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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
三章 私が全部背負うから
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リナと祖母 1


 眩いくらいの夜空の下、私のおばあちゃんは星に指をさしてこう言った。




 


「リナちゃんのパパとママは、あそこにいるんだよ」



 


 満点の星空、その中に輝く一粒の星。

 私のパパとママはあそこにいる。


 

 素直な思いは、



 

「どうして? 」


 

 

 だった。

 



 おばあちゃんは色々教えてくれた。


「2人は長い長い旅に出ているんだよ。遠く遠くで、リナちゃんが大きくなるのを見守ってくれているんだよ」


 でもそれは、私のどうしてを晴らしてくれるものでは無かった。


 だって、あんな落っこちてしまいそうな小さなところより、もっと大きなところを選ぶはずだ。


 

 だって、すぐ横には月がある。

 


「お月様の方が大きいよ」

 


 私は喋った。

 小さな星より大きい月の方が、きっと過ごしやすいだろうと。

 見守るなら私から見てもわかりやすい、お月様の方がいいはずだろうと。


 おばあちゃんは、なんでか苦い顔をしていた。

 

 でも最後には、


「そうだね。そっちの方がいいかもね」


 って言って笑ってくれた。






 


 


「もう少ししたらおばあちゃんも、あっち側にいくんだよ」




 

 

 おばあちゃんが言った。


 

 素直な思いは、


「どうして? 」


 だった。



 おばあちゃんは色々教えてくれた。


「大きくなるリナちゃんがどこにいても見えるように、遠くへいくんだよ」


 でもそれは私のどうしてを晴らしてくれるものでは無かった。

 だって、遠くに行かなくったって私のことは見える。


 

 だって、いつもすぐそばにいる。


 

「ずっとこの家にいてよ」

 


 私は喋った。

 遠くの空よりこの家の方が、ずっと過ごしやすいだろうと。

 見守るなら抱きしめ会える、この家の方がいいはずだろうと。


 おばあちゃんは、また、苦い顔をしていた。


 今度は、笑ってはくれなかった。


 

 どうやら、おばあちゃんはどうしてもあっち側に行っちゃうみたい。

 きっと、パパとママに会いたいんだろう。

 できることなら私も行きたい。

 でも、それはダメだって言う。


 ならせめて、おばあちゃんには幸せでいて欲しいから。

 だから。


「みんなで、月に行ってよ。あの三日月に腰掛けて」


 そういうと、おばあちゃんはやっと笑顔になってくれた。


「分かったよ、リナちゃん」


――――――――――――――――――――――――





「働くって、なんでこんなに面倒なんだろうね」

「ですねー」


 2人並んで水を飲む。

 ぼくは座って、メアさんは立って。


「……おい、あのいばら姫が仲良く一杯やってるぞ! 」

「一体どういう風の吹き回しだ……? 」


 どういう風って……。


「言われてますよメアさん」

「ん、言わせときゃいいんだよ」


 そういうところはブレないんだなぁ。


「エリッサさんも一杯いかがです……って言っても水なんですけど」

「まあ、見張りも疲弊はするからな。頂いておこうか」


 エリッサさんも僕の横で水を飲む。

 

「……おい、あのエリッサと仲良さげに一杯やってるぞ」

「一体どういう風の吹き回しだ……? 」


 どういう風って……。


「エリッサさんって、やっぱりすごい人なんですね」

「どうしてだ」

「いやっ、一緒に水飲んでるだけで噂されるなんて、やっぱりすごいんだなって」

「すごいか……。どう言った物差しで測るかによるが、単に名の知られているだけだと思うが、それがすごいのか」

「知られてないよりかは凄いんじゃないの? 」


 そう、横やりを入れたメアさん。


「そうか……。ただ、名が知られているだけで何かできる訳では無いと思うのだが」

「威圧にはなるんじゃない」

「威圧か……」

「敵はよってこないかもですね」

「それは逆に困るな……」


 こんな風に話していると、僅かな休憩時間にもかかわらず周りに人集りができてしまっていた。

 なんだか僕も有名人になれたようでテンションがちょいと上がるが、実際すごいのは両隣のふたりなんだよなぁ。


「そういえば、なんで今日の護衛はエリッサさんだったんですか」

「単純に手が空いていたからだろう」

「そんなシンプルな理由なの……? 」

「現場の人間は、あくまで使われるまでよ」

「うむ、そういうことだ」

「えぇ……」


 休憩を終え、僕は作業に戻る。

 その間、メアさんはいつも通りの現場監督。

 エリッサさんは、辺りに何も居ないかを見張る。

 万が一、猛獣魔獣の類いが出た時には彼女だけが頼り。

 と言っても大体は何も無いし、出てもエリッサさんだから余程のことがあっても大丈夫だろう。


 そして、過ぎること数時間。

 案の定何も起こることはなく、作業は終わった。

 あとは荷物を片付けて馬車に乗るだけだ。


「いつもは見張りの人はこっちに乗ってるけど、さすがにエリッサさんは……」


 まあ間違いなくあっちのメアさんたちが乗る方だろう。

 いくらなんでも、全裸の男の巣窟に女性を引き込んでいいはずがない。

 目隠しして手足縛られてるとはいえ、いや、むしろそっちの方が品がないな……。


「ユーリ、お疲れ様」

「エリッサさんこそお疲れ様です。無事、何事もなくて良かったですね」

「ああ。君たちにも、この穴にも危害が及ばなくて良かったよ」

「エリッサさんには退屈だったかもですけどね」

「退屈なのはいいことだ、その分平和なのだから」


 エリッサさんの立場だと普段が忙しそうだしな。

 暇ってのも一時的なもので、楽しめるだけの余裕があるんだろう。

 

