異世界行っても穴を掘れ 4
「あ、あのぉ……」
ドンッ!
本日二度目の鉄球が、僕の足元に墜落した。
「お前、耳ないんだっけ」
「あいやぁ……」
「だよね、あるよね。ある癖に言葉わかんないんだ」
口悪っ……。これでどうお友達になれと……。
「えっと、仕事の話を」
「仕事? はぁ、かこつけてリナ姉口説こうとしてるんだ。いいよ、お前の仕事は今日はカカシで。そこでとりあえず突っ立ってろ、一生」
「あ、あ……」
いや、なんて返せばいいのやら。
口悪いってレベルじゃないでしょ、なんなのよこの人。
「また酷いこと言って、ダメでしょ?」
「だってリナ姉、あいつ性懲りも無くリナ姉のこと」
「はいはい、分かったから」
「くーーんっ……」
んでもってリナ姉さんには犬のごとき懐柔のされ方。
彼女の切り替えがなのかリナ姉さんの手懐け力がなのか、一体どっちがなんだろう。
「えーっと、ごめんね。話は私が聞くから」
リナ姉さんは、彼女を撫でながら僕に向き合う。
すると、彼女もこっちを向く。
「リナ姉が聞くなら、私も聞くから」
なんなの……。マジで。
「今日仕事初めてで指示をお願いしたいんですけど」
「ああっ、そっか。そうだよね。えーっと、そうだ、まだお名前聞いてなかったよね。私はリナ、こっちは……」
「メア。メアリィ呼びはリナ姉だけだから」
「……悠里です。石上悠里」
「ユーリくんね、今日はよろしく。作業内容は、このスコップを使ってひたすらこの穴を深くして欲しいんだ。多分結構大変だから適宜休みながらして欲しいな」
「リナ姉は優しく言ってるけど、本来サボったら減給だから。そこんとこちゃんと頭入れといて」
「……はい」
らしくはない現場監督2人からスコップを受け取り、僕は穴のほうへと戻る。
すると何故だか僕は、辺りの人たちに笑われていた。
理由も分からず笑われて心地いいままって人間もそう居ない。
僕の不服そうな顔を見てか、その内の何人かが前に出てきて僕に声をかける。
「悪いな、別にお前さんをバカにしてんじゃあねぇ」
「通過儀礼ってもんだ、笑われるまでが1セットだと思ってくれ」
「……はぁ」
一体どういう意味なのか。
釈明にしても、僕の方は釈然としない。
「よお、新入り。ちゃんといばら姫の洗礼を食らったか」
馬車の中で声をかけてきた彼が、手を挙げながら話しかけてくる。
「いばら姫……? 」
「あの嬢ちゃんだよ。誰に対してもあんな態度。ツンケンして、人間関係ってものを築こうとしない。あれが監督じゃあ仕事にならないから、横の王子様を連れてきてもらったって経緯がある。服装といい言葉といい、棘だらけのお姫様。喋ったならわかるだろ、いばら姫ってのも」
いばら姫。茨の姫。確かにそう呼ばれてもおかしくは無い尖り方はしてはいた。
「1人だけ日傘ってのもなぁ。現場には他の女の人もいるってのに協調性ってもんがまるでない」
「そう、ですかね……」
「ありゃあ、自分が助け合いの中で生きてるってのを知らない奴だな」
「そんなことは、無いんじゃ……」
「なんだ、やけに庇うな」
「あいや」
まあ、彼の言うとおりの部分が無いわけじゃない。
けど、実際に彼女は名も知らぬ僕を助けようとしてくれた。
言葉使いだとか鉄球だとか、色々問題はあるだろうけれど、何かそこまで揶揄されるほど悪い人って訳じゃあない……ってのは僕のお人好しがすぎるんだろうか。
「なんだ、まさか惚れたか」
「ちょっ……! 」
「まあ、顔はいいからな。ああいうのに惚れ込む男も一定数いるんだろ。ただ俺には分かんねぇな。横にリナちゃんっていう上玉がいるのに、自らハードモードに飛び込もうとするやつの気持ちは」
彼は手にスコップを持って「さて、新入りそろそろ時間だぜ」と言って、穴の方へと向かった。
他の作業員たちも続々と穴へと向かい、僕もその後に続く。
「昇り降りは1人ずつ、2列で行ってくださいね」
垂らしたロープを伝って、皆、慎重に穴底へと降りていく。
中には、そのまま飛び降りていく者もいた。
まだそれほどの深さじゃないから大事には到らないとは思うが、小心者の僕にとっては見てるだけでヒヤッとする。
僕の番が来て、スコップ片手に坂道をゆっくり降っていく。
勢いよく滑りそうになる身体をロープで引き止めながら、一歩一歩着実に。
想像よりかは楽に進むが、この斜面だと帰りの登りのほうがずっと辛そうだ。