第19話
俺のスキルは自身の身体に触れられる範囲に念じたものを生み出す。多少の制限はあるが大概の物はいくつでも生み出すことが出来る。現に今、麻痺状態である僕の身体に麻痺を治す薬を射ち込んだ。しかし、自分に射つことは出来ても、距離のある仲間に注射することなんて不可能に近い。
「一体、どうすれば良いんだ······」
ライウスの声を不審と感じたらしく親玉らしき男が訝しげな表情で訊ねた。
「おい、そこのガキ!何か不審な動きをしたな!!死にたくなけりゃ何も話すんじゃねぇ!!」
腰に隠していた短刀を引き抜き、ライウスの額に短刀の刃先を向ける。何の躊躇もなく、手に持った短刀を突き刺しそうな表情を浮かべていた。
ライウスはその表情に一瞬冷静さをかくものの、再び平然に戻る。
「はい······」
心の声が駄々漏れだったか···、以後気を付けないと今度こそ脳を刺されるかもしれないな···。
ライウスは鬼のような形相をする親玉に気付かれないように周囲に目を回す。左側にはクラウスとマリア、右側にはメルリーが麻痺した状態で倒れている。闇の霧を発生させている親玉は人質の中心に立つように人質たちが不審な動きをしていないか見渡していそうだ。
死角のない闘技場内は敵からしてみれば、絶好な場所で、ライウスにしてみれば動きにくくてありゃしない。
「お頭~!!」
突然、敵の集団の団員が声を荒げながら走って来た。
「中に来るなと言っただろ!」
親玉の声にも気付く隙もなく、敵の集団の団員は麻痺しだした。この地は他の場所よりも一段と濃い霧が充満しているらしい。
「フレットさん!もう剣魔聖騎士団が来やした!どうしやしょう!!」
麻痺状態に襲われているのにも関わらず、焦るような表情を浮かべながら、親玉らしき男に伝えているのは、それほどに剣魔聖騎士団を恐れているのだろう。
剣魔聖騎士団、国直属の聖騎士団の正式名称。この団に所属する団員の全てが剣と魔法ともに優れており、冒険者ギルド長を3人同時に相手をしても勝てるほどの実力を兼ね備えている。そのため、貴族の者からは神と悪魔の使徒とも呼ばれてる。
「駆け付けるのが早すぎでないか!?この解除薬を飲んで早く部下全員に退避命令を伝令しに行け!俺はここでこいつらを全員処分してから行く!お前ら、絶対に引き返すなよ!少しでも止まれば、死ぬと思え!!」
「ハッ!!」
敵の集団の団員はその命令を聞くとあっという間に何処かへ行ってしまった。
「·········。お前ら、今の話の通りこれから全員を処分する分かったな!」
おい、マジか······、ただでさえ、脱け出す手段を見付けようと必死なのにこれ以上時間が無くなれば、この男に処分される。
ライウスは小さな脳で必死にこの場を打破するための策を捻りだそうとする。しかし、そう簡単には思い付かなかった。
「まずはお前からだ!」
残虐な処刑はライウスが考えていくうちに始まってしまった。
1人、また1人の親玉の被害者は増えていき、1分も経てばその数はその場にいた人質の三分一を超えていた。
このままでは俺どころかクラウスやマリア、メルリーまで殺られる······、もうああだこうだ言ってる場合じゃない。
ライウスは覚悟を決めたのか、ある作戦へと歩みを進め始めたのだった。