異世界行っても穴を掘れ! 2
「とりあえず作戦会議!」
暁音さんは、図書館という場にもかかわらず、それなりの大きさで張り切ったように声を出す。
事件の後、どうしてもあまり人の寄り付かなくなったこの図書館は、ほぼ僕らの貸切のような状態になっていた。
時間も経てば人はすぐに戻ってくる、というのが図書館側の見解らしく、それまでは好きに使っててくれていいとのこと。
「いい悠里くん、この世界で1番稼げる職業といえば? 」
「そりゃ……冒険者」
答える僕に、暁音さんはビシッとペンを向ける。
「そう、その通り。危険を犯して、成果を出す。万人にできる職業じゃない。文字の通り無茶って意味の冒険しなきゃならない職業、冒険者。この世界一の稼ぎ頭だよ。
冒険者の報酬金ってみたことある? 」
「いやまだ」
「きっと目ん玉飛び出ちゃうと思うよ〜」
そうして彼女は、机の上に大きな紙を広げる。
「朝イチでメモってきたんだけど、今日の依頼はこんな感じ」
「……億っ!? 」
『
目玉級!!!
S 氷塊狼 リベリオウルフ 討伐 750000000
S 赤竜 ドモル・レッド 討伐 1500000000
S 巨岩石竜 ファフニール 討伐 2500000000
それなり級!
A+ 飛蒼天竜 アマノムラクモ 討伐 50000000
A 光竜 ドモル・ホワイト 討伐 30000000
A 黄昏樹 テンペスト・トワイライト 伐採 15000000
B ギングヒートベアーの群れ 征伐 3000000
まあまあ級
C メガテラビッグサーモン 討伐 500000
E 金のブローチ(手がかりあり) 捜索 150000
E クラウンベリー(15cm以上) 5つ 納品 100000 等
』
「ご覧の通りピンからキリまで。バウンティハンターとか賞金稼ぎなんて言い方も間違いじゃないのかもね」
「上の方倒したら、それだけで目標の十分の一くらいになるんじゃ……」
「計算の上ではね。ただ、これらはあくまでその依頼に掛けられてる値段。つまり一つ、重要な見落としがある」
「……? どういうこと」
「もったいぶらずに言うとね、報酬ってのは討伐に参加した人数で割るの。つまり額面丸々は貰えないって話」
そうか。
凱旋にいたのは、確か16人のSランク冒険者たちって聞いた。つまり、報酬が1500000000とかだったとしても、貰えるのは1人あたりは1億未満になるって計算。
「だから2年半でもギリギリなんだ」
「まだ私の話は終わってないよ」
「ひょっ? 」
「確かに2年半でもギリギリなライン。けれど、私たちにはそんなに時間は残されてない」
どういうこと、と言いかけて気づく。
「向こうに帰ったあとのこと、考えてる? 」
僕らの身体は、エーテル器官を備えるために寿命を3年にまで縮めた。
魔法を使え、自動治癒まで備わったハイスペックな身体は、今も尚、通常の何十倍のスピードで僕らの寿命を削っている。
そんな身体を元に戻す時、僕らの寿命はどうなるのだろうか。
綺麗さっぱり元に戻るのか、一秒たりとも変わらないのか。
真相は分かりようがないけれど、今のところ転移者たちの中の推測だと、比率で換算されるというのか通説、らしい。
「前にも説明したかもだけど、人の寿命の限界を仮に120年と置いた時、比率で計算すると、120:3、つまり40:1になる。これより、この世界で残した寿命の40倍、の時間だけ向こうに帰った時に生きられる、って寸法」
あくまで仮説だと彼女は言うが、それを信じるのならば、僕らが250億貯めた時にあと一日分しか残ってないとかだと、せっかく向こうに帰っても40日しか生きられないということになる。
「最低でも、10年は欲しいかな」
「となると、3ヶ月くらいは残さなきゃ」
「なら、2年と3ヶ月…どれだけ縮まったのか分かんないけど、でも急がないとだよね。暁音さん、今からでも! 」
「まーだ終わってないんだって」
慌てて席を立つ僕を、彼女は引っ張って着席させる。
「まだなにか……」
「あるよ、いちばん重要なのが」
「重要……重要……」
そう言われてしばらく考えるも、ダメだ今回は思いつかない。
暁音さんは、そんな僕を見て少し呆れ顔をして言う。
「勝てるの? 今のままで」
あ……。
