王城晩餐会
王城晩餐会
「なん、で……」
僕は唖然としてしまった。
「そういえば、なんのパーティーなのかを伝えていなかったな」
扉を開けて数秒後、思い出したかのようにエリッサさんは言う。
目の前に広がる光景には、想像通りが広がっている。
僕らの他に招かれた客人たちは、みんなパーティーらしいドレスアップをしていて、おそらく貴族なのだろう、高貴な所作や雰囲気が全体に漂っていた。
会場も、さっきまでの内装と相変わらずの美しさ。
シャンデリアが印象的な、ステンドグラスの映える一室。
大勢の客人に対応できるよう、広さも申し分ない。
場所も人も、僕の想像していたパーティーと相違は無い。
ただある一点を除いて。
広間中央、熱心に何かをこなす一人の男性。
彼は、いつか火竜の攻撃から僕らを庇ってくれたエリッサさんの部下の人で、確か……カイナという名前だったはず。
彼はこの場で唯一、汗をかきながら両手を駆使してこの場に似合わぬ行為をこなす。
熱された鋳型に、生地を注ぎ、中に核となる魚介を入れて球形に加工する。
…………回りくどく表現してみたけれど、やっぱりこの場には似合わないな。
出来上がったその球形の物は客人たちの元に運ばれ、続々と口の中へ。
ハフハフと言いながらも美味しそうに食べるその姿は、僕にとって、というか転移者にとっては非常に馴染みぶかかった。
その様子を見てると、直前までの緊張がまるで馬鹿みたいに思えてくる。
…………ええい!もったいぶらずにいってしまおう。
なんとこのパーティーは、この国一番の、王様主催の!
たこ焼きパーティーだったのだ。
――――――――――――――――
「なんで、たこ焼き」
思わず口に出た言葉に興味を示したのは、ルフローヴさん。
「ユーリ。あれが何か知っているのか」
「ええ、あれは大阪名物たこ焼きですよ。なんでこんなところで……」
「オオサカ? ユーリの地元なのか? 」
「そうじゃないけど、充分馴染み深いと言うか」
「へぇー。なら安心して食えるな」
そういうと彼は中へ入っていき、召使いらしき人から出来たてのたこ焼きを受け取ると躊躇せず口の中へ。
「あっつ……い。けど、美味いなこれ」
どうやらお口にあったようで、「美味い、美味いぞこれ! 」と笑みをこぼしながらこっちに手を振ってくる。
それにつられてか、エリッサさんも先に中へ。
しかし、一体どういうことなんだ。
異世界に、たこ焼き……。
いや確かに前、日本食を出してる店に行った事はある。
が、やはり文化の違いからか、いわゆるゲテモノ扱いされていたし、いくら転移者がいるとしてもそう簡単に日本食が異世界に根付くとは思えない。
ましてやたこ焼き、あの型を作るところから始めるとすれば相当な労力がかかってるはずだ。
加えてタコ。
異世界入ってから一度も見かけては居ない魚介類だ。
スクルドの街じゃ魚なんて干物くらいしか並んでないのに、王都にタコ……。
王都の近くに海があるなんてこと聞いたこともない。
それにわざわざタコなんて、他の魚と形状が違いすぎるし、捕獲しようとも思わないだろう。
現に会場にいる人たちですら、ツボの中に入ってるタコに怯えながらも興味津々って感じだし、異世界人の持つタコのイメージは、多分中世の人たちとそこまで相違は無いはず。
一体、誰がパーティーの中身をたこ焼きにしたのか。
王主催のパーティーでこんな事を提案できる人物なんて、恐らく、よっぽど位が高い人物に違いない。
側近、近衛の誰か、まさか転移者の誰かが王と知り合いでとか。
謎は深まるばかりだが、ここで悩んでいても埒が明かない、とりあえず僕も会場入りすることにした。
――――――――――――――――
「まあ、あれが……」
「噂の、彼が……」
会場中からヒソヒソとウワサされてるのが伝わってくる。
予想はしていたけれど、実際その立場になるとやっぱこう、なんて言うか……テンション上がるなこれ。
全方位から注目を集めているのが肌でわかる。
遠くのあの人も、さっきすれ違ったこの人も、みんな自分を見てる……。
口元は扇子や手で隠しながら目線だけはうっすらこっちを向いてまるで、別に興味はありませんよー、みたいな。
渦中の人になるって言うのが初めてだから、むず痒くはあるんだけど、こう全能感? っていうか、今ならなんでもできそうな感じがして止まない、止まないぞこれ!
今なら、人混みの中に入ったらモーセの如く全員がザーッと避けてくれたりとか、パチンって指鳴らしたら大体のことを執事の人が片付けてくれたりとか、見ず知らずの女性に声掛けて、「こんな退屈なとこよりさ、どこかへ抜け出さない? 」 って二人っきりでランデブーしに行ったりとか、そんなことが、できそうな気がする! (できない)
そうと決まれば早速……!!!
……の前に、せっかくだしそのたこ焼きを食べてからにしよう。
「ごめんください、その、たこ焼きをひとつ」
「んっ? おお、えーとユーリやったな。じぶんのおかげで、俺は今えらい大変な作業させられてん。分かるか? このタコとかいうのを捌かなあかんし、このたこ焼きちゅうんを綺麗に球にせんといかん。有名貴族以外にも、下手したら王様やって食うかもしれん、万一変なもん入ったら俺、首かもしれへんのやぞ」
「ははは……大変そうですね」
「その薄ら笑い、全く分かってへんやろ! 」
包丁をこっちに向けながら会話する彼、カイナさん。
「そろそろ板に付いてきたところか、カイナ」
「なっ、エリッサさん……」
「私もひとつ貰おうと思っていたところだ。その、タコヤキとやらを」
「はぁ……皆よう食べますな。まあ、エリッサさんの腹ペコ具合は今に始まったことやないですけど」
仲睦まじい会話を繰り広げる中、隣にいた召使いの人から僕らの元にたこ焼きが届く。
ソースとマヨネーズがかかった、これぞな見た目のたこ焼き。
出来たてで湯気がたち、上にかかった鰹節が踊ってる。
てか、鰹節ってのも異世界にあるもんなんだな。
爪楊枝が刺さっていたので、それを持ち手にパクリひと口。
「あ”っ……」
熱い。マジで味が分からない。
「水水……ああ、すっきりした」
ほぼ流し込むような形で一つ目を終えてしまった。
出来たてのたこ焼きを食べる時はいっつもこうなんだ。
「気を取り直して……ふぅふぅ。えいっ」
冷ましてから、2つ目。
今度は正しく味を感じとれた。
うん、そこそこ。いや、かなりかも。
出汁の味がしっかりとした、本格派のたこ焼きだ。
外が熱気で少しベチャッとしてるが、それゆえの出来たて具合。
中がトロッとしていて、かつ具材の味が感じとれる。
ネギ、生姜、そしてタコ。
大切りのぶりっとした食感ありまくりのタコは、意図してなのかあるいは初心者ゆえなのか、どちらにせよ思い切ってて良い食べ応えを出している。
「おいひいですよ、カイナさん」
「うむ、上出来だ。初めて食べたがなかなかのものだな」
「お二人ともそりゃどうも。良かったら変わってくれても」
「「そりゃぁ、結構……」」
「ああ、そうですかい! 」
――――――――――――――――
「君がユーリ君かな? 」
団欒を楽しんでいると、後ろから声がかかる。
長い白髭の特徴的な長身の男性。
見たことは無い、多分初めましてかな。
「私はモールツマン。スクルドより東に位置するウェルザンディの地で辺境伯をしている。以後、お見知り置きを」
「はぁ」
辺境伯……ね。確か王都から離れた場所で王に代わってその地を治めてる人、で合ってるかな。
隅の方に追いやられてるから位が低いのかって思うけど実際のところはそんなことなくて、むしろ前線に近く重要拠点だから、より信頼できる人に任せているそうな。
この世界ではどうなってるのか分からないけど、でも、そこら辺の貴族よかきっと偉い人なはず。
そんな方が一体どんなようで僕に……?
「声をかけたのはほかでもない、君にお礼がいいたくて」
「お礼、ですか」
「スクルドの件、止めてくれて助かったよ。君がラストリゾートの発を止めてくれなければ、危うくこちらから兵を出さざるを得なかったからね」
「そう、ですか……」
兵を出すのを止めたから感謝される……。
文字面だけでみたら、単に忙しくならなくて良かったという事だけど、今回はそうじゃない。
ラストリゾート。
街一つを焼く、犠牲の上で成り立つ作戦。
「表情からわかってるようだけど、ラストリゾートとは護るべき民を焼き討ちにする、必要悪のような作戦だ。兵士たちに味方殺しなどという卑劣な事を指示するなど、胸がいたんでしょうがなかった。止めの一報が入った時は心から安堵したよ、良かったこれで心の消耗が避けられる、とな」
モールツマンさんは、僕に握手を求めてきた。
それに応じると、優しい顔で喜んでくれた。
こんなことで笑顔になってくれるなんて、なんだかそれだけいいことしたんだなって実感がやっと湧いてきた。
そうか、僕はそれだけの事をしたんだな……。
「また機会があればの。元気でな、ユーリ君」
そう言って、元いた場所へ戻っていく彼。
見ず知らずの人にお礼を言われるなんて中々無い経験だ。
しっかりと胸に刻まれたぞ。