 ってそういえば、この穴の事、何に使われるものなのかとか、王都ナンバー3のエリッサさんなら知ってるのかな。

 気になって、ダメ元で聞いてみた。

 

「そうだな、知ってはいるが……まあ、君になら話してもいいだろう。穴に関わりがある以上、部外者というわけでもあるまい」

「いいんですか」

「ああ、ただ口外は避けてくれ。どこに敵が潜んでいるかも分からない」

「……敵? 」


 何やら物騒なことになってきた。


「この穴は、エーテルの貯蔵タンクを隠すための物だ。近年の研究の成果によってようやくエーテルを一定の場所に留める事、つまりエーテルの保存ができるようになった。それにより、不慮の事態に備え国の指示下の元エーテルを貯蓄する運びになったんだ」

「はあ……」

「あまりピンとは来ないかもしれないが、この技術は革新的な物であり、休戦状態にある隣国もこの技術に特に目をつけていてな。技術を狙って、この場所の特定を急いでいるはずだ」

「だから僕らも目隠しされて、位置が分からないようにさせられてるわけってとこですね」

「話せることは以上、と言っても私とて全貌は知らぬのだがな」

「貯めたエーテルは何に使うとか」

「それすらも今は謎だ。私の部屋に明かりがあっただろう。あれもエーテル保存技術によるものだ。私の願望にはなるが、ゆくゆくはそのタンクを用いて、居住区全体にエーテルによる明かりが点るようになればと思う。そうすれば月明かりすらでぬ夜に際しても、互いの顔をはっきり見渡して食事もできよう」


 現代で言うところの電気みたいな役割にってことだよね。

 僕個人としては、今のロウソクスタイルの方が趣きがあって好みなんだけど、なんだかんだ便利なのはやっぱりスイッチひとつで明かりが灯る方だよな。

 

「おい、ユーリ。あとはお前だけだ。早く乗れ」

「はい、ただいま! じゃあまたエリッサさん」

「ああ。また、だな」


 久々にエリッサさんと話せて、なんだか嬉しかったな。


「そうだユーリ。近々手紙を出す、君にも是非受けてもらいたい誘いだ」

「分かりました! 」



――――――――――――――――――――――――


 皆が乗る馬車を見送り、私はこの穴の前にて一人呼吸を整える。

 奴がどう言った思考でこの場いるのか、皆目検討つかぬのだから、万一を備え、警戒意識を固めるべきだろう。


 

「さて、民間人は去った。理由は分からぬが、わざわざこんなところまで出向くとは。話がしたいのだろう。姿を見せろ」


 木々の奥、獣すら居ぬこの森に消しきれぬ覇気をもつ者。



 

「聞こえないか。


 王都直属護衛独立1番隊隊長、アミア・ルティ」


 


 私の呼び掛けに応じた彼女は、零にしていた存在感を有へと変える。

 ゆったりと、まるで木々の側が避けるかのような登場に、まるで別次元の存在かと見間違う。

 舞い降りた天使かのように、白い絹を揺蕩わせる仮面の少女は、私の前に現れると一言。


「元気か」


 何の変哲もない問いかけに私が返せたのはただの二字。

 

「ああ」


 この緊張感の前に、警戒は解けない。

 

「なぜ私に気づけた。顔を合わせたのはただの1度、しかもその時とは違い今は仮面をしている。それなのにどうして」

「貴女ほどの気配を持つ者は他に居ない。1度味わえば二度と離れぬ高貴を纏う貴女だから、視覚に頼らずとも気づいた、いや気づかされたと言うべきか」

「そうか」


 長い白髪は透き通るようで、それでも先は見通せない。



「要件はなんだ。何故ここにいる」

「私は目。行動原理なんてあってないようなもの」

「……何が言いたい、ここには今は何もない、用もなく訪れるような場所ではないだろう」

「重要地点、因果が変わりうるほどのものだ。だから監視しに来た」

「貴女ほどの人間が監視をしに来るようなところなのか、ここは」


 重要地点、だけれどもあくまでここはエーテルの貯蔵タンクの設置位置。

 他国が注目する技術とあれど、この機構を開発したのは紛れもない彼女自身だ。そして、今、わざわざ視察に来るほどの事態に陥っているわけでもない。

 それなのに、何故。


「そうだ。因果律はまだ定まっていないんだ。それは、君の選択によって大きく揺らぐ」

「私……がか」


 彼女が何を言いたいか分からぬままだが、分かる範囲で訳すならば、その流れの中に私もいるという事だ。


「一つ忠告をする。死を迷うな。革命に犠牲は付き物だ」

「犠牲……誰のことをっ……! 」


 意味ありげな言葉だけを残し彼女は背を向けて森の最奥へと姿を消す。


「待てっ……!!! 」

 

 まだ追える距離にはある。

 脚力を尽くせば一瞬だとも。

 けれど、これ以上彼女に何を問えばいい。


「くっ……」


 王都直属護衛独立一番隊隊長、アミア・ルティ。

 まるで掴めぬ雲のような少女。

 彼女との会合は、たった今終わりを迎えた。

読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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