「全く、強敵撃破して自信過剰になってるのかもだけど、忘れてない? 今の私たちには、そんな強いドラゴンとか魔物なんて倒せる力ないんだよ? 今行っても、薬草採取が関の山。それも他パーティに取られてるか、報酬がショボイかのどっちかだよ」
「……ごもっともです」
「先にやるべきは、こっちが強くなること。まずはジョブから決めなきゃ」
暁音さんは、黒板に色々と図を書く。
剣や斧、槍に弓。少年ならば心が踊るそれら色々を書いた後、彼女はそのほとんどに上からバツ印を書いた。
「断言する、前衛は無理。私たちが攻撃を受け止めたりするだけの筋力、付けられるはずないもの。そんな暇は無い。私たちは、短期間で強くならなきゃならない」
「なら、どうやって」
「異世界って言ったら、醍醐味はこれでしょ」
暁音さんは、杖のようにペンを振る。
「魔法使い! 」
「正解。正確には後衛の魔法職。魔導具に、待機状態のエーテルを流し込むだけで、火力が出せる。私たちが目指すべきはこっち」
正直、近接戦にはあまり自信が無い。
この前の奴との戦いで実感したばかり。
あれ以上に力押しされたら、確実に負けていた。
だから後衛に回るのは名采配という他ない。
「型に縛られる必要は無いから護身用に剣の一本くらい持っててもいいとは思うけど、基本的には魔法専門でいくからそのつもりで」
「魔法使いで強くなるって、具体的には何すればいいの」
「えーっと、大きくわけて2通りあるけど、私たちにできるのは、より強い魔導具を使うことだけかな。もう一通りは、まあ、筋トレみたいなものだから」
「はぁ……」
なんだかよくわかんないけど、強い魔導具を使えば強くなるってのは、少し馬鹿らしいけど、理にはかなってる。
「悠里くんはゲームとかする? 」
「まあ、それなりってくらいかな」
「ドラクエとか、6以前のffとか」
「そこら辺は触れてこなかったかも……」
「まあでも、なんとなくはわかるでしょ? 新しい街に着いたらいちばん高い武器を買うとかそういう常識」
意外と暁音さんってゲーマーなんだなぁ。
多分僕じゃついていけないくらいには色々やってるタイプのオタクだ。
「まあ……。って事は、強い魔導具ってのは、高い武器ってことで……つまり」
「そ! 強くなるにはこの街でいちばん高い魔導具を買う。それ以外ない! 」
「結局お金じゃん!!!」
「どのロープレでも鉄板だよ。魔法職はね、準備にひたすらお金がかかるの」
「お金を稼ぐために、お金が必要で。そのお金を稼ぐためにも、お金が必要……。これ、ほんとに間に合うの? 」
「大丈夫。最終的に250億に到達すればいいんだから、強い魔導具を買ったら最後に換金すればいい。魔導具代も無駄ならないよ」
「そっか……。でも、大変なことには違いないな」
「それに付け加えて、厄介なのがもう1個」
そう言うと暁音さんは一枚、額縁に入った賞状みたいな物を取り出す。
「魔導具を買ったり、使ったりするには免許が居るの。これ私のね」
「魔導具使用許可 第1級……凄いんじゃないの? 」
「3〜1級まであって、これが一番上。悠里くんにはこれ取ってもらうから」
「ふーん、……ん? えっ? 」
「だって、強い魔導具なきゃ戦いにいけないでしょ? 」
「そうだけど、ええっ……資格の勉強みたいな事だよね」
「まあ誤解を恐れずに言えばそうだね」
異世界に来て資格の勉強って。
なんか強くなり方がイメージと違う!
もっとこうレベル上げみたいな、スライムと戦ったりとかもっとそういうのじゃ……。
「うぐっ……!? 」
「おやおやっ、さては勉強苦手だなぁ? 」
なぜだかニマニマしながら近づいてくる暁音さん。
弱点見つけたとでも言いたげな顔してるけど、勉強なんて得意って自信満々に言える方が少数だと思うんだけどなぁ……。
「方針を話します! 悠里くんはひとまずこれに受かるために、図書館でやってる講義会を受けてもらいます。私も勿論教えるけど、正直あっちだと出るとこ教えてくれたりするし確実性が増すんだよね……。
てな訳で、そのための会費と、ついでに魔導具代。その他雑費を稼いでもらうためにしばらくは……」
「しばらくは……? 」
読んでいただきありがとうございます!!!
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作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m




