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No.4とNo.5



 その日は、なんの前触れもなく来た。


 僕とルフローヴさんは、スクルドの街の中央に位置する直属護衛隊の拠点へ呼び出された。

 僕らふたりだけがわざわざ呼び出されるということは、十中八九、ラストリゾート絡み。

 

 

 つまり、この街の命運がかかった案件ということだ。


 

 僕が何かしでかした訳では無いのだがあまりの事の大きさに手汗が止まらず、何度もズボンで拭う。


「よ、ユーリ。数日ぶりだな」

「ルフローヴさん。要件は既に聞いてますか……? 」

「俺はまだだ。とりあえず先を急ぐぞ」


 言葉も少なく、いつになく真剣な面持ちの彼。

 きっと彼も、何となくは状況を察しているのだろう。

 果たしてこの先に何が待っているのか、期待には似ない感情を抱えながら、僕らは扉をくぐる。




 待っていたのは、四人。

 一人はこの街の護衛隊の隊長、月の魔物討伐時にルフローヴさんが報告に向かったその人。

 そしてもう一人は。


「二人とも突然呼び立てて済まない……が、こんな謝罪など記憶には残らぬほどに、君たちには更に謝る必要が出るかもしれん」


 いつもの軽装とは違い、いつか身につけていた鎧を室内であるにも関わらず身につけているエリッサさん。

 口ぶりから、緊急事態なのは伝わってくるが……。


「どういう事です、エリッサさん」

 

 説明を求めて聞き返すも、

 


「それに関しては私の口から」



 それを返したのは彼女では無く、更なるもう一人。



 

「私は、王都直属護衛隊独立5番隊長、ジャール・オトバダ。貴殿達のご活躍は往々にして耳にしております。ええ、そうです。その度に私の胸を躍らせるのです。前人未到の実績を、遠慮などせず踏破していく様。まさにかの伝説、加護人のようだ。いやはや、お会いできて光栄だ」


 そう言うと彼は、その大きな手で僕らに握手を求める。

 突然のお褒めの言葉に、動揺しながらもその手を握る僕ら。

 見上げるほどの体格は、丁寧な言葉使いとは正反対でとんでもなく荒々しいとおもうほど。

 筋骨隆々、天下無比、強靭無敵……etc。

 そんな四字熟語が似合う、男が惚れる漢の体格の彼は、優しい笑顔で僕らに語りかける。


「今回お伺いしたのは、他でもない、お二人はあの月の魔物を討伐なされたとか。いやぁ、貴殿たちはまた平然ととてつもないことをなさる。あまりに壮大な出来事、それ故に、その実績が信じられない者もいるのです。その者は言うのです、討伐したかも分からぬ状態ならばいっそ街に火を放て、と」

「……!? 」

「おおっと、失礼しました。決して驚かせるつもりで言った訳ではありません。ですが、そう思っている者、特に貴族階級の方には特に多いようで。このままですと、このスクルドの街は本当に火の海になってしまいかねません」


 さっきまでと変わらずの顔でとんでもないことを言うな、この人。

 

「つまりなんだ、俺たちはここで奴を討伐したことを証明しろと? 」

「ええ、話が早くて助かります」

「……そう、だな」


 そう言われて、頭を悩ます僕とルフローヴさん。

 討伐した証……と言われても。


 奴は僕と会話した後、粒子になって消え失せた。

 その光景は、あの場にいた全員が目にしているが、それだけでは証拠と言うには不十分。

 なんせ、見た者によって姿を変える魔物。

 消えたと言っても、図体から何までまるで違う怪物の目撃証言なんて、信用に値しないだろう。


 付け加えるなら、物的証拠なんてものも無い。

 どうしてかと言うなら奴にまつわる全ての物、奴の体液である血すら、粒子になって消え失せてしまったからだ。

 僕の服に着いた返り血も、ルフローヴさんから借りた剣に垂れた血も、綺麗さっぱり消え失せてしまったのだ。


 

 この状況を端的に言い換えるのなら、僕らは、死体のない殺害事件を立証しなければならない、ということ。



 それがどれだけ難しいことなのか、直面してみて初めて思い知る。


「まず何から話せばいい。この街に奴が出たことは確かだということでいいんだよな」

「ええ、大量の死者が日食の日に出ているという状況証拠からして、おおよそ現れたのがこの街であるということは確かでしょう」

「その上で、討伐した証拠が欲しいってのか……」

「難しいことを言っているのは承知です。ですが、討伐の確証、せめて退けたと信頼できるだけの何かがないと」

 

 こちらに同情してくれてるような口ぶりで彼は言うが、それで何か変わる訳ではない。

 討伐の確証、それが無いとこの街は火に包まれる。

 貴族たちの不安解消のために、だ。

 そんなことでこの街の人の命が失われるなんて、そんなのあっちゃならないだろ。


「私からも最大限譲歩するよう訴えているが、貴族階級の声はあまりに大きくてな。私とて多く思い入れのあるこの街を焼かれたくはない。どうか、何か、思い出せないだろうか」


 エリッサさんは、力になれないことを悔やんでいる。

 その場に私が居れば、と嘆くもそれは僕のせい。

 パーティー会場で僕が迷惑をかけた後処理のせいでエリッサさんは、王都に残る羽目になったわけで、彼女のせいでは無い。


 このままでは埒が明かない。

 何か良い手は無いか頭を悩ませていると、そこに居たもう一人、細身の男性が被っていたフードを取って声を出す。


「無いなら無いで終わりにしてくれ。面倒だ」

「あなたは……? 」

「俺は独立4番隊、ジーク・フラウドルフ。お前の敵だ」

「……!? 」


 突然何を言ってるんだ。

 ジーク・フラウドルフと名乗った煤けた灰色の髪の男は、僕を前に敵だと言う。

 王都直属護衛隊、しかも独立部隊なんて実力もある人なんだろうに、何故僕の敵になるんだ。


「どういう事です……? 」

「難しく捉えるな、単純でいい。今、この場でお前の敵だと言ったら何を意味する」

「敵……対立……」


 今この場で敵、僕のしたいことを遮る相手。

 ということはつまり……。


「貴族派ってことだろう」

「……! 」

「この街を燃やすことに賛成、もしくは燃やしても仕方の無い状況だと思ってるってことだ」


 発された言葉に否定は入らない。

 ルフローヴさんの答えに続いたのは、ジャールさん。


「彼も本心ではないと思いますよ。この街に派遣される際、王から、賛成反対それぞれの立場に立って判断しなさい、と指示があったものですから。貴殿たちのファンである私が賛成派に回ったとて色眼鏡が入るだろうとの事で、彼は役割として賛成派を演じているのです」

「なるほど……」


 それで、敵ね……。

 それならそうとまどろっこしいこと言わずに最初からそう言って欲しかったが、まあ、きっと口下手なんだろう。

 人付き合いがあまり得意ではないんだろうな。

 だって、そういうオーラがプンプン出てるもん。

 同族だから、そういうの何となく分かっちゃうんだよなぁ。


「それで、何も無いのか」


 彼のなんとなくがわかったが、状況自体は変わらない。

 このままでは、街は焼かれる。

 奴を倒したという確証、それが得られなければ、この街はおそらく今日明日にも火の海だ。

 

「……あのっ」


 一か八か、僕は声を上げる。

 

「今すぐ確認を取って欲しい人たちがいるんです」

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