夜よ、続け
毛布を頭から被り、私は窓越しに雨粒をなぞる。
今日は雨が好きだ。
でもたぶん、明日も降れば嫌いになる。
そんな気がしてる。
「メアリィ、こんな隅で何してるの。お腹でも痛い? 」
リナ姉は優しい。
一緒に仕事に行ってくれるし、ご飯作ってくれるし。
たった2つしか歳が離れてないとは思えないくらい、リナ姉は立派。
孤児の子のお世話もするし、見知らぬ人にもよく手を差し伸べる。
兄貴が居なくなって、身寄りの無くなった私を引き取ってくれたのもリナ姉。
私にとって唯一の友人で、姉で、母にも思えるそんな存在。
「メアリィ? 」
だから、つい甘えたくなる。
「メアって呼んでくれなきゃ返事しないから」
……私はダーティアの堕天使なんだ。
アルティミアさまの裏天真層部から授けを受けたんだ。
メアリィなんて名前は、あくまでこの身に堕天の精神が宿るまでの仮の名に過ぎない。
コードネーム、ナイトメア。
女神様を影より護る騎士ナイトとして、そして容赦なく敵を喰らう悪魔メアとして、2つの役割の融合名。
それが今の私。
それなのに、リナ姉は分かってくれない。
「私の中じゃメアリィなんだけどなぁ、メアリィ」
「……リナ姉のいじわる」
リナ姉は、パジャマ姿で私の居るベッドに腰かける。
リナ姉の身体からは石鹸のいい匂いがする。
年季の入ったこの家には似合わない、今どきの女の子の香り。
「いい匂い……」
安心する。落ち着く。
自然とそんな感想に溢れて、言葉を漏らしていた。
「返事、しなかったんじゃなかったの? 」
「今のは返事じゃないから」
「そっかぁ。メアリィとお喋りできないなんて、寂しいな私」
「ならメアって呼んで」
「だって私はメアリィとお喋りしたいんだよ? メアちゃんともいいけど、寝る前はメアリィとがいい」
そんなこと言われちゃったら……。
「……じゃあ、メアリィでいい」
「ふふっ、可愛い」
「ふにゃっ!?」
リナ姉は、突然私の頬っぺたを両手でニュッと持ち上げる。
「にゃにすんの、りにゃねぇ……」
「白い肌がスベスベで可愛いなぁって」
「にっこうは、じゃくてんにゃから」
「その割には、昔はよくお外で一緒に遊んだじゃない」
「むふーっ……!!!」
大体のことは受け入れてくれるリナ姉だけど、頑なにメアリィだってことは譲らないみたい。
もうすぐ、3ヶ月が経つって言うのに。
リナ姉は今年で20歳になった。いつまで私といてくれるのかと不安になる。世間的には、もう結婚しなきゃいけない年頃だ。
「リナ姉は、恋人とか作らないの」
「うーん、今はいいかな。色々忙しいから」
「私のせい……? 」
「ちょっとは、そうかも」
やっぱりそうだよね。リナ姉におんぶに抱っこ。
それが今の私だ。沢山迷惑かけてる自負はある。
「でも、支え合うのが家族でしょ? 」
リナ姉は、そうは言ってくれてる。
けどやっぱり自立しなきゃいけないんだ。
でも、自立するってことは、……リナ姉と。
「私、リナ姉に何か出来てる? 」
「なあに急に」
「リナ姉に、いつも頑張らせちゃってるから……」
リナ姉は、突然頭を撫でてくれた。
「支え合いだよ。もし私に何かあったら、その時はお願い」
そんな時、あるとは思えないけど。
「きっと私の婚期がどうって心配してくれてるんだぁ、メアリィ」
「うっ……! 」
完全に見透かされてる……。
「メアリィが恋人みたいなものだもん。しばらくはいい。だからメアリィ、ゆっくりでいいから、元気になってね」
リナ姉の温かさに身を委ねて、私は今日も頭を寄せた。
明日には止んで欲しい雨。それも本心だけれども、今はまだ降り続いて欲しい。ああ、今夜がずっと続けばいい。
「……うん」
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