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【3000pv突破!】異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
一章 あなたみたいになりたかった
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じゃあ、またね



「なんで隠してたのさ、こんなすごいの! 」

 


 エリナさんは半分信じられないような表情で、"すっかり元に戻った"その楽器を眺める。


「まあ、なんて言うか……」

「訳があるなら別にいいけど、……もっとアピールした方がいいんじゃないのこれ。 王宮に行ったら一発採用でしょ」


 何から何まで元通りらしい楽器は、エリナさんに書いてもらったイメージ図と瓜二つ。

 破損箇所はもちろんのこと、疲弊してた細かな部位まで新品同然に。

 上手くやれば一発だったんだろうけど、楽器の修理、ましてやスキルを使ってなんて未経験もいいとこ、何度かのやり直しでようやく成功。


「そう、ですかね……。色々できるとは思いますけど、さっき話した通り、何か対価になる物を払わなきゃだし、あくまで払った物の価値の範囲ででしか起こらないから、そこまで万能ってほどじゃ」


 これもこれで苦労があるのだとアピールするも、あんまり伝わってないみたい。

 まあ、分かる。チートスキル貰ったはずの主人公がたまーに苦戦してたりすると、いやなんで??? って読んでて疑問符が湧いてでてた。

 でも人間いつでも120%は出せないし、授かったからって何でもかんでも上手くいくものでは無い。

 得手不得手あってこその人生と言うのだろう……と、心の中に予防線を貼ってみたり。

 というかサラッと流したけど、エリナさん絵もかけるんだ。

 その多彩さに、いつの間にか湧いてた親近感が溶けて蒸発する。

 彼女には、こんな予防線は通用しないなぁ。


 

「ふーん、ものを直す以外だと、他には? 」

「えーっと、火を出したり、壁をはやしたり、あとは、ちょっとだけ時間止めたりとか……」

「王宮どころのレベルじゃなかった……!」

「いや、そんなことは」

「いやいや、そんなことはあるでしょ!これで受からなきゃ、一体何を採用するの。募集要項:神様、またはそれに連なる者って? そんな募集かける国、嫌だよボク」



 会話の途中でいつの間にか、彼女の目線は僕に移ってた。

 不思議がる表情は変わらず、瞬きと一緒に頭の上の耳はピクピクって動く。

 やっぱり苦労は分かられることは無い。

 けど、それでも僕らの間には、何か通じるものができた。

 そんな気がするんだ。

 



「まあ、なんだかあんまりよく分かって無いけど、まあ、とりあえずさ、ありがと。おかげで助かったよ」


 エリナさんは、さらっとそう言った。

 でもそれは、僕には異世界に来て初めて貰った「ありがとう」だった。


 わざわざ相談するほど気にかかってたその言葉。

 だけど、いざ言われてみて今の気持ちはって言うと、

 正直、飛び上がる程じゃなかった。


 感謝をもらって、嬉しいのは嬉しい。

 ただ、アカネさんを助けた時みたいにまだ何かが引っかかってるみたいで、心の底からは喜びきれてない。

 満足足りえないとか、そんなカッコいいものじゃなくて、案外こんな感じかって、小学生の感想文くらい浅いもやもやが残る感覚。


 じゃあ何がっていうと、やっぱり理由は、まだ自分でも分かってない。

 100%の満足なんて、いくら異世界だからって、簡単に実現しないのは分かってるつもり。

 だから、この気持ちもいつかは受け止めなきゃなんだろうな。



 心の中で軽い諦めがついた後、最後に僕は、気になってたことを聞いてみた。


「あの、なんで僕に任せてくれたんですか」


 お願いしといてなんだって話だけど、もし逆の立場だったなら、こんな奴に自分の大事な楽器を託そうだなんて思えそうもない。


「うーん、そう聞かれたら、そうだね。特段、理由なんてないんだけど」


 エリナさんが顎に手を当てて、言葉を考える。

 そして静まりの中、声に出す。




「強いて言うなら、

 君になら、託してもいいって思えたからかな」




 君になら。不意に来たそんな言葉に、心情が思わず目元に滲んでしまいそうになった。


「なんですか、それっ…」

「何って、君が聞いてきたんでしょ? うっかりヤめ! 」

「あっ、いでっ……! 」


 急なデコピンで涙が引っ込んでった。

 エリナさんはそう、照れ隠しが強引なんだ。




――――――――――――――――――――――――


 


「さてさて、そろそろ行くね。寝床も確保しなきゃだし、もしかしたら、誰かがこいつを待ってるかもだし」


 そう言って大きな風呂敷を背負い込んだエリナさんは、立ち上がって「よしっ! 」と、気合いを入れ直した。

 かろうじて透けてない上着を着ていると、印象が一気に変わる。透明感があってほんとに綺麗な人だ。


「見かけたらちゃんと声掛けてよ、ステージの上乗せたげるから。大丈夫、遠慮はいらないよ。今日のお礼としてだから、貸しも借りもなし。思う存分喜びたまえ! 」


 透明すぎて……こういう人なんだ。

 喜ぶ人の方が珍しいと思うな、そのお礼。



「じゃあまたねー!!! ええっと、ああそうだユーリユーリ! 」


 忘れかけの名前を唱えながら爆速で去っていった彼女。

 まるで大型犬のような乱暴さと……愛らしさ。

 初対面があんなんだったのに、すっかりファンにさせられてしまった。

 元の世界に帰りたかったはずが、いつの間にかつい名残惜しさすら感じちゃう。


「……よしっ! 」


 彼女に負けずに、僕も頑張ろう。

 もうひと踏ん張りしてみようじゃないか。


 どこかでまた会えることを信じて、僕もこの広場から去った。

 頭は既に、大通りにどう向かおうかと模索し始めてる。

 少しずつだけど前向きに、自信が少しついてきてる。

 やっぱり、異世界に来てよかったのかもな。



――――――――――――――――――――――――




 


