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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
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決着




 奴は反撃を返さなかった。

 息があるのに、寿命はまだ残っているのに。

 ありったけを使えば、まだ勝負は着かないというのに。

 奴は……。



「……ぐふぉっ! 」


 ルフローヴさんは後ろから近づくと、奴の胸元を剣で貫いた。


「ユーリ、君の勝ちだ」


 彼のその言葉に同意するかのように、奴も何も言わずにいる。

 

「どうして」

「攻撃が来ないってことは、負けを認めたんだ」

「そんな……」


 これだけのことをしでかしてまで生に執着していたというのに、勝ち目が薄れれば潔いほどに諦めが早い。

 なんて身勝手な野郎だと、今に始まった訳では無い怒りがさらに強まる。

 釈然としない勝利。僕は喜ぶに到れない。


 

 


「それよりだ、君にはまだやるべきことが残ってる」

「やる、べき……」


 これだけの傷、正直な事を言うなら一歩だってもう動きたくは無い。

 が、彼の言葉に思いは一変させられる。


 

「後ろ、あのドラゴンと一人でやり合ってる彼女、多分だけど相当にまずい状況だ」

「……エリッサさん! 」

 


 こっちの闘いに意識を削いで、エリッサさんの戦況など頭になかった。

 振り向くとそこには、互いに疲弊し満身創痍を尽くす竜とエリッサさんの姿が。


「俺が行っても足でまといになる。君になら、君の役割があるはずだ」

「役割……」

「彼女も君の大切な人だろう。君は今、助けられる位置にいる。それは運命と言ったっていい事だ。ここは俺に任せて、行ってくれ」

「分かりました……! 」


 彼にこの場を任せ、僕は何とか駆けだす。

 全てに蹴りをつけ、ホントの決着をつけに行くために。


――――――――――――――――――――――――




「さて、何が目的だった。バケモン」

「ぐふっ……!」

「答えの前に血を吐くか。ならさらに痛め付けるまでだ。あの図書館は、それなりにモンタギュー家からも金が出てる。答えてもらう義理くらいはあるはずだ」


 まあ、個人的な興味の方が強いんだけど。



 

 家のことは、彼を助けに来た二の次。どうせ罪人として捕らえようと、モンタギュー家に何か返ってくる訳でもない。だから別にこいつがどうなろうと、どうだって。


「義理、か。犯罪者相手にそんなものを問うとは、この世界の人間はマヌケもいいところだな」

「お前こそ、立場ってのが分かってないみたいだな」


 こいつに刺した剣をまた刺し直す。

 

「ぐっ……はっ……」


 さっきの戦闘の中で、こいつがどこからか出した気味の悪い剣。

 それが今こうして、こいつを痛めつけてる。


「そうか。死んでも口を割らないか」

「お前に伝わる理由が無いだけだ。血濡れの灰狼……」

「ん……? 」


 剣を持つ手に、力が入った。


「うぐっ……はあっ! 」

「どこで聞いた、その別称」

「どこでだって聞く。自暴自棄の殺人の果てに、モンタギューに転がり込んだ一匹狼。この街にいてこの名を知らぬ方が稀だ」

「なら、その名前をわざわざ俺の前に出すことがどういうことなのかも分ってる、だよな? 」

「……ああ。その見かけの薄らな余裕が剥がれる程に、忌み嫌う名だということまで」


 ……ちっ。死に際までこのザマか。

 性根からひん曲がってるんだろうなこいつ。


「まあいいさ。どうせお前はここでくたばるんだ。数分後には意識もない。道端の石ころにまで怒りをとばせるほど、俺は暇じゃないんでな」

「そうか……。そうやって一生背け続けるか」

「好きに言え。敗者はお前だ」


 減らず口にも、そろそろ飽きたな。

 いつまでたっても口は割らない、あくまで活かしてやってるに過ぎないんだ。

 生殺与奪は俺が握ってるのを忘れていやがる。


「今際の際に言い残すことはあるか。名勝負を演じてくれた礼として、聞ておいてやる」


 どうせ、また俺を小馬鹿にするようなこと言って終わりだろう。

 そう思ってたが。


「なら……そこの女に伝えてくれ」

「そこの女……? 」


 この場合、指すのは檻の中の子か。

 わざわざ引っ捕えて、ご丁寧に数日間生かしてたと。

 そこそこの訳ありとみた。


「何て」

「その男大事にな、って」

「敗北宣言か。年下相手に」

「ああ」

「そりゃあユーリは立派だが、恥ってもんがないのかよ」

「違うな、俺が負けたのはあいつにじゃない」


 じゃあ誰にってなると……会話の脈絡的にはその子ってことになるのか。


「ただの言葉の綾だな」


 俺の言葉をまるで無いものとして奴は一人語りを続ける。

 

「あれだけ自分に懸けてくれる野郎、どうやって捕まえたか。恐らく、人生にようやくつきがまわって来たんだろうな。その人生無駄遣いするなとも、頼めるか」


 まるでいい話かのようにまとめてやがる。

 


「そうか」



 お前は、人殺しなんだよ。

 許されない咎人さ。

 そんなやつの言うことなんざ、ふっ。






 


「聞くかよ。ばーか」







 


――――――――――――――――――――――――



 眼前には、紅蓮。

 火竜の口内から放たれようとする業火を避けるすべは、この瞬間に無い。

 犠牲にするなら、腕か足か……。

 逡巡する思考の中、想定外が私を襲う。


 

「エリッサさんっ! 」

 


 視界の外から飛び出した彼により、私の身体は火竜の射線から外れる。


 放たれた火球。着弾と同時に、地をえぐるほどの爆発。


「ぐっ、はぁっ!!!」

 

