デート回! その1
憩いの場として賑わっている広場の真ん中。
そこにある街一番の噴水は、毎日誰かと誰かの待ち合わせ場所として使われている。
例えばそれは友人同士だったり、例えばそれは恋人同士だったり。
これから始まる思い出の出発地として、この噴水は、彼らの記憶を彩っているはずだ。
この噴水が待ち合わせに使われる理由は、目立つだけにとどまらない。
ここには、とある言い伝えがある。
噴水にコインを投げ込めば、女神の加護が宿る。
誰が言い出したのか、そんなベタな言い伝えはこの街に住む人ならみんな知っていて、異邦人だとしても3日もいればこの噴水の存在を自然と認知しているほどだ。
投げ込まれたコインは数しれず。
今も水底には、たくさんの金銀銅貨が。
胸に秘めた期待を乗せて、毎日、コインは宙を舞う。
さて、そんな場所に今日も誰かを待つ一人の男が、
というか僕が、
今か今か、ぽつんと佇んでいた。
ここに来て体感時間はまだ30分を過ぎてないくらい。
集合時間よりは早めに着いた自分にも非があるとはいえ、さすがに待ちくたびれて疲れてしまいそうだ。
噴水の底、さすがに見飽きたコインたちは、陽の光に照らされて変わらずそこにあり続ける。
まだ今日のところは投げ込む人の姿は見えない。
変化でもあれば少しは暇を潰せるのに。
いっその事自分が投げ込んでみるかとも思ったが、あいにく手持ちにそんな余裕は無い。
銅貨一枚も惜しい身分、投げ込むとしてもせめて彼女がきてからだろう。
待ち合わせに使われるとは言っても、ここには時計のひとつも無い。
だいたいこの広場は街の中心地から少し離れた場所にあって、立地だけで言うならどちらかといえば不便な場所にある。
それでも待ち合わせスポットとして人気なのは、言い伝えと噴水というロマンあっての事なんだろう。
「……ロマン、ロマンね」
ロボットだったり合体剣だったり、少年心を揺さぶるロマンは大好物だし、大いに理解できるんだけど、こう、映画みたいな願掛けみたいなこのコインのロマンは、正直そこまでそそられない。
夢にときめく年齢ではじゃなくなったと言うのなら、まあそうなのかもしれない。
おみくじとか大好きだった小さい頃なら、まず間違いなく投げ込みたいと思ったはずだ。
大人になるほど薄れていく物。ロマンっていうのは小さい頃にだけ訪れるトトロのようなものなのかもしれない。
…………さて、なんの話しだったっけ。
違う、何の話でもなかったんだ。
ロマンに待たされ、そろそろ足も疲れ始める頃
「お待たせ、ごめんね待たせて」
やっと彼女が現れた。
普段のパーカー姿とは違う、白いブラウスと黒いスカートの暁音さんの装い。
軽いお化粧とヘアアレンジは、そりゃ時間もかかるだろうと納得せざるを得ない。
「ううん、大丈夫……」
「嘘。ちょっと疲れてるでしょ」
「え、いやまあ」
「仕方ないよ。こんなところで2、30分も待たされたら私だって欠伸のひとつくらいするよ。いやぁ、ごめんね」
彼女の言葉に怒りはしないけど、一つだけ疑問が湧いた。
"こんなところ"を待ち合わせ場所に指定したのは、何を隠そう暁音さん。
家からそれなりに離れ、立地も不便なここを選んだ。
それに同じ家に住んでいるのにわざわざ別のところで、何より"こんなところ"で待ち合わせをしたのには、何か理由があるんだろうか。
疑問に思って尋ねてみると
「君、こういうの好きだと思ったんだ」
彼女は、そう返した。
「コインの言い伝えは聞いたことあるでしょ? ああいう願掛けっていうか、おまじないっていうかちょっとロマンチックな物。性格的に、喜んでやりそうだなって思って」
「ああ、なるほど……」
「でも反応を見るにあんまりだったみたいだね」
「……ごめん」
「謝らないで。それに私もだから」
「暁音さんも? 」
「うん、あんまり。悠里くん、ちょっと純粋なところあるからこういうのも楽しめるのかもって思ったけど、やっぱり根っこは私と同じなのかもね」
「じゃあ、行こ」と、手を伸ばして自然な流れで手を繋いでしまった僕と暁音さん。
これがなんでもない出かけの日なら変なことも思わないけど、昨日言われた通り、今日は………………。
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