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王都へ

「悠里くん、忘れ物は無いね? 」

「もう、無いってば……。何回するのさ、このくだり」


 持ち物なんて、招待状くらいなものなのに、暁音さんは、今日も朝起きてからずっと忘れ物がないかと確認し続けてくる。

 もう、はっきり言って過保護だ。


「心配だから一緒に馬車乗り場まで行こうか……? 」

「だから大丈夫だって……! 」

「ホントに? 悠里くん悪運強いから、なんかに絡まれたりしそうだなって」

「そこは否定しないけど、今回ばかりも大丈夫だって」


 心配してくれてる彼女には悪いけど、こんなやり取りをしている方が、多分時間の無駄。

 今日は割と出発が早いんだ、そろそろ出ないと間に合わなくなる。


「じゃあ、行ってきます」

「待って、悠里くん」


 

 玄関の扉を閉めようとすると、暁音さんが待ったをかける。

 


「パーティー、楽しんできてね」



「うん」

 

――――――――――――――――――――――――




 


 集合場所に着くと、2人は先にそこにいた。


「来たか、ユーリ! 」

「お待たせしました、ルフローヴさん、エリッサさん」


 金と銀、2人の輝くその髪は何か特別な光の粒を纏っているかの如く美しい。

 服装はまだいつも通りなのに、既に風格みたいなものがにじみでている。

 僕がここにいることに場違い感が否めないが、僕だってれっきとした招待者だ。

 行く前から気負いしちゃあいけない。


「ユーリは、もう着替えてきたのか」

「あっはい」

「そうか。向こうに宿をとってあるからそちらでと思ったが、まあ、特段問題もないだろう」

「そういうお2人はいつも通りというか……武器まで持ってて戦闘モードというか」

「私はこの馬車の護衛も兼ねてるからな。王都行きの馬車というのは、魔物だけでなく盗賊からも狙われる。そこらの賊相手ならば素手でもおそらく問題は無いが念には念をということだ」

「そっか……」


 馬車が襲われるって想定は、電車やバスに慣れてる現代人の僕にとっては頭の片隅にもなかった。

 こっち来てから馬車に乗る時なんていつも全裸拘束されてるし、そんな発想湧いてくるはずもない。

 

「ユーリは手ぶらなんだな」

「えっまあ、そういう想定してなかったもので……」


 そういう異世界常識みたいなのが欠けてる中で、常識が特に問われるパーティーに参加するなんて、ほんとに大丈夫なんだろうか。

 今から、気が重くなる。


「なんだか不安そうだな。俺のを一本持つか? 」

「あいやっ、変に壊したりしたら責任取れないんで……」

「ハハッ、大丈夫だ。何かあったら俺と、"あの"エリッサさんが君を守るさ」

「ああ、君のことは何があろうと生かして返す」


 2人からの心強い眼差しが、強すぎて逆に痛い。

 いつかエリッサさんの部下が言ってた通り、この2人の隣にいたら傷つく方が難しいな……。




 僕らがそこそこのスペースの荷台に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き始める。

 木製の長椅子は、やはり長時間と座るなると腰が痛むだろう。

 が、それでも、いつもの目隠し拘束状態とは大違いだ。

 手や足を自由に動かせる喜び。

 同じ馬車でもここまで快適になるとは思わなかった。


「到着まではしばらくある。羽を伸ばすには少々心もとないかもしれぬが、ゆっくり身体をやすめてくれ」


 エリッサさんの言葉に甘えて、少し体勢を楽にする。

 ガタガタ揺れる振動が少し心地よく、ちょうどよく眠気を誘ってくる。

 なんだかちょっとした旅行でもしている気分だ。

 


 

 完全に各々リラックス仕切ったところで、ルフローヴさんが口を開く。

 

「そうだ、せっかく時間があるなら2人に聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと、ですか」

「ああ、どこで知り合ったとか何繋がりの縁なのかとか。特にユーリには、なんか聞きたいことだらけさ」

「私もそうだな。ユーリの話す異文化の話は面白いものばかりだからな」

「えっと……まあ、話くらいなら」


 そうして、2人にせがまれるようにして僕は元の世界の話をした。

 金属製でも宙を浮く飛行機、糸すら伝わずに意思疎通がとれる携帯電話、極めつけは一瞬で絵や文章が生成できる人工知能。

 原理なんかは僕も分からないから説明のしようがないけど、でも、そんなものがあの世界では確かに実用化されているのだと言うと、2人は目を丸くして互いに見合せていた。


「本当の話とは思えないなぁ……」

「ああ、まるで異世界の話だ」


 2人の意見はごもっともで、この世界の文化レベルからすると空想上の話にしか聞こえないはずだ。


「………………」

 

 話の間、エリッサさんはあごに手を当ててずっと一点を見つめていた。

 多分、僕の話した物たちの仕組みか何かを考えていたんだろうけど、まだ機械も発達しきってないこの世界の知識じゃ理解し切ることなんてできるはずもなく、最後には笑みをこぼしていた。


「ふふっ、お手上げだ。君の不思議な力といい、その話と言い、君は異世界から召喚でもされてきたんじゃないのか」

「えっ!? 」


 ズバリ言い当てられ、思わず声が出る。

 いやまあ、彼女は冗談のつもりで言ったんだろう。

 別に当てられたとて、隠してる訳でもないし異世界転移してきたって言ってもいいんだけど、場合によっては場がシラケるかもしれないし、最後は変な目で見られるのがオチだしな。ははは……と笑って誤魔化しておこう。

 

「もしかしたら、ユーリがアルティミア様に選ばれた、加護人だったりしてな」

「その可能性も捨てきれんな。と言っても単なる神話だからな」

「アルティミア様……? 加護人……? 」


 なにやら聞きなれないワードがチラホラと。


「そうか異邦人だからユーリは知らないか。アルティミア様って言うのはこの国で信仰されてる、万物を司るとされる女神様。ただ唯一の神にして、絶対の理。アルティミア様以外の信仰は、この国じゃ認められてないくらいだ」

「へぇ……」


 なんだか日本出身だからそういうのは新鮮だな……。


「そのアルティミア様に関する言い伝えの中に、加護人ってのがある。この国がいつか災いに堕ちた時に、女神様によって選ばれた加護人なる異世界からの来訪者が現れると。その加護人は、この大地と根源から繋がることが可能で、魔術では無い、別枠の異能を扱えるらしい」

「まさにユーリ、君のことだな」

「いやまあ、そう言われればそうかもですけど……」


 確かに話だけ聞けば、当てはまってるっちゃあてはまってる。けど、やっぱり僕はその加護人ってやつじゃない。

 だって、当てはまるのは他の転移者たちもそうだし、僕を転移させたのはアルティミア様じゃない。




 何より神様、男だったし。



 

 神様から、君は加護人だ、なんて言われなかったし、あくまでも言い伝えは言い伝えってことなんだろう。


「ははっ。まあ、ほんとにそうだとは思ってないさ。話してたらわかる、ユーリはそんなかしこまった格のやつじゃないって」

「……え? 」

「同感だな」

「それって何……貶されてる……? 」

「ははっ、そうじゃない。なんというか、ユーリには重い役割とかが似合わないっていうか、もっと自由にのびのび生きてく方が向いてるって言うか」

「ああ、使命や役割に囚われるより、自らの意思に従って進む方が君らしい」

「は、はぁ……」


 自分の意思に従ってか……。

 なんだかよく分からないけど、僕はそういう器に向いてないってことだけはよくわかった。

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