リナと祖母 3
「……x=1/2at²+v。t……x=1/2at²+v。t……」
「何ブツブツ言ってんの? キモイよ? 」
「キモくてもいいんです、受かるためなんで」
「あっそ、尚更キモイけど好きにしなよ。とりあえず今日の作業はおしまいだから早いとこ馬車乗りな」
「分かりました、メアさん」
覚えたての式を何度も何度も唱え続ける。
傍から見たら、やはり気持ち悪がられるようだ。
でも、全ては受かるためだ。
ここで妥協したら、今までの頑張りが全てパーになる。
「……x=1/2at²+v。t……x=1/2at²+v。t……」
「何ブツブツ言ってんだ新入り」
「式を暗唱してるんです。試験に受かるために」
「はぁ……。なんだかよく分からないけど、根詰め過ぎないようにな」
「分かってます! 」
乗った馬車の中でも、怒られない程度にボソボソと唱え続ける。
これだけやればもう十分だろう、とは思うけど、やはり念には念を入れなければ。
――――――――――――――――――――――――
「何唱えてるの? 」
馬車から降りて、今日のお給金を受け取った時のこと。
今日一日で色んな人に突っ込まれたけど、最後の最後にリナさんにまで突っ込まれるとは。
まあ、急にこんなことしだしたら不審だよな。
僕も電車とか乗ってて隣にそんな奴が座ったらちょっと身構えちゃうもん。
「魔法の式を暗唱してて……」
「へぇ……勉強熱心で偉いね! ユーリくん」
「偉いだなんて、そんなっ……」
リナさんは優しいから褒めてくれるけど、明日からは控えた方がいいよなこれ。
唱えるのを頭の中だけで完結させるとか、もっとやりようはあるだろうし。
「ふふっ。あっ、そろそろ行かないと」
「どこか行くんですか」
「うん、おばあちゃんのとこ」
そういえば前に準備がどうとか言ってたっけ。
でもこんな時間からなのか……。
「メアリィ、あと頼める? 」
「いいけど……」
メアさんは、少し不安そうに返事をした。
リナさんは、「じゃあ、後よろしくね」と言い残して、少し駆け足で去っていった。
残さたメアさんは、まだ不安げな表情のまま。
お給金配るのはいつもやってる事だけど、やっぱりひとりじゃ不安なのかな?
差し出がましいかもだけど、手伝いを申し出ることに。
「あのっ、良かったら手伝いましょうか」
「は? なんで? 」
「あいや、1人で不安かな……と」
「いつもやってる事だから1人でできるよ。何、ユーリ。私の事なめてるの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「私のことはいいよ。いつも通り帰んな」
手伝いを断られてそのまま帰路につこうと思ったが、メアさんの表情はまださっきと同じく浮かないまま。
きっと、何かほかに原因があるに違いない。
こういうのに首を突っ込むのは、お節介ってやつなんだろうけど、どうしても気になって、メアさんが作業を終えるまで待つことに。
「あっそうだ……x=1/2at²+v。t……x=1/2at²+v。t……」
――――――――――――――――――――――――
「ユーリ、まだいたんだ。相変わらずキモイね、そのブツブツ唱えてるの」
「あっ、メアさん。待ってたんですよ! 」
「えっ何、私……? ユーリお前、ほんとにストーカーになったの」
「いや、そうじゃないですけど」
「いいや、そうだよ。ストーカーはみんな言うんだ。自分はストーカーじゃないって」
「もしかして過去に経験が……」
「いや無いけど」
無いんかい……。
「それで? なんで待ってたのさ」
「えっと、メアさんの表情が気になって」
「表情……? 」
「なんか浮かない顔してるっぽかったから、どうしたかなって」
尋ねると、直ぐに考え込むようなポーズを取り、こう聞き返す。
「それは今日一日中だったか? 」
「いや、気づいたのはさっきリナさんと別れてからだったと思います」
彼女はしばらくそのままでいると、はぁとため息をついて、まるで隠し通すのが無理だったと言わんばかりにこう言った。
「……じゃあ、顔に出ちゃってたんだな」
「えっ? 」
「着いてきなよ。私の不安の種、見せてあげる」
読んでいただきありがとうございます!!!
よろしければ評価の方よろしくお願いします!
作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m




