王都へ 3
王都3
馬車を降りると、そこにはとんでもなく巨大な門。
アニメでもRPGでも見慣れてはいるけど、実物を目にするとなると、やっぱりその大きさに圧倒される。
思わず笑みが溢れちゃうくらいにはインパクトがあって、一体何を通すためにこんなサイズにしたんだろうとそんな疑問すら浮かんでくる。
その門の両隣には見張りだろう警備の人が2人。
見たところ、エリッサさんの部下の人たちと同じ服装をしているから、彼らは王都直属護衛隊の人なんだろう。
というか、彼らが王都直属護衛隊じゃなかったなら、王都直属護衛隊ってなんなんだろうって話だ。
名前の通り王都直属護衛隊。
王都を直属で護衛する隊。
王都の玄関口で見張りをしているのが彼らじゃないのなら、一体誰が王都直属護衛隊なんだ。
顔なじみなのか、はたまたエリッサさんの顔の広さなのか、顔パスかってくらい簡単に、僕らは警備の横を通り過ぎた。
門を抜けると、目の前の視界が一気に広がる。
広場まで続く大通りの一本道。
人でごった返してる様子は、いつか家族旅行で行った東京のアメ横を思い返す。
スクルドの大通りとは比べ物にならない幅と広さ。
王都の名の通り、この国で最も栄えている街だ。
そりゃこうもなるかと圧巻の一言。
大通りの脇には、武具や装飾品、飲食物から魔導具まで、雑多様々な品物たちがよりどりみどりに並んでいる。
遠目から見るだけでも目移りしてしまい、こんなん一軒一軒集中するのが困難だろって……そんな感想が浮かんでくる。
「どうだユーリ。初めての王都は」
「そう……ですね。なんて言うかスケール感がまた一段と違うというか」
「そうだな。俺も初めて来た時は、目線動かしっぱなしだった。田舎モンだって思われないように誤魔化そうとしたけど、これを前にしちゃ身体の方がビビっちまったよ」
ルフローヴさんの言うことも分かる。
気づいたら、無意識に身体の方が震えてる。
興奮の表れなのか、この光景に打ちのめされていると言うべきなのか。
異世界に来て初っ端も、確かこんな感じだったっけ。
まだ名前も知らなかったメアさんに介抱されるまで、その場に立ち尽くしていた。
その時以来の感情が、今この場に立って再燃している。
「とりあえず、君たちを宿まで案内しよう」
エリッサさんの誘導で、僕らは大通りを行く。
人混みの間にできる道無き道を縦1列で進んでいく。
こう進むと、まるでパーティを組んでるみたいだ。
先頭のエリッサさんをリーダーに、見習い魔法職の僕と、前衛アタッカーのルフローヴさん。
バランスとしては、タンクやヒーラーが居ないけれど、何より戦闘力が圧倒的だし、最悪、代償変換の力があれば治癒は一瞬でどうにかなる。
王都だから、凄腕のパーティがぞろぞろといるんだろうけど、多分僕らだって負けてないというか僕らの方がやれるんじゃないかな。
いつかこの3人、プラス暁音さんみたいな構成で冒険にでも出てみたいな……なんてそんなこと思ったり思わなかったり。
広場の隅を通り過ぎていると、その中央に目がいった。
大勢が集まるその中心には、小綺麗な格好の吟遊詩人がいた。
楽器を片手に人々に詩を唄う。
王都のこんなど真ん中であれだけの人を集めるとなると、あの吟遊詩人には独特の魅力ってもんがあるんだろう。
その凜とした佇まいか、はたまたピカイチな楽器の腕前か、それとも唄う詩の内容なのか。
いいや、きっと全部揃ってこそなんだろう。
現代風に言うならプロ。
この場所で詩を唄えるのは、ほんのひと握り。
人々に詩を伝えることに魂をかけた、詩唄い。
それが、彼…………彼女?
