モンタギュー家
翌日、衣装を買ったその足で、僕はとあるお屋敷の前にいる。
街の中でも1、2を争うほど立派な建物。
横も縦もありえないくらい大きい。
門の大きさですら僕の身長の倍はある。
その門の奥には薔薇っぽい花や剪定された木々の数々。
一目見てわかる美しさは、きっとお付きの庭師がいるんだろう。
「これが、モンタギュー家……凄いな」
とりあえず、近くにいたメイド服の使用人の方に声をかけて、「ルフローヴさんに用事があって」と伝える。
すると、彼女は直ぐに取り持ってくれて、確認が取れると僕を屋敷の中へ入れてくれた。
やっぱり、本物のメイドさんは気品が違うな……。
屋敷内の壺や絵画など厳かな美術品の並ぶ廊下を通り、案内された部屋へと入る。
「やあ、ユーリ! 久しぶり! 」
「お久しぶりです、ユーリさん」
入って早々2人から暖かな歓迎を受ける。
「ルフローヴさん、ユイナちゃん! こんにちは」
席に座って待っていた2人は、わざわざ立ち上がり、僕の元まで歩いてきてくれる。
「ごめんなさい急な訪問で」
「なーに、いつだって大歓迎さ。な、ユイナ」
「はい! 」
ルフローヴさんの言葉に元気よく頷くユイナちゃん。
見たところあの足の傷はもう完全に癒えているようだ。
「さあ、座ってくれ」
「お茶菓子もありますから、どうぞお食べになってください」
手厚いまでのおもてなしに、思わず口元が緩む。
屋敷に入ってからあった少し緊張は、2人のおかげでほとんどなくなり、僕は心地のよいままに席につけた。
「どうだい、最近の調子は」
「まあ、ぼちぼちです」
「何かなさった事とかは」
「なさった……ああ、魔導試験の3級に受かって、あと少ししたら2級を受けるところです」
「そうか、魔験か……。あれは少し手厳しいところがあるからな」
「ルフローヴさんも受けたとこあるんですか」
「ああ。昔な」
「お義兄様は昔、王都直属護衛隊に属していたんです」
「ああ、それで試験を……! 」
王都直属護衛隊。それを聞いて、ルフローヴさんの強さの理由に納得がいった。
ただの貴族じゃないとは思っていたけど、まさか実力派のエリートだったとは……。
「凄いですね……」
「もう、昔の話だよ。今じゃ多分2級を超えるのですら精一杯さ」
「お義兄様、またご謙遜を」
「ホントだってユイナ。あんまり兄を過大評価するもんじゃないぞ」
楽しい会話にひと段落着いたところで、本題を切り出す。
「そのっ、ルフローヴさん」
「ん? どうした」
「えっと、これを見てほしいんですけど」
そうして取りだしたのは、国王主催のパーティーの招待状。
「はぁ、パーティーね。これ、ユーリ宛じゃないか。そうか、国王直々にか。確かに、ラストリゾートの討伐だ。街丸ごと救ったと言っても過言じゃない。良かったな、国王直々に讃えられることなんて、そうあるものじゃない」
「それはまあ、はい……。で、なんですけど、そのパーティーに同席者が1名までついていけるそうで。なので、ルフローヴさんに、一緒に着いてきて欲しくて」
少し目を大きく開いたルフローヴさんは、少し考え込むように顎に手を当てる。
「…………俺か。あの子は」
「暁音さんには、もっとふさわしい人がいるって、断られてしまって」
「それが俺だと……? 」
「はい。確かに暁音さんの言う通りなんです。僕が賞賛を受けるなら、同じくらいルフローヴさんも受けなきゃおかしいから。あの時、ルフローヴさんがいなければ、僕は負けてました」
「いや、それは違うなユーリ。恐らくだけど、俺が居なくても、ユーリはあいつを倒せていた。それだけの底力はまだ君の中にはあったはず。しかし、それまで使えば君は死んでいた。俺は、勝負に加担したんじゃない。あくまで君の命を救ったまでだ」
「そうだとしても、僕だけの勝ちじゃないから。ルフローヴさんには、感謝してもしきれないんです。恩人としてでもいいんです。一緒に出てくれませんか……? 」
僕の言葉に考え込む彼。
しばらくに渡るそれを終わらせたのは、他でもないユイナちゃんだった。
「お義兄様、悩む理由もないのでは? 」
「というと」
「ただ、ユーリさんの友人としてパーティーにご出席するだけでいいのです。立場なんて気にせず、1人のご友人として」
「…………そうだな。よし、そうしよう! 」
「じゃあ! 」
「ああ、ユーリ。俺も行くよ」
よっしゃぁ!
「ありがとうございます。ルフローヴさん」
「礼を言うのはこっちの方だ。素敵な誘いに、俺を選んでくれてありがとう」
「いえいえそんなっ……! 」
「お義兄様、すごく楽しそうですね」
「そりゃあそうだろう! なんせ、家柄の関係ない久しぶりの用事だ。思いっきり羽が伸ばせるってもんだ」
王様のいるパーティーでもそう言えるって、貴族の暮らしも楽なもんじゃないんだな。




