王都への誘い
試験まで、残り10日となった。
それまでの日々は恐ろしいほど変わったことがなんにもなくて、まるで嵐の前の静けさかと言わんばかりだった。
アルバイトも残すところあと数日分、それさえ終えれば無事に予算は元通りになる。
勉強の方はと言うと、まあ僕の頭の覚えの悪いこと。
未だ、暁音さんの設定してくれたボーダーラインギリギリを責めている状態。少しでも油断すれば、不合格一直線。油断も隙もあったもんじゃない。
「さて、今日の授業で最後となる。皆、よくここまでついてきてくれた」
ゼラさんともおそらくは今日が最後。
授業の中でたくさんのことを教えてくれたが、果たして僕はそのうちの何割を吸収することが出来ただろうか。
その結果は、どう足掻いても10日後にすべて決まる。
隣の席だったおば様とも、今日が最後。
「お兄さん、今までありがとうね」
「こちらこそ。あんまり役には立てなかったですけど……」
「いいのよ。一緒に授業受けてくれるだけで、心強かったわ」
最後には握手までしちゃって、なんか湿っぽくなってしまった。
今生の別れという訳でもないんだ。
異世界にいるうちは、またどこかで会えるだろう。
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「穴もだいぶ深くなりましたね」
「ああ、新入りが来てからもう早いので3ヶ月くらいか。そんだけ経てば、この穴もそれだけ深くなるってもんよ」
すっかり仲良くなった先輩たちとも、もうすぐお別れ。
あと数日後には辞めると伝えると「寂しくなるな」と決まって返される。
そんなに賑やかな人間じゃなかったと思うが、やっぱり長い時間を一緒に過ごすと、情ってのが湧いてくるんだろうな。
「ぼさっとしてんな。まだ作業は終わってないんだぞ」
「げっ、いばら姫……」
そうだ、メアさん達ともお別れになるんだ。
思えば、初日は鉄球投げられたり、しばらくずーっとお前呼びだったし。
よくここまで仲良くなれたなと思う反面、仲良くなるとより別れが寂しくなる。
「メアさん。今までありがとうございました」
「……そういうのは終わってからにしろ。ほらいけよ」
「はいっ! 」
最終日には、あの今度こそあの焼き菓子を持っていこう。
思い残すことも、後腐れもないように。
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「悠里くん、お風呂先入る? 」
「ううん、先入っちゃって。もう少しだけここやっておかないと」
「へぇ……悠里くん気合入ってるね」
「まあ、受からないといけないから」
暁音さんには、住まいに食料、更には勉強自体まで面倒見てもらっていて、感謝しきれない。
その恩は、生きてこの世界から帰るという目標を果たして必ず返す。
そのためにも、まずは最初の壁であるこの試験を超える。
「あんまり無理だけはしないでね」
「分かってるよ」
無理だけって……暁音さんは優しいな。
「……あっ、そうだ。悠里くん宛にお手紙きてたよ」
「手紙……? 差出人は……エリッサさんだ」
受け取った手紙を開くと、2枚の紙が。
1枚は意匠の凝られたデザイン、金の縁どりに赤い花の絵があり、印刷もまともに出来ないこの時代によくやるなぁと感心させられる。
もう1枚は折りたたまれた、いわゆる普通の手紙。
文字的に以前エリッサさんから貰った手紙の字と同じ感じがしたから、先にこっちから目を通す。
「えーっと……
『突然の申し出で済まない。様々事情があるのだが、ひとまず手短に書く。国王主催のパーティーに出席して貰えないだろうか。先日の螺旋模様の火竜の討伐の功績を、国王自らが讃えたいとのことだそうだ。同封してある物が招待状になる。同席者1名までとの事なので、ぜひ友人と共に。馬車の手配はこちらで済ませてある。下部をたよりに指定の場所まできて欲しい。よき集いになることを私も楽しみにしている。 リッサ・A・フォルフォード』
って、パーティーかぁあああ……」
2枚目の招待状にも目を通すと、しっかりと僕の名前が。
「何? 苦手なの? 」
僕の表情を読み取ったのか、不思議そうにそう言う暁音さん。
「いやまあ、そういう集まりにあんまりいい思い出がなくて」
「へぇー」
「クラスの打ち上げとか行ってもあんまり楽しみきれなかったっていうか。人数合わせの1人みたいなのでで終わっちゃって」
「ふーん。じゃあ行かないの?」
「いや、エリッサさんからのお誘いだから、行くには行くんだけど……着るものもないしどうしようかなって……」
パーティという名の社交の場。
しかも主催は王様と来た。
無礼がないようになんてそりゃ当然だけど、絶対にノーミスで終われるはずがない。
だって、前段階の時点でスーツの1着もないんだぞ。
「着るものね……そりゃ王様直々のパーティだもん。それなりのドレスコードはあるよね。普段着じゃさすがに笑いものにされちゃうし」
「そうなんだよ。今から買いに走るにしても、そんなお金も無いし」
「そうなのよね。これ以上悠里くん働かせるのはいくらなんでもマズイからなぁ……はぁ」
ため息をついた暁音さんは、やれやれと言わんばかりに
首を振る
「分かった出すよ」
「何を」
「試験合格の前祝い、私が衣装代出してあげる」
「神か!? 」
申し訳ない気持ちはあるものの、これ以外にパーティに出る方法は無い。
ここは暁音さんに頼るしかないな。
「そしたら明日、バイトも授業もないから、暁音さんの分の衣装も一緒に買いに……」
「何、暁音さんの分って」
「え? 」
「私は行かないよ? 」
「行かないの!? 」
「だって、私なんかより、ちゃんと讃えられるべき人がいるでしょ? 」
「褒められるべき……? あっ! 」
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