「初恋」待ち合わせ
ヤマトは思い切り早く集合場所に付いてしまった。
土曜日の正午。繁華街の待ち合わせ場所によく使う場所だった。
予定よりも30分も前についたヤマトは落ち着き無くフラフラとしていた。
昨日の帰り道、東一郎に今日の日のことを話した。
「え?マジで!?お前やるなぁ!一緒について行ってやろうか?」
東一郎は真面目な顔で無粋な事を言っていたが、ヤマトは丁重に断った。
こういった時の東一郎は、特に茶化したりニヤニヤしたりしない。真摯に応援している態度だった。
ただし東一郎に何をすればよいのか聞いてみた。
「なぁ、どういう態度で、何すればいいのかな?」
「ああ、いや、普通にしてればいいんじゃん」
「いや、でも…」
「多分頑張ろう!って言っても空回りするから、いつものヤマトでいれば良いと思う。オレは。」
東一郎はそう言って親指を立てた。
ヤマトは水島瞬という男が分からなくなっていた。
以前の水島瞬と違い、堂々としていて物怖じしない。突然絡んでくる不良生徒を叩きのめしたり、先生に対しても普通に冗談を言い、クラスメイトの誰しもが認める存在になった。そしてとても魅力的な男にみえるのだ。
一点欠点を上げるとしたら、あれだけ勉強ができたのに、勉強が全然できなくなったことと、意味不明な事をする時があるということだろうか。
とはいえ、一人の男としては完全に負けたという思いだ。
一番近くにいて、自分とは真逆の男。同級生とはいえ、そんな男になりたいとヤマトは真剣に思っていた。
そうこうしている内に待ち合わせの時間近くになった。
辺りをキョロキョロとヤマトは見渡した。
遠くから山口あかりが歩いてくるのが分かった。
学校の制服姿とは違い、私服姿の彼女はとても可愛らしく見えた。
ヤマトは緊張してる自分を感じて、驚いた。
「おまたせ!まだ時間前だよー」
山口あかりは明るい声でヤマトに声をかけた!
「おはよう!ちょっと早く来ちゃったよ」
ヤマトは無理やり笑顔を作っていった。
「おはようって時間じゃないよね」
そういうと、山口あかりは可笑しそうに笑った。
山口あかりはよく笑う子だった。彼女は決して目立つタイプの子ではないし、クラスで発言をするタイプでもない。友達と一緒にいるが目立つグループではないので、こちらから注視しない限りあまり目につくと言うことはない。
にもかかわらず、彼女の印象はいつも笑顔であることだった。
「なんか不思議だね。学校の外でクラスメイトと会うなんて」
あかりはそう言うと、ヤマトに向かっていった。
「そ、そうだね。でも、なんか新鮮じゃない!?」
ヤマトは浮かれた気分をバレないように平静を装った。
「確かにね。新鮮だ。今日はどうする?どこ行こう?」
あかりはそう言ってまたニッコリと笑った。
私服姿のあかりは、幼くもあるがとてもかわいらしく、ヤマトの胸は高鳴った。
ヤマトは実は東一郎に相談していた。
デートをするにはどうしたら良いのか?どこにけばよいのか?大してアテにせずに聞いてみた所、存外まともな意見が返ってきたのでヤマトは驚いた。
東一郎の意見はシンプルで、特別なことをやろうという考え自体が要らない。
最初のデートなんて街ブラブラして、お茶して、映画見て、公園ぶらついてそれであっという間に一日終われば成功だそうだ。
どこに行こうとかは、二人で決めればよいし、それで合わない、つまらないならハナから相性が悪いってこと。頑張って一緒にいる必要がない。
ヤマトは東一郎の意見を聞いて、非常に納得した。但し水島瞬が彼女がいたという話も聞かないし、何故こんなにベラベラと喋れるのだろうと不思議に思った。
東一郎は一応プランを示した。
基本はお互いのことを知る良い機会なんだから、いろんな事を話すべきで、頑張ろう!という気合は不要。
なので、まずは街を散策、ちょっと疲れたらファーストフードかコーヒーショップで休憩。その間に行きたいところを決める。映画・ボウリング・ゲームセンターなどなど好きな所に行けば良い。その後に、時間があれば公園とかをぶらつき、家に送る。
ざっとこんな感じだった。
なので、ヤマトは最初は街を歩こうというつもりであった。
「ねぇ、山口さん何か行きたい所、やりたいことってある?」
「うーん、別に特に決めてないけど、せっかくなら映画みたいかな」
「あ!映画かぁ。良いねぇ!じゃあ、映画館にフラフラ歩きながら向かおうよ」
「うん。いいよ。ウィンドウショッピングだね」
あかりはそう言うと、ヤマトの横に来てゆっくりと街の方へとあるき出した。
今日は気温が低かったが、爽やかな空気だ。冬の空はとても澄んでいて遠くの山も都会からもよく見えた。
ヤマトは自分の隣のあかりを見た。とても可愛らしい少女は一瞬戸惑った後また笑った。




