「初恋」映画鑑賞
「いやあ。青春だなぁ。イイなぁ。青春だよ。なぁ」
東一郎は映画を見終えると誰に言うでもなくしきりにいった。
「水島くん楽しかったんだね…」
エマは若干引き気味にユリに言った。
「うん、なんかそうみたいだね。なんか意外…そして気持ち悪いね…」
ご満悦の東一郎を見てユリはボソリと言った。
映画は高校生から大学生になった若者たちの恋愛ものの映画でこれぞ青春映画という内容だった。アニメ映画でとてもきれいな映像で話題なだけのことはある映画だった。
ただその場にいる全員が、東一郎がこんなにも映画を満喫しているとは思いもしなかった。
「よ、よかったな…楽しかったみたいで…」
ヤマトは東一郎に若干戸惑いながら声をかけた。
「ああ、わかる?アイツラの気持ち!オレ分かっちゃうんだよなー。好きなのに伝えられない想い、伝えちゃいけない想い。切ないよなー」
東一郎は余韻たっぷりに言った。
「な…なんか凄い。良かったの…かな?」
エマは東一郎にそれとなく聞いた。
「いや、そりゃそうだよ。お前らみたいなお子供には分からないと思うけどさ、大人になるとやっぱり色々あるじゃん、あの時に戻りたいって誰しもが思うわけよ。ほんのちょっとのボタンの掛け違えで…」
東一郎は長いこと饒舌に語った。
「うーわー…ちょっとウザいね…超ハマってんじゃん…」
ユリは完全に引いている。
「まぁ、君たちも後10年くらい生きたらきっと分かる時が来るよ」
東一郎は自分以外のノリがいまいちなのが不服らしく、諭すように言った。
「ま、まぁ、そんなに喜んでもらえると誘った甲斐があったよ…」
エマは若干呆れながらも子供のようにはしゃぐ東一郎に笑顔で言った。
「なぁ、ヤマト、お前どう思った?」
東一郎は急にヤマトに振った。
「え!?あ!?ああ、風景とかアニメの絵が綺麗だったよね。話も面白かったし、オレは好きだよ」
「だろ!お前分かってんじゃん!」
東一郎はぱっと笑顔になってヤマトの肩を無理やり組んだ。東一郎はいつになく上機嫌だったが、何だか高校生とは思えない態度と言動に一同は戸惑うのだった。
ヤマトは映画を見て楽しかったという反面、正直愛・恋というものがよく分からなかった。彼の人生で好きな人というものが居なかったからだ。いつかできるのだろうそう思って過ごすうちに結局高校生になった。
といって、人を好きになるイメージもつかなかったから、自分は少しおかしいのかと自問することすらあった。
映画館には女性同士のグループもいたし、親子と思われる母と娘もいた。少数ながらも男性グループも見に来ていたし、自分たちのような何人かのグループで来ている人も居た。だがやはり多かったのは男女のペア、カップルなのだろうか?友達なのだろうか?
ヤマトは彼らを見て、自分がそうなる想像をしてみるが、やはりイメージがいまいち出来なかった。
映画館を出ると、4人は近くのハンバーガーショップに立ち寄ることにした。
頼んだものは飲み物とポテトだけ。
話は殆どが東一郎の映画評であった。
今日見た映画の良かった点を散々話されて解説された上に、更には昔の映画の話がたくさん出てきた。
エマはウンウンと頷きながら話を聞き入っていたが、ユリがヤマトに言った。
「あれ、多分なんにも聞いてないよ。」
ヤマトはそう言われて、エマを見るとたしかにエマは一定のリズムで相槌を打っているだけで、途中全く関係ないところでも頷いていた。
「あ、本当だ…」
ヤマトは器用に頷くエマを見て変に感心した。
「あの子昔っからそういう所あるからね。外面が良いというか、あざといというか…」
そう言うと、ユリはあきらめムードで苦笑いをした。
東一郎はその変化に気づくはずもなく、何やら映画の話を熱心にエマに言っている。
「ああ、ちょっと可哀想に見えてくるね…」
ヤマトは少し東一郎に同情した。
「まぁ、良いんじゃないの?本人幸せそうだし」
ユリは東一郎とエマを見ながら言った。
「そう言えばさ、ヤマト君ってどうなの?」
「は?どうなのって?」
「いやいや、気になる子とかいないの?」
「えぇ!?気になるって、、いや、そんなの全然意識したこと無いなぁ」
「ふーん、中学の頃も?」
「ないない!オレみたいなチビ相手にされてないって!」
ヤマトは笑いながら答えたが、少し胸の奥に違和感を覚えた。
ユリは全否定するヤマトを見て、この話をするのは控えたようだ。
ヤマトは気を使わせてしまったと感じ、何だかユリにすら申し訳ない気持ちになった。
映画の主人公のような恋愛話など自分には遠い存在に思え、自分自身がとても小さく思えてヤマトは暗い気持ちになった。
自分はいつも脇役、主役になんてならないんだと理解していた。