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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
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番外編 みなさんたーんとめしあがれ



『思い悩んだら舌を頼れ。人の持つ中で、最も嘘を熟知して、最も正直な部位だから』



 この街に配属されてから数年。

 ふと訪れた、とある料理店の店主の言葉だ。



 私は何度かこの舌に、己のこの先を委ねたことがある。

 銘店のビーフシチュー、友人とのステーキ、そして作り置いて冷めたスープ。

 味も食感も違うというのに、舌の返した返事はいつも決まって同じだった。


 声に出せばただ一言、それだけの返事に私は何度も生かされた。

 

 美味い、と。

 

 たったそれだけの返事に、私は明日を生きることを何度も決めた。

 心としての私がどんなに思い詰めようと、食事をして美味いと返ってくる以上、この身は生きることを望んでいるのだ。

 ならば、この身体の宿主として、私ができることは明日もこの返事がくるよう励むこと他ないだろう。



 大袈裟だと笑われるだろうか。

 でも私には、食によって生かされているという自負が少なからずある。

 でなければ、この場にいる誰よりも食らおうなどという宣言、わざわざすることは無いだろう。





「美味いな」

「ぜぇ、ぜぇ……。そうでしょう。手間暇かかりすぎてますからね」


 今日は街中の料理屋たちから、最も自信のある一品をそれぞれ持ち寄ってもらった。

 酒場に並んだこの料理たち、一巡するだけでも一苦労だ。


「って、エリッサさん。味見って言って食べすぎとちゃいます」

「ん、そう言われればそうだな……。主役が来る前に食べ尽くすところだった」

「ま、毎度の通りお金だしてるのも一番の功労者もエリッサさんなんで、責める人はおらんと思いますけどね」

「ん、功労者に……関しては、少し……議論の余地が……あると……思う、が……くちゃくちゃ……」

「食べるか喋るかどっちかにせえへん……!?」


 しまった、ついうっかり自宅での振る舞いが出てしまった。やれやれ、全く人前ではしたない。


「んんっ。済まない、やはり食には目がないらしい」

「エリッサさん、結構な大食漢っすからね。小さい頃からよぉお食べに? 」

「いや、両親の元にいた頃はそこまでだったはずだ。ここまで食べるようになったのはここ数年か」

「激務の反動なんすかね」

「流行りのヤケ食いというやつか。誰が名付けたか分からないが、私は別にヤケになって食べているわけではない。だがまあ、例としては当てはまるからな……」


 カイナとの雑談に花を咲かせていると、皿の上が空になっていた。


「済まない、少し席を立つ」

「……程々にしといた方がええっすよ」

 

 尽かさず私は、食べ物の補充に出かける。

 確か、まだ食べていなかったのは……。


 


「おや……? なんだこれは」


 様々数々並ぶ中、ひときわ異彩を放つ一品。

 何やら白い生地が三日月のような形を作り、頂上で波を打っている。

 味の前に種類の区別がつかない。

 前菜なのか、メインなのか、はたまたデザートなのか。

 

「一体どこの店の……」


 辺りを見渡し、この料理に手をつけている者がいないかを探す。

 何かわからず食べるのもそれはそれで面白みがあるが、事前に種類くらいはわかっておかないと舌が準備しきれず正しく味を感じとれない。

 一口でいい、誰かこれを味わったものはいないだろうか。

 辺りを見渡すも、この不可思議な料理に手をつけているものはなかなか見当たらない。

 美味い不味いはともかく、やはり得体の知れぬものを口に運びたがる者というのはそう居ないのだろう。


 ……やはり自分の舌で確認するしかないか。

 諦めかけたその時、近くのテーブルに一組、2人で向かい合わせにその料理を食べ合う者たちの姿が。


「済まないこの料理は……」


 声をかけてから気づく。

 彼女は、あの時囚われとなっていた……。



 

 

「あっはい……なんでしょう」

 


 食べる手を止め、私に応じてくれた少女。


「食事中にすまない。その、卓上の料理が気になった物でな」

「ああ、これですか。これは餃子っていって、小麦の皮に、お肉と野菜を混ぜたものを包んで焼いた料理なんです」

「ぎょ、ぎょーざ……」


 聞きなれない発音の料理に若干の戸惑いを隠せない。

 が、それと同じだけの好奇心が湧くのもまた事実。


「それは、美味いのか」

「えっと、はい。私は割と好きですし、人気もある食べ物だと」

「異邦では人気がある、のか。そこの君、ええと……」

「シナス君です」

「シナス君はどうだ。ぎょーざ、美味いのか」


 少女の対面に座っていた十の歳もいかぬ少年。彼は顔立ち的に恐らくこちらの出身だろう。

 彼のお墨付きがあれば、同郷の私も安心して食べられると思ったのだが。


「…………」


 彼は口を閉じたまま俯いてしまう。


「……そうでは無いのか? 」

「多分違うと思います。シナス君、初対面の人が苦手なので」

「そうか……」

「彼もさっきまで一緒に食べてたので、こっちの人でも美味しく食べられると思いますよ」

「そうか……済まないな」



 

 礼を告げてそのぎょーざとやらを皿に盛り付けようと、そのテーブルから離れようとした時、その彼女は立ち上がった。


「えっと、エリッサさん……ですよね」

「ああ、そうだが」

「あの日は、ありがとうございました」


 あの日とは、言うまでもない。

 ラストリゾートに分類された螺旋模様の火竜と相対したあの日の事。

 囚われになっていた彼女をとある少年と共に救ったあの明け方だ。


「そして……すみませんでした」

「礼はありがたく受けとっておくが、なぜ君が謝る。囚われだった被害者の君がどうして」

「あれは、私が引き起こしたんです。あの男の誘いを受けて私が自分から掴まったんです。そのせいでエリッサさんに、あれだけの傷をおわせてしまって……」

「この国に生きる者を守るのが、直属護衛隊の役目だ。私が傷つくことに気負う必要は無いさ」

「でも、悠里くんから聞きました。あれを倒すために色々犠牲にしたって。エリッサさん自身も、危うくだったって」

「危うくか、確かにそうだったな」


 あの日、私は自らを犠牲にしようとした。

 その選択は今でも間違いだとは思わないが、今こうして生きて料理を食べられているのは紛れもないあの少年のおかげだ。


「ならば、あの彼に感謝を伝えてやってくれ」

「彼って……」

「他にいるまい、今日の主役だ。ほら、今ちょうど入ってきた」


 酒場の扉をくぐって入ってきたのは2人。

 青髪の獣人におぶられて、歩けない彼はこの場へと現れる。


「ユーリ、凄いよ! これ全部食べていいんだってさ! 」

「ちょっとエリナさん! あんまりはしゃがないで! 落ちる!!!」


 賑やかな登場に、辺りがまた一段と騒がしくなる。

 

 さて、宴はここからが本番だ。

 

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