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再会


「ユーリ、誰と話してたんだ? 」

「モールツマンさんです。辺境伯の」

「ああ、あの。どっかで見た顔だと思ったら、あのオジサン、辺境伯か」

「お知り合いなんですか、ルフローヴさん」

「あ、ああ。まあな。モンタギュー家はスクルド統治の一派を担ってるからな。ウチから距離が近いウェルザンディは、いわばご近所さんだ。色々と付き合いがあるんだよ」


 ほぇー。

 ここに来る時も聞いたけど、貴族って色んな付き合いあって大変そうだな。


「そんなことよりだ、ユーリ。少しはめを外さないか? 」

「……と言うと? 」

「ご挨拶しに行くんだよ、ご挨拶」

「ご挨拶……? 」

「ああ。大人同士親密なお付き合いをしましょうって、ご挨拶。例えば、そうだな……あの人なんでどうだ」


 そう言って目を向けたのは、二本の縦ロールがお似合いのセレブリティーなお嬢様。


「なんであの人なんです? 」

「バカ、言わないでもわかるだろ! 美人で、何よりボインが出てる」

「……!? 」


 まさか、ご挨拶って……!


 


「ナンパってことじゃないですか!!! 」



 

「……ナンパ? よく分からんがユーリはどうする」


 まさかさっきの妄想を現実にする時が来るなんて。

 二人で抜け出す相手を選べか……。


「そうですね。僕はあっちの子が好みかと」

「ほほう、ユーリは意外と小さめがタイプか」

「ばっ……そんなんじゃないですよ。ただお淑やかそうな感じが清楚みがあっていいなーって」

「ふふっ、ユーリお前、貞の者だな」

「なんですか貞の者って。……ルフローヴさんはいいですよね、ただイケメンに生まれてきたからって人生楽勝そうで。いいですよ、僕なんてどうせ一生童〇ですよ、〇貞」


 口を尖らせてそんなこと言う自分が何より悔しいな。

 そりゃあ確かに、小中高とモテては来なかったし、女の子と手を繋いだことすらありませんよ。

 だからって異世界来てまでそんなことを痛感させられるなんて、そんなの、そんなのあんまりだって……。

 

 涙目になった僕の肩に、ルフローヴさんはそっと手を置く。

 

「そう不貞腐れるな、ユーリ。安心しろ、今のお前には強いバフがかかってる」

「……バフ? そうか、パーティーの主役! 」


 そうだ、今の僕にはパーティーの主役という何よりも強力なバフがかかっているじゃないか。

 いや待て、そもそも主役が抜け出したらパーティーとして破綻するんじゃ……ええい、こうなりゃヤケだ!


「すいませー……んって、エリッサさん。なぜ止めるんです! 」

「パーティーを抜け出すなんて、とんでもないワードが聞こえてきたからな。王主催のパーティーを抜け出す、しかも主役がなど前代未聞だぞ……! 」


 エリッサさんの言いたいことも大いにわかる。

 が、一世一代のこのチャンス逃す手はなんだよ!!!


「大人しく、たこ焼きを食べてだな」

「嫌です! 僕はあの子と、ランデブーするんだぁぁ! 」

「落ち着け。どれだけ抵抗しようと、君が私に勝てるはずがないだろう」

「こうなりゃ代償の力を使ってでも……! 」

「会場が壊れるっ、バカ! 」


 彗星の如き恐ろしく早い手刀が、僕の後頭部に直撃する。


「ひょげふっ……! 」


 威力にたまらず意識が朦朧としてきて……あれ、クソっ何が何だか……。


「おい、ユーリ、ユーリ! クソっユーリがやられた! 」


 最後に聞こえたのは、同胞たるルフローヴさんの声。

 すまないルフローヴさん、どうやら僕はここまでみたいだ。


「ユーリ、おいユーリ!!! ユーーーリーーー!!!」



――――――――――――――――


「また同じ天井……じゃない! 」


「イチチ……」と、起き上がると、そこはパーティー会場の端っこ。

 誰もいないテーブル席に、僕は気絶している間座らせられていた。


「起きたか、後遺症は無いみたいだな」

「酷いですよ、エリッサさん」

「しかたがなかろう、君が先に手を出そうとしたんだ。正当防衛だ」


 にしても痛い。

 後遺症がないとは言ってるがこのヒリつきは、十分後遺症足り得るものだろう。


「さて、主役も起きたところだ。いよいよ王がお見えになる。ユーリ、くれぐれも粗相のないようにな」

「王様て。起きて早々に合わせる相手じゃないでしょう」

「そろそろだ」


 奥の扉が開き、護衛の人たちがぞろぞろと先に出てくる。

 その奥にはまだ多くの人影。

 その中に恐らく、この国の王が居る……。

 

 自然にゴクリと生唾を飲み込む。緊張はしているつもりだが身体が固まるとか発汗がすごいとかそんなのは全く。

 どれだけ偉い人だって言っても、僕の感じ取れる偉さにも上限がある。

 さっき会話したモールツマンさんだって、一市民の僕に比べたら十二分に偉い人。それより偉いとなると……ダメだ、偉さのスケールみたいなものが湧いてこない。漠然とすげぇんだなってこと以外分からない。


 まあ、でもそんなもんで構わないだろう。

 なんせ迎えてもらう側だ。

 その王様とやらの胸を借りるつもりで、ドンッと、臨んでやろうじゃないか。



 


「……ああ、そう。楽しくやれてるんだ。口にあった? なら何よりだ」


 集団から聞こえてくる、楽しげな会話。

 誰と、誰の会話だ。

 従者同士の会話……だと、それって職務放棄なんじゃないか。会話の内容聞く限りだと、業務内容を報告してるとかにも聞こえないし。

 となると、誰かと、王様……。いやでも、王様にしては随分と若い声色をしている気がする。

 僕より少し年上くらいの、まだまだ油が乗ったいい声。

 20代、30代には入ってないくらい……いや、別に声だけで年齢が分かる特技なんてないんだけども。


 

 シャンデリアの光が彼らを続々と照らす。

 その内の一人、紛れもない中心人物に思わず目が吸い寄せられる。

 メッシュの入った、逆立った黒髪の男。黒のジャケットに白シャツ、下に裾の長いジーンズのような履物。指にはシルバーアクセサリーで、オシャレというよりも、周りを威圧するためにしてるようだ。


 

 まるで時が止まったかのように呆然と見つめていた僕の目が、ふと彼と合う。

 

「おっ、君が悠里くんか」


 従者たちをかき分け、前にでてきた彼は僕の前でお礼を言った。


「この度は本当にありがとう。なんせ、おかげで余計な犠牲を回避できたからね。おっと、自己紹介がまだだった。僕はこの王都の王、人呼んでアルティミア王だ。よろしくどうぞ、悠里くん」



「なん、で……」


 目の前にいる男、彼は自身を王と名乗った。

 でも違う、この人は。


「神様、ですよね」

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