「初恋」パフェと3人
映画館までの道のりは、それほど遠くはないのだが、歩いていくとなるとそれなりに時間がかかる場所にある。
ヤマトとあかりは街を散策しながら、歩いていくことにした。
あかりは道行く店や景色を見ながら、フラフラと立ち寄っては、ヤマトに感想を言った。
ヤマトは戸惑いながらも、二人で歩く道のりがとても心地よく感じた。
「ねぇ、やまと君これ知ってる?」
あかりは道の途中にあったコーヒショップの傍らに貼ってあるポスターのデザートのお化けみたいなパフェを指さした。
「いや、なにこれ!?ちょっと大きさヤバくない?」
ヤマトは呆れ半分であかりに言った。
「ねぇ?お昼ごはんって食べた?」
そう言うとあかりはニヤリといたずらっぽい笑顔をヤマトに向けた。
「いや、軽くしか食べてないけど…まさかこれ?」
ヤマトは引きつった笑顔で、あかりに言った。
二人の前には巨大なパフェが置かれた。
「な、なんか凄いね…」
ヤマトは思わず怖気づいた。
「ちょ、ちょっと予想より大きいかも…」
あかりも実物を目の前にして少し怯んでいるようだ。
「とりあえず、食べようか…」
ヤマトは引きつったままであかりに言った。
「あ、ちょっと待って!」
あかりはそう言うとスマホを取り出すと、巨大なパフェの写真を撮り始めた。
「山口さんも写真撮るんだねぇ…」
ヤマトは思わず吹き出しそうになっていった。
「な、なんで!?悪い?私だってたまにはインスタに上げたりするもん」
あかりは少し焦ってヤマトに向かって言った。
少し頬を赤くしたあかりはとても可愛らしく見えた。
同じカフェの反対側
「オレ絶対に無理!」
東一郎は巨大なパフェを目の前に、青ざめていた。
「いや、私一人で行けるから大丈夫!」
エマはニヤリと東一郎を見た。
「いや、私もお金出してるんだから私も食べるわ!」
ユリはエマに文句を言った。
「水島くんは甘いの苦手なの?」
エマはパフェをパクリと食べながら言った。
「いや、苦手じゃないけど、この量は異常だろう!流石に気持ちく悪くなるよ」
東一郎は巨大なクリームたっぷりのパフェの小分けのお皿をもらって上に乗っていたアイス2つをもらってそれで満足した。
「だいたい、私達が入りたいって言ったわけじゃないんだし、文句はやまとくんに言ってよね」
エマはパフェをどんどん食べ続けた。
「いや、まぁ、良いんだけどよくそんなにパクパク行けるな…」
東一郎はエマとユリを見ながら眉間にシワを寄せた。
「男は甘いものなんて…とか思ってんならやめたほうがいいよ。そういうの流行んないから」
ユリは目線をパフェから外さずに言った。
「いや、甘いの嫌いじゃないって。でもこのクリーム量はちょっと引くわ…」
東一郎は少し青ざめた顔で言った。
「だいたいパフェって8つ分って余裕すぎない?」
エマはユリに言った。
「それな。これ本当に8つ分あるの?って感じ」
ユリはエマに返した。
「あのさ、お前ら目的忘れてないか?」
東一郎はスプーンを置いて言った。
「ああ、覚えてるよ。ちゃんと、やまとくんの初デートを陰ながら応援しよう!でしょ」
エマは持ち上げたフルーツを見ながら独り言のように言った。
「いや、応援するっていうか、これ頼む必要あったのか?」
東一郎はカフェに入るなり、巨大パフェを早速頼んだエマとユリに言った。
「うちらも別に、これ頼もうと思ったわけじゃないんだけど、ほら、せっかくじゃん!気分的にも知っときたいじゃん。あの子らの気持ちを」
ユリは全く感情を込めずに言った。
東一郎は少し後悔しながら、黙々と巨大なパフェを食べるエマとユリを見ていた。
そもそも何故彼らがここにいるかというと、ヤマトから相談された東一郎が、軽くエマに意見を求めたのが始まりだ。
陰ながら応援しようということになり、何となく乗せられて形でついてきたのだが、東一郎はヤマトにあれこれ考えずに、話せばいいと言ったものの、自分自身の若い頃と今の子供たちの感性が違うことに不安を覚えたのがきっかけだった。
変装したわけではないが、バレたらバレたで少し話をして解散しようと言うことになっていた。
最初は単に面白がってエマとユリがついて来たと思ったが、応援したいんでしょ!という言葉に押し切られる形でここまで来てしまった。
エマとユリがパフェを食べきってしまう頃になっても、ヤマトと山口あかりのパフェは半分ほどしか減っていなかった。
「えーちょっと食べるの遅くない!?」
エマは二人のパフェの量を遠目で確認して驚いた。
「いや、エマは大食いだから他の人より圧倒的に早いんだろ」
東一郎はエマに言った
「ちょっと!失礼!」
エマはそう言うと怒った顔をして東一郎を睨んだ。
「何気に私も結構食べるし!特に甘いのはね!」
ユリは口を挟んできた。
「ていうか、こっちは3人で食べたんだから、早いの当然!変な文句やめてくれる!」
エマは大食いと言われたのが気に障ったようだ。
「あ、ああ、そうだったな。こっちは3人か…」
東一郎はアイス2つもらっただけで、その殆どはエマとユリが食べたのでどうも納得は行かなかったが、それ以上何も言わなかった。
「あれ?ヤマト達もう居なくない?」
東一郎は言った。
「ああ!本当だ!いつの間に!!」
ユリは声を上げた。
「うわ!半分くらい残してるじゃん!勿体ない!」
エマも悲鳴みたいな声を上げた。
「お前、モデルの仕事してるって本当なの?」
東一郎はエマに言った。
エマは何も言わずに東一郎を睨み返すのだった。