 ……さて、どうにも道に迷った。


 子供の頃からずっと疑問に思ってたことがある。

 なんでどこも住宅街って入り組んだ地形なんだろう。


 人とか車とか通るんだから分かりやすい方が絶対にいいと思うんだけど、決まって難解複雑な迷宮になってる。

 こことか、もし車運転するんだったら絶対に止められないよな。

 縦列駐車、とか難しそうだなと思って助手席から見てたけど、ここに住んだらそんなの余裕になるんだろうか。

 それとも元々余裕な人がこういう家を買うんだろうか。

 未成年には、住宅事情の謎は深まるばかりだ。



――ちがう、道に迷ったんだ。



 車なんて無い異世界で、駐車のシュミレーションなんてしている場合じゃない。

 吐瀉物通りを通過せずに大通りに出るだけ。

 簡単そうに聞こえるけど、もうかれこれ1時間はたってるんじゃないかな。

 ダンジョンのごとく入り組んで出られないままさまよってる。


 いつの間にか聞こえてきてた楽器の音も観客の歓声も止んでる。

 日も結構落ち始めてる、だいたい16時って所かな。

 まずいな、結構慌てる必要がでてきた。

 大通りに出れないと、火竜が見れない以上の問題がある。

 今日の宿がまだ取れてないんだ。

 いくら出張でもせめて宿くらいは予約してて欲しかったなと、いつか切実に嘆いてた父のことを急に思い出す。

 この場合、僕は神様にねだることになるのか。

 さすがに無礼がすぎるだろ……。




「……あ」


 ちょうど前方に人がいる。

 相手は大人、つまりこっちが合法的に甘えられる立場。

 歳を理由にするのは情けなく思うけど、背に腹はかえられない。

 意を決して、声をかける……!


「あの……」

「おーい! お前だな、噂のレアドロップってのは」

「え」



 話しかける前に、話しかけられた。

 しかもなんだ、レアドロップって。

 そういえばあの荒くれたちも同じことを言ってたな。

 確か倒せば億万長者って……。



 もしかして、宝石(これ)の事か!?


 ってことは、目の前のこの人も、賊!?



「ってことで、死になぁああああああ!!! 」

「やっぱりか!? 」


 急な攻撃に何とか身体は反応できた。

 何をっ、奪われるくらいなら屠ってやる!




「くらええええっ!!!」



 少し離れて放った一撃。

 爆炎は思い通りに相手に命中。

 巻き起こった高熱の爆風が上着を揺らす。

 そしてまたひとつ住宅街にクレーターができたのだった。


――――――――――――――――――――――――




 近くにあった木の枝でつつくも、反応は無い。

 恐る恐る脈を測ると、良かった何とか有るみたいだ。



 しかしなんで僕がこれを持ってるって分かってたんだ。

 バレたにしても、こいつを認知してる人なんて、エリナさんか最初の荒くれたちか……もしくはあの姉弟たちか。

 口が軽そうなのはエリナさんだけど、たった1時間そこらでこんな事態にはなるはずもない。

 荒くれたちは、おそらくまだ寝てるはずだし残る可能性は……。




「待てよ、レアドロップ」


 背後から声が。


「またなのか!?」


 いくらなんでも荒くればっかじゃないかこの街。

 どうやら治安がすこぶる悪いみたいだ。

 アカネさんの言ってたこともあながち間違いじゃないのかもっ!



「くらい、やがれぇぇぇええ!!!」

「何をっ! 」


 我ながら上手くいったカウンターは、相手のみぞおちにクリーンヒット。

 宝石強化パワーで、威力は普段出せる力の数十倍はあるパンチ。

 そしてそのまま、宙に浮いて回転する相手を、掲げた右手で受け止めた。

 これでもう戦えないはず……って、右手がすごい痛い。

 やっぱりなれないことはするもんじゃないな。

 近接戦闘はなるべく避けた方が、僕には向いてる。


 相手は泡吹いて倒れたけど、泡を吹くってとこは、呼吸してるんだよね。セーフ! 生きてる! 不殺万歳!




すると、



「ちょいと止まりや」


また背後から声だ。



「ハイハイ、またですか……」


 もう三度目、手馴れてきてしまって、振り向くのもゆっくりになった。


 が、その姿を見た時に、全身に痺れが走った。


 そこに立っていたのは、


「これやったのお兄さん? 凱旋が完全に終わるまでは、ちょーっと大人しくしといて欲しいんやわ」


 重厚な盾と鎧を身につけた、明らかに雰囲気の違う男だった。

読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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