚汁もあるなら豚汁もちょうだいよ!」
東一郎はお汁粉を飲み終えると、豚汁を貰いに行った。
豚汁も殆ど残っておらず、紙のお椀に一杯分の豚汁の汁のみを貰ってきて喜びながらそれを飲んでいた。
「あの、すみません。ちゃんとしたのをお渡しできなくて…」
桜井こころは東一郎とヤマトの所に来て謝った。
「え!?なにそれ?だって遅く来たのは俺らじゃん。君が謝る必要なくね?」
東一郎は不思議そうな顔をしてこころに言った。
「え、でもそうは言っても…」
こころは少し困惑しながら言った。
「そんなことより!このお汁粉も豚汁も最高だね!超美味しいよ!君作ったの?」
「え、はい。私だけじゃないですが、生徒会で作りました」
「そっかあ!ありがとう!汁だけでこれだけ美味しいんだから、中身があったら相当美味しかったんだろうな!なぁ、ヤマト!」
「そうだね。寒い中で食べるから別格に美味しいね!」
東一郎とヤマトは相変わらずのハイテンションで話をしている。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
こころはそう言って、東一郎とヤマトに頭を下げた。
彼女の落ち着いたトーンと、東一郎のテンション高いトーンはとても対照的であった。
「いやいや!こちらこそどうもありがとう!」
東一郎は立ち上がって慌てて頭を下げた。
桜井こころは、キョトンとした顔をした後、頭を下げると元の場所に戻っていった。
「あの子、あんだけ美人なのに本当に愛想は無いね。だからクールビューティーなんだろうけどね」
ヤマトは東一郎に何となく言った。東一郎は何も答えなかった。
「まぁ、やることやったし、もらうもん貰ったし、帰るか?せっかく温まったから温かい内に帰ろうぜ」
東一郎はヤマトにそう促した。
11時以降は炊き出し以降は自由解散であったため、殆どの生徒は残っていなかった。
ヤマトと東一郎は帰り支度を始めた。