試験
裏になった紙と、羽根ペン。
机の上に置かれたそれらを、静寂の中ただ見つめる。
膝の上に手を置いて、滲む手汗をなんども拭く。
直前までなかった緊張がどっと押し寄せてくる。
まさか朝の暁音さんの態度は、僕を緊張させまいとわざとやっていたんじゃ……なんて余計勘ぐりすら頭をよぎる始末。
こんなんじゃ、本調子なんて夢のまた夢。
おそらく、実力の7割も出せればいい方だ。
「それでは、解答を始めてください」
声がかかり、皆一斉にペンを手にとる。
真っ先に書くのは自分の氏名。
紙の上を滑るペンの音だけが部屋の中に響く。
3級の時とは大違い。ここにいる一人一人が、目の前の紙にだけ意識を集中させている。
僕も負けじと、急いで名前を書く。
頭の中には、自然となにかのゲームの戦闘BGMが流れ出す。
戦闘、その名の通りこれは戦いだ。
目の前に現れる問題たちを制限時間内に切り伏せる。
問題ごとの力量を計って、どれなら解けるかを瞬時に判断。
とれるものから1点でも多く、点をむしり取ってやる。
判断すると言っても、そんなうんたらゼミでやったところ……! みたいに丸々出る訳では無い。
知っているはずの知識が、入り交じって複雑化され、まるではじめましてかのような状態で問題として現れる。
実際に知識そのまま当てはめて正解できるのは、多分問題の3割くらいだ。
解き進めて、約30分。
今のところの体感は、学校の定期テスト位の難易度。
いつもなら分かるところだけ埋めてふて寝だった僕も、今までの成果か、何とかくらいつけている。
だが、どうやらそれもここまでみたいだ。
「……っ」
手詰まり、これ以上はどう解いていいのか分からないものばかり。
手も足も出ないって程じゃないけど、このまま解いていたとしても果たして正解まで辿り着けるのか不安になるものしか残ってない。
仮に今までに解き終えたところが全て合ってたとしても、6割5分……。
合格点には多分ギリギリ達しているかどうかってくらいだ。
さて、どうしたものか。
こうして悩んでいる間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。
人生かかった試験だ、1秒たりとも無駄にはできない。
とりあえず頭から、もう一度見直す。
記述計算ミスが無いか、思い出して今なら解ける問題がないかを確認。
この時間なんて、結局のところ足掻きでしかない。
解けなかった問題の中から、何とか得点もぎ取ろうと必死になってもがいてあがくだけの時間。
1mでも1cmでも遠く遠くに進むために、犬かき以下の崩れたフォームで何とか意地で踏ん張り続ける。
余裕もって合格出来るやつは、こんな作業をすることは無い。正しい泳ぎ方で向こう岸まで渡るんだ。
残り5分。
最後、僕はこいつに狙いを定めた。
エーテルエネルギー保存則に関する、計算問題。
正直いって、解法はまだピンと来ない。
けれど、この単元は暁音さんやゼラさんにしっかり叩き込まれた分野。
勝負を決めるなら、ここしかない。
とりあえず、使えそうな公式を片っ端から羅列する。
覚えてる限り、全部だ。
どれとどれを組みあわせて、どんな考え方したらいいのか、知ってる知識を総動員させる。
僅かに見えた解の糸口を逃さないよう神経を張り詰めて、意識を問題だけにつぎ込む。
計算用紙に文字を書くスピードが段々と増す。
時間が無い、ならこっちが速く書くしかない。
乱れた字、高まる心拍数。問題を解いているはずが、気分はまるで短距離走のようだ。
悩めど悩めど思いつかぬ解法。
ここまでかと思った時、ふと過ぎる。
「…………もしかしてっ」
これは実力じゃない。千載一遇のまぐれだ。
たまたま見つけ出したんだ、この問題の解に至るまでのプロセスを。
勝った。頭の中はそれでいっぱいだった。
あとはこれを用紙の中に書き切るだけ。
ペンを走らせ、力いっぱいに腕をふるわせる。
あと3行、2行……。
1行……!!!
「そこまで、ペンを止めてください」
試験官の声で、ペンを離した。
終わった。その瞬間をもって試験は終了した。
終了した瞬間の僕は、不思議と息を切らしていた。
ギリギリで書ききった。
そのことへの安堵で胸の中はいっぱいだった。
だがそれもつかの間の事。
だんだんと落ち着いてきた中、冷静になって見直せば、こんなの読めるかギリギリの文字。
まともに採点してくれるかも怪しいだろう。
それに付け加えて、終わった途端にミスに気がつく。
取り返しがつかなくなった瞬間に発見しても、もう意味が無い。
解き方の前提から間違えていたその問題の回答は、恐らく部分点にもならない。
まだ埋まらずの空欄を残して、無慈悲にも回収されていく僕の答案。
あれが僕の結果だ。
読んでいただきありがとうございます!!!
よろしければ評価の方よろしくお願いします!
作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m