 爆風に2人、互いを抱えるように大地を転がる。

 直撃を免れた我々は、なんとか一命を取り留める。



「ユーリ、なぜ! 」


 向こうの戦況は微かにしか頭にない。

 どこかの家の貴族の男が、彼を助けに介入した以来の状況を私は知らない。

 だから、彼がこうして五体満足に生きているのは、私にとって何よりの知らせだが、この場にいることは私にとって何よりの凶報だ。

 

「エリッサさんがまずいって聞いて、それでいてもたってもいられなくって」

「でも、君が来ても戦況は! 」

「役割があるって言ってくれたんです。それを僕はしに来たんです! 」

「役割、だと」




 

 会話の間も、相手は待たない。



 「ばぉううううううんんんんんん!!!!!」


 

 火竜による咆哮。嗄れ(しゃが)た鳴き声は、これまでの戦闘によって蓄積された痛みの表れ。

 奴も私も、等に限界は超過。何かしらの要因で均衡が崩れれば、雪崩のように決着がつくだろう。

 奴もそれを分かっている。

 畳み掛けるように、翼膜の破れた火竜による次が来る。



 ガンッ!!!


 


「何してはるんです2人とも!!!」


 

 

 竜の噛みつきを盾で伏せぐ男。


「どうしてここに……! 」

「どうしてもこうしてもあらへん。ましてや自分のためでもない! エリッサさんに頼まれてん、何があっても自分を生かして連れて帰れって! 」


 カイナによる防御で、十二分の好機が生まれた。


「無駄話してたら、このまま全員潰れます! 」


 彼の作ったこの転換点を生かす他は無い。

 これ以上の消耗戦になれば、種族の差でこちらが負ける。

 ならば、この一手は確実なダメージ、あわよくば決着までを導くほどの威力がほしい。

 だが今、肝心の攻撃力がこの場には無い。

 心音を確かに、私自身を落ち着かせる。


「ユーリ聞いてくれ」


 そして私は、意を決して彼に話す。


「私のエーテル器官は、既に限界を迎えている。杖の魔導具も酷使による破損、万全の威力は出せん。今この場に必要なのは、この一撃で確実に奴を葬る破壊力だ。

 君はさっき役割といった。紛れもなく君にしかできないことだ。



 




 

 私を撃て。

 


 





 

 君の力なら、私を糧に魔術が撃てる。この場で一番価値あるものは私だ。恐らくこれが最大限の威力を用意する方法だ。撃ってくれ。そして君の力で、奴を討ってくれ」

「……」

「頼む。人々の安寧、これが私の願いなんだ。私の全てを君に託す。だから……」


 無言のまま、彼は鎧越しに私に触れる。

 狼狽えることなく決断したその心意気は、先の闘いの中で身につけたのだろうか。以外にも、彼らしくは無い。



「ぐぐっ……もう、限界、です! 」


 ユーリは、逆の手をあの竜の額に向ける。


「すぅ、はぁ……」


 彼の深呼吸。その中で、彼は一体何を思ったのだろう。

 

 君を助けたあの時からだろう、私の中には罪悪感に近い後悔があった。

 背負うと言って、護ると言って、生きろと言って、私が彼に大人としてできた事は何があっただろう。

 結局私が彼に言った台詞など、全て欺瞞なのだ。

 限りがあって、限界があって、どうしたとて守れぬ約束だったのだ。

 


 ユーリ。大人は嘘つきだ。子供の無垢な嘘とは違う。

 何が待ち受けているのか気づいた上で、自らを騙す嘘をつく。

 

 行く末など、分かっている。

 自らが何かも、分かっている。

 でも、分からないふりをし続ける。

 

 何かを守るためだろう。

 家族でも、正義でも、社会でも。

 何かのために、自らを曲げる。

 それが大人だ。


 私は大人だ。だから、嘘をついた。

 本当に守りたかったのは、君たちではなかったんだ。

 幼き自分を君たちに重ね、ただ後悔のやり直しをしていただけ。

 過去の人間など今何をしようと救われん。

 終わりのない行為に君を巻き込んだだけだ。


 

 君を振り回し、生死すら揺るがし、こうしてまた巻き込んで。

 私は何十万の命にこうして関わり続けてきた。

 未だ分からぬ命題は私の手に負えるものでは無い。

 偽り続けるこの先に特効薬は訪れない。

 騙し騙し歩き続けるこの人生に私は罪を作りすぎた。





 

 だから、私はこうして逃げたくなったんだ。






 

「私に縛られるなよ、ユーリ」



 その言葉に何を感じとったか、彼が頷くことは無かった。


「……くっ! エリッサさんもう! 」

「撃て、ユーリ! 」

「……っ! 」


 眼前を包む眩い光。

 実感こそないが、これが消える前の最後の光景だ。

 ユーリ、済まないな。

 君にこんな役割をさせてしまって。




 

 せめて君は、私のように生きるな。



 

 

「くっらぁ! 」

 

 カイナが空けた射線を通るように、



「……! 」

 


 彼は魔法を放った。






 











 

 


 パァァァァアアンッ!!!











 




 

 

 

 穿いた光線。

 竜を割く一撃は、確かな損傷を負わせ、そして果てるほどの爆発を生んだ。

 



 

 星の終わりは、大きな煌めきを放つという。

 夜空に浮かんだこの光はまるでその景色のようだと、











 

 

 

 何故かこの目は、そう捉えていた。











 


 

「……どう、して」







 


 

 狼狽する間に、無くなった私の鎧に気づく。

 彼の能力として消費されたのは私