デート回! その2
「さてと、結構歩いたね。悠里くん、足は大丈夫?」
「これくらいなら全然。体力仕事で少しは筋力付いたはずだから」
「ひゅー、頼もしい」
何も知らされぬまま、僕は彼女に連れられて街の都心部の方まで来た。
異世界に休日・祝日の概念があるのか分からないけれど、普段より多くの人で賑わっていて手を繋ぐ僕らは何かと人目を集めてしまっていた。
「頼もしいなんて……こんなヒョロちび、街の外に出たらまだまだ一発ノックアウトだよ」
「へぇー。なら、そんな悠里くんにはもっと頼もしくなってもらわないと。ということで……」
そして、着いた場所は。
「魔導具屋……!? 」
「何驚いてるの、悠里くん3級受かったでしょ。ってことは買えるんだよ魔導具」
「そっか、もう魔法が使えるんだ」
ごめんください、と彼女は中へと進む。
後を続いて僕も入ると、そこには、ずらりと並ぶ魔導具の姿が。
数多くの魔導具は、まるで僕を待っていたかのように瞳の中へ飛び込んでくる。
「ちょっと……悠里くん? 」
暁音さんの言葉も耳に入らず、僕は思わず近くにあった緑色の魔導具に手を伸ばしていた。
「これ、触ってもいいですか」
奥にいた店員さんにそう尋ねて、了承をもらうとすぐそれを僕は手の上に。
「スライム・ウィンドの魔導具…………」
まず驚いたのは、この世界にもスライムが居ること。
一体どれほどの強さなんだろうか、よくある強さの雑魚敵なのか、それとも"このすば"くらいの強烈さなのか。
想像するだけで、心が踊る。
そして、スライムの名のついた魔導具という事は。
「これってもしかしてスライムからドロップした物なんですか」
「……ドロップってそんな古風な言い方、もしかしてあんたも盗賊かい? 」
盗賊……?
「いえ、ちがいますけど……」
「ああそう。ドロップなんてのは、相手する生き物の身体の作りがわからなかった時の言葉だよ。今じゃエーテル器官っていう存在がちゃんと確認されてるんだ、そこさえ破壊しなければ確実にそいつを残すだろう。そんでもって質問の答えだけど、スライムのエーテル器官を加工してできるのがその魔導具だよ」
スライムのエーテル器官から作られた、魔導具……。
「嬉しそうだね、悠里くん」
「いやまあ、うん……。なんか、ほんとに異世界にいるんだなって」
「今更ぁ? ……なんて、私も初めて買った時はそうだったな」
たかがスライム。けれど、スライムで、スライムだから僕はこんなに胸が疼いて仕方がない。
「どうする? せっかくだし他のも見てみる? 」
「うん、せっかくだし」
次に目をつけたのは、ハッカネズミとやらの魔導具。
「ハッカネズミってなんだろう……さっきのはウィンドって付いてたし風魔法っぽいのは伝わったんだけど」
「ハッカネズミだよ、発火」
「ああ、なるほどね。って、火か!?」
スキルで出すんじゃなくて、自分の魔法でとうとう火が。
火といえば魔法、魔法といえば火。
火へのあこがれは、少年ならば脳裏に刻み込まれてるほどだろう。
「これにしちゃおっかな……」
「威力もしっかり見るんだよ? 」
「威力? 」
「ここに小さく書いてあるでしょ、Fmax=0.03って」
魔導具の名称の下、様々な記号が書かれた端の方にあったその文字。
Fって……ああそういえば講義で、Fがなんだかってやった気がするな。
「えっと、つまりどういうことなの。Fが0.03なのは分かったんだけど、それがどのくらいの威力とか」
「えっとね、だいたいF=1で、理想エーテル場での人間の平均的なエーテル加速度になるから……」
「暁音さん? 」
「ああっ、分かりやすく言うなら、0.03だと、普通の人が打てる人魔法攻撃のはんぶんのはんぶんのはんぶんのはんぶんのはんぶん……」
「分かった分かった。とにかくすごい弱いのね……」
危ない、暁音さんが居なきゃ何も考えずこれを買ってしまうところだった。
こんなのトラップもいいところだ。
「そんなに弱いなら、わざわざ加工して魔導具にしなくっても……!」
騙されかけた鬱憤をボソッと口からこぼすと、
「強いだけが魔導具の役割じゃないんだよ」
と、いつの間にか後ろにいた店員さんにそう言われる。
「こいつは普段使い用。薪に捧ぐ火種だとか、暗闇を照らすランタンの代わりだとか、そういう些細だけど必要な火ってのを起こすために使うんだ」
「でも、他のもっと強い魔導具だって同じことできますよね」
「できる。けど、そいつらだと事故を起こす。エーテルが溢れてる場所でうっかりそんなの使ってみなよ。エーテルの移動を間違えれば、家中が灰と墨だらけになる」
いつかエリッサさんが部屋の中でみせてくれた火の玉、あれは彼女だから制御できたのであって、一般人だと火災へと至る可能性がある。
「セーフティって大事だからね。ブレーカーが落ちるのも原理としては似たようなところだし」
「ちなみにこいつはうち一番の売れ筋商品。目利きのセンスってもんがないねぇ、坊ちゃん」
「ぐぬぬ…………」
何もそこまで言わなくても……。
「今から買うのは、魔法の練習用だから正直それでもいいんだ。感覚を掴むのはどれを使っても同じだからね。ただ、せっかく買うなら、欲しいでしょ? 威力」
「……さすが暁音さん! 男のロマンが分かってる」
暁音さんは奥から2つ、円形のアクセサリーに嵌め込まれた魔導具をこっちに持ってくる。
「悠里くんの食いつきが良かった炎系の魔導具、その中でもここにある中で一番威力が出るのがこれ、サラマンド・レッド。Fの値は、1.3」
「……1.3」
「3級で使える最大値が1.5だから、それなりに火力は出るはずだよ」
紅い輝きは、僕を魅了する。
まるで一目惚れ。
内に秘めたその熱に頭の中が埋め尽くされる。
他を聞くまでもなく、こいつに決めよう。
僕の中で、そう決心は付いていた。
けど。
「けど、もし君が炎よりも、
さらなる威力を求めるのなら……」
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店を出た僕の腰には、紅じゃない、空色の魔導具。
「いい買い物が出来たね悠里くん」
笑顔でそう言う彼女の横で、僕は少し顔を引つる。
「どうしたの? 」
「いや、結構したなぁ……と。まる5日分の稼ぎが一気に飛んじゃったから」
「まあ、必要経費だし。仕方ないよ」
ひとまず持ってきてと言われた全財産、そのうちの5割がこの魔導具代として消えてしまった。
使うときは一瞬とはよく言うが、まさかこんなにあっさりと無くなるとは。
「さてと悠里くんの買い物が終わったし、次は私の番でいいかな? 」
「いいけど、何買うの? 」
「お洋服だよ。……覚悟は出来てて? 」
覚、悟……?
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