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異世界に行っても穴を掘れ! 3

 忘れもしない。

 あれは、僕がこの世界に来て直後の事。

 右も左も分からずにただ目の前の景色に圧倒されていた僕に、声をかけてくれた一人の女性。

 つり目っぽい目。少し長めの前髪。

 日傘に隠れているけれどその猫背で暗い印象の彼女。

 肩にかかるくらいだったの淡い紫色の髪の毛は、今日は結んで2つに止めてある。



「……あの」


 やり取りをするふたりに割って入って、僕は彼女に声をかける。

 少し驚いた表情をした後、彼女は僕に鋭利な目線を向ける。


「何、だれ」


 隣のお姉さんと話していた時とは打って変わってトゲのある口調。少し低めの声といい、やっぱりあの人だ。


「えっと、少し前に街中で声掛けてもらったんですけど」

「声……知らない、勘違いじゃない? 気持ち悪い」

「そんなはずは。えっと、あれです。ほら、凱旋の整備の時にお邪魔しちゃった」

「あー、覚えてないや。知らないから、話しかけないで」


 ……うぐっ。完全に忘れられてる。

 結構なハードルをとびこえて声をかけたのにこのザマ。

 男として情けないったらありゃしない……。

 というかそんなに印象薄いか、僕。


「良くないよメアリィ。そんな冷たく突き放しちゃ」

「だってリナ姉、こんな奴知らないんだもん」


 メアリィ……と呼ばれてるその人はもう一人の女性とは、ものすごく柔らかな物腰で喋ってる。




 

 するともう一人のその彼女は、僕の方を向く。

 

「ごめんね。メアリィ、ちょっと人見知りだから」


 リナ姉と呼ばれていたその人は、赤と白のワンピース姿で頭に可愛らしい布の被り物をしている。

 西洋の女の子らしいファッションは、後ろの森と併せてみるとまるで童話の赤ずきんが連想されて、赤ずきんの女の子が成長したらこんな感じなんだろうを体現したかのような出で立ち。

 リナ姉と呼ばれているくらいだから、恐らく彼女よりも年上なんだろう。

 

 

「あっいぇ……。こちらこそごめんなさい、突然話しかけちゃって」


 とりあえず、挙動不審になりながらも僕は返事する。

 

「ううんっ、気にしないで。それより君、メアリィと知り合いなの? 」

「えっとまあ……以前一度困ってる僕に声をかけてくれたことがあって」

「まあ、メアリィが! ふふっ、そっかぁ」


 なんだか嬉しそうに口角を上げる……リナ姉さん。


「ねぇねぇ、メアリィはどんな風に? 」

「えっと、道に迷ってた僕に後ろから――――」


 説明を続けるとその度彼女は楽しげに微笑む。

 その様子はまるで娘の成長を喜ぶ母親かのようだった。

 笑顔で頷いて返事をくれると、なんだか僕も楽しくなって、つい余計なことまで話してしまいそうになる。

 初対面なはずがすごく親しみやすい人で、お姉さんというイメージがここまで似合う人もいないだろうってくらい。久しぶりに会ったのは彼女のほうだったんじゃないかと錯覚させられるほどだ。



 

「メアリィ不器用だけどいい子なんだよ」

「ああ、それはもう!わざわざ僕なんかを心配してくれて、それだけで十分伝わってきてます」

「ふふっ、ホント? 嬉しいなぁ……。メアリィの良さが分かってくれるなんて。ああ見えて、結構可愛いでしょ? 身内の贔屓目を抜きにしてもべっぴんさん! どう?お嫁に? 」

「あいやぁ、そんなっ! 」

 

 なんだか、…………ひたすらに楽しい。

 雑談なんだけれど、それだけで満足してしまうというか、絆されるというか。


「君、年は」

「16です」

「あぁ、ごめんなさいっ! てっきりもう少し下かと。君だなんて不躾だったよね? 」

「いえいえそんな」

「そっかぁ……。16歳ならメアリィとも近いし、いいお友達になってくれそうだね」

「いやまあ、メアリィさんが良ければですけど」

「絶対いいって言うよ。メアリィね、ああ見えてお喋りだから、話し相手なんて何人いたって大歓迎なはず」

「お喋りなんだ……。てっきり一人が好きなのかと」

「一見ね。でも、そういう人って結構いると思うんだよね。話すのは得意じゃない、でも好きって人」

「もしかしたら自分もそうかもしれない、です……」

「ホント? 逆にそうは見えないけど」

「!? それはどう言う? 」


 会話が得意じゃない僕でも、自然と次から次に言葉を引き出されてしまう。

 でも、それは全く苦じゃなくて、むしろもっと自分を知って欲しいと前向きな気持ちで会話が続く。

 ああ、この心地良さだと、きっと多分、このまま永遠に続いてしまいかねないなぁ。






 

 

 それこそ、横から入る何かが無ければだけど。






 

 

 

 ドンッ!






 


 僕らの間を割く、棘の鉄球。

 今回ばかりは比喩じゃない、マジモンの鉄の球。


 

 

「……ヒェッ!? 」

「おい、お前ナンパなら他当たれよ。リナ姉は私とお仕事しにきたんだ。横に経つのは今は私。そもそもお前じゃ、釣り合ってねぇんだよ」

「……あ、あっ」

「だいたい何、お前。知らないって言ってるのに、ストーカーかよ」


 鎖に繋がれたその鉄球は僕の足元スレスレ目掛けて投擲されて、ちゃんと地面に突き刺さる位の威力はあった。

 的確なコントロールでなんともないけどさぁ、当たってたらマジで穴だらけだったって……!!!


「メアリィ、一体どこからそんなの持ってきたの? 」

「だってリナ姉がぁ! 」


 甘えるように近づいて、彼女たちは抱き合う。

 その間も僕は彼女に睨まれ、足元の鉄球が存在感を放つ。

 百合の間に挟まる男は粛清されるとは言うが、まさか百合の側から攻撃されるとは……。

 もう少しばかり彼女たちと話したかったけれど、これ以上の接触は無理そうだなぁ。



 


「引き攣った顔してどうしたぁ新入り」

「いいえ何でもない、です」


 彼女たちのことは忘れて、本題に集中しよう。

 僕はここにお金を稼ぎに来たんだ。


「頬を叩いて、準備万端ってとこだな。だけど、初っ端からフルスロットル出すもんじゃあないぜ。一日はそれなりに長いからな」

「えっと、ここで僕ら何するんですか」

「なんだお前聞いてないのか。さっきも言ったけど俺らの仕事は、穴だ」

「つまり、掘るってこと? 」

「ああ、詳しいことは現場監督に聞きな」

「現場監督……」


 そうして彼が指さした先は、


「……ええっ、また挟まりにいくのかぁ……」


 紛れもない彼女たちの元だった。


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