デート回! 終
「ご馳走様でした! 」
「どうも、今後ともご贔屓に〜」
あの二人に別れを告げて、僕らは店の外へ出た。
店の外は、すっかり真っ暗。
星や月も浮かんで、雲ひとつない綺麗な夜空だ。
「暁音さん、また来ようよ」
「悠里くんがそんなこと言うなんて。へぇ、よっぽど気に入ったんだ」
「気に入ったというかなんというか……」
気になるよな……。
あのメイドっ子がお金持ち引っ掛けてるところ。
「ま、たまになら外食もいいかもね」
「その時は、自分で払えるくらいになるから」
「へぇー? じゃあ、期待してるからね。今回私持ちだし、次回は奢ってもらっちゃおっかなぁーなんて」
「ふ、二人分……頑張り、マス」
家までの旅路、言うなれば帰路はいつも以上に冷たく、そこに荷物の重みが重なって、指が引きちぎれそうになる。
「やっぱり寒いと星が綺麗だねー」
上を見てつぶやく暁音さんを横に、僕もじっと空を見る。
「なんでなの」
「えっとね、寒い時って空気が乾燥するじゃない。乾燥するってことは空気中の水蒸気量が少ないってことなの。そして、水蒸気量が少ないと空気中の透明度が上がる。透明度が上がるってことは、はっきり見えるって事。逆に暖かい時、例えば温泉の中とかだと湯気で向こう側が見えないみたいなことあるでしょ。それと、同じ理屈」
「はぇー。やっぱり物知り。暁音さんは"なんでも知ってるなぁ"」
「何でもは……知らないんじゃないかな」
普通に返されちゃった……。
「だって今語ったのだって元の世界の話だし、異世界でも同じような法則で成り立ってるとは限らないじゃない」
「まあ、確かに」
「結構、常識違うんだよ。気づいてる? 月の形が一定周期じゃないのとか」
「そうなの? 」
「なんでもこの世界の月は衛星じゃないらしいよ」
「あっ、その話は聞いたことある」
いつかエリッサさんに話してもらった月と星の話。
月は繁栄の象徴で、月を維持するためにたくさんの人間たちが犠牲となったと。
「不思議だよね。あれだけ大きな月が全部エーテルなのもだけど、地球と同じように満ち欠けまでしちゃうんだから。まるで誰かが操ってるんじゃないかなって変な勘ぐりしちゃうくらいだよ」
「まるで瞬きしてる、みたいな」
「瞬き……? 」
「あいや、以前エリッサさんから月の話を聞いた時に、そんなふうに見えたから」
「まあ、月ってよく比喩の対象になるからね。目のようって表現しても不思議じゃないよ。よくあるのは、手に入らないものの例え、月とすっぽんとか、女性に向けて、今夜は月が綺麗だとか」
「僕なんか、月でイメージするのなんてあとはうさぎくらいだなぁ……」
「メジャーどころだね」
「あとは……」
と言って思いつくのは、ソシャゲでよくあるお月見ピックアップくらいなもので……。
自分の教養のなさが浮き彫りになってるな。
「月の形で言うなら、満月なら鏡とか、海外じゃ三日月が女性の横顔に見えるなんてのもあるらしいよ」
「へぇー」
「こんな話してたらお団子食べたくなってきちゃったな」
「どうする? 戻れば多分食べれるよ」
「えっ!? さすがにいいよ、冗談冗談」
――――――――――――――――――――――――
「さてと、もうそろそろ家だね」
そう言うと彼女は、クルッと後ろを、僕の方を向いた。
「嫌いになったかな、私の事」
突然何を言い出したか、分からない。
「何で」
「今日は一日、素の自分で居ようと心がけたんだ。ありのまま秋野暁音として、気取らずに迷惑をかけようと思ったんだ」
「迷惑……? 」
「今日は、沢山待ったでしょ。お買い物の時も、最初の待ち合わせの時も。わざとじゃ無いけど、素の自分でいようと思ったら、ついこうなっちゃったんだ。自分の手に抱えきれないほどの荷物まで買い込んで君に持たせて、それになんのお礼も言わない女、それがホントの私。失望したかな」
正直何かもっと酷い告白を想像していたから、
「なんだ、そんな事……」
そんな言葉がつい漏れ出た。
「ふぅっ……」
暁音さんが素でいようとしたなら、僕も、素で返そう。
「くっっっそ、迷惑!待たされ持たされ疲れたよ!!!」
「!? 」
「デートだって言われて、童貞丸出しの僕なんてそりゃあルンルン気分で来るよ!!!なのに初っ端から遅刻だもん、ガッカリもするよ。メイクや衣装に時間かかるのは分かるけど、それは前提で動いてよ!!! 買い物の待ち時間もそう、優柔不断になる時は人間誰しもあるよ。だけど他人待たせてるんだからもっとスパッと決められないの!? それに荷物だって、持たせるなら持たせるって言ってよ! 料理屋だって、事前に値段言ってよ、あんなの暁音さん頼る他ないじゃんか!!! いい加減にしてよ! デートだなんて言って手まで繋いで僕の純情弄んで期待させて、やることなんて荷物持ち! 僕のドキドキを返してよ……!!! 」
崩れるように僕は、素で、言いたいことを全部伝えた。
ムードは最悪、雰囲気ぶち壊してまで言いたいこと言った。
「ご、ごめん……」
残るのは、やってしまったという苦い苦い後悔だけ。
何が純情を弄んで、だ。勝手に期待したのは自分だと言うのに。
僕の言葉に、俯く彼女。
「最後、一つだけ言わせてよ」
残った最後が、1番言いたかった事。
「わがままで、欲張りで、自由奔放、無責任で、迷惑ばかりかけまくる。そんな暁音さんが、
僕は何より見たかったんだ」
誰にも気を使わず、ありのままで生きてくれる、そんな彼女を僕は誰よりも待っていた。
僕が出した不満なんて、口に出した通り、所詮そんな事なんだ。
誰の目も気にせずありのまま生きてくれる、それだけで十分、いいや、最高なんだ。
「ごめん悠里くん……ありがと」
こうして、僕らのデートは幕を終えた。
その後の話は…………マジでなんにもなく、デートしたからと言ってそういう関係になるとかもない。
今まで通り、僕と暁音さんのまま。
だけど、ひとつ変わったかなってところがあるとするなら、
「おはよ、悠里…………くん」
毎朝の挨拶に溜めが入るようになったかな。
読んでいただきありがとうございます!!!
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