まあどちらかは、わかんないけどその人は、多分吟遊詩人界のSクラス。
なにか機会があれば足を止めてゆっくり聞きたいなと思いながらも、僕らは先へ先へと進んだ。
―――――――――――――――
しばらくして、宿に着いた。
「しばらくしたらまた迎えに来る。それまで自由にしていてくれて構わない。外に出る際は支配人に一言申し付けてくれ」
エリッサさんはそう言い残して宿の外へ。
残された僕ら2人は、ひとまず荷物を置いてから、ベッドの上にくつろいだ。
「っあ〜。長旅、お疲れ様でした」
「かれこれ4〜5時間か。いくら慣れてても馬車移動ってのはなかなか腰にくるな」
「そこに効くのがこのベッド。ふっかふかで休み心地最高ですよ」
「ああ、そうだな。まっさらなシーツ、整えられた装丁、妙に反発のいい枕といい、心地の良い気味の悪さがあるな。うちのメイドたちも頑張ってはくれているが、この質というのはやはり一流の宿屋にしか出せないんだろうな」
ルフローヴさんの言う通り。
国側から手配されたここは、並大抵の宿屋では無い。
廊下の時点から漂っていた高貴なる風格。
休みに来たはずが逆に緊張を覚えさせられるほどに寸分の隙もない清潔感。
落ち着けるのか心配になるほどだったが、ひとたび部屋に入ればそれは杞憂だと知る。
客人が休むことを目的に、最大限尽くされた一室。
ホコリひとつ残さない徹底ぶりはもちろん、広さ、高さ、醸す雰囲気、何もかもが僕らを全力で迎えてくる。
お出迎えされた僕らは、その並々ならぬおもてなしを前に何をしても構わない。
何をしたって、この部屋は安らかに迎えてくれる。
その最たる例がこのベッドだった。
パリッパリに乾いたシーツの上に、優しく包み込んでくる羽毛布団、そして靴のまま乗れるよう敷かれた帯状の布。
それらを縁下から支える、高反発なマットレス。
過去に経験のない寝心地をたった一瞬目から与えてくれる。
これを味わってしまえば、四肢は脱力を選ぶだけ。
寝ればHPMP全回復がRPGの定番だろうが、ほんとに全回復できるものは、きっとこのレベルに限ってだろう。
そう思わせられるほどに今、僕は極楽の中にいた。
「一泊いくらするんでしょうかね」
「さあな。でもひとつ言えるのは気にしない方がいい気分のままいれるってことだろう」
「王都の中でも恐らく選りすぐりの宿……か。人生でそう何度も味わえるもんじゃないですよね」
「ユーリも貴族になれば、こういう機会も何度か生まれてくるだろう。どうだ? モンタギュー家の養子になってみる気は」
「エリッサさんも言ってたけど、何かと疲れるんでしょう? 」
「……まあな」
2人して、並んだベッドの上に大の字になってしょうもないことを語り合う。
せっかくの機会だと言うのに勿体ない過ごし方な気がしないでもないが、これはこれで、正解なんだと思う。
どんな過ごし方も、確かな思い出にしてくれる。
それが一流の宿屋なんだ。
時間は割とあっという間に過ぎていった。
家にいる時に考えてた予定では、パーティーまでの待ち時間に王都観光をするつもりだったんだけど、だいぶ疲労が溜まっていたんだろうか、僕の身体は横になってそのままを選んだ。
ルフローヴさんも僕に合わせてか、部屋の中で武器の手入れをしたりパーティー用衣装に着替えたりして、待ち時間を過ごした。
そして窓から見える太陽もだんだんと沈み、月が明るさを見せてくる頃。
コンコンコンと、部屋の扉を軽く叩く音がする。
「入るぞ」
ガチャリと扉が空き、金色の髪を靡かせる彼女が現れた。
「2人とも準備は済んでいるか」
「ええ、もちろん」
自信満々に答えるルフローヴさんを横に、僕は鏡で寝癖がないかを確認してから「恐らく大丈夫です」と答えた。
「そうか。ならば直ぐにでも会場に向かってしまおう。王の御前に遅刻は厳禁だからな」
名残惜しいベッドを後に、僕ら3人は宿を出て向かう。
会場はもちろん。
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この国一番の大きさの城があったとして、それがどこにあるのかと言われれば王都で、それが誰のためのものなのかと言われれば、それはもちろん、王のために建てられたもので、そして僕らは、今日、誰に招待を受けたのかと言われれば、何を隠そう、王。
つまり、招かれる僕らの行先は。
「着いたぞ」
「ここが、アルティミア王城……! 」
身がすくむほどの迫力。
佇まいだの風格だの、僕がとやかく言うのは野暮だ。
比べちゃ悪いがスクルドの街にあった城とはまた別格。
おとぎ話に出てくるような長階段の果てにある純白のお城、それがこのアルティミア王城。
「緊張しているのか」
エリッサさんに、そう問われて初めて冷や汗をかいていたことに気づく。
「……こんなところ、人生で初めてなので」
「多少の無礼をはたらいたとて今代の王は寛容だ、ご容赦くださるだろう」
「ユーリ。俺たちは招かれた客人なんだ。招かれた者として、楽しんでやるってくらいの気持ちで行こう」
「そう、ですね」
意識がそう簡単に変わる訳では無いが、2人のおかげで少しだけ緊張がほぐれる。
一国の主たる王。
そんな人を前にして、僕はちゃんと言葉を話せるんだろうか…………。
エリッサさんを先頭に、僕らはいよいよ王城の中へと入った。
巨大なシャンデリアに無数の絵画。
外観から持たされたイメージは、中へ入っても変わらずのままで、絵に書いたような王城の有り様が視界の隅々に広がっている。
「さて会場はこの扉の向こうだ。気負いせず、街を救った英雄として、パーティーを楽しんでくれ」
エリッサさんの手によって、パーティーへの扉が開かれる。
待っていた景色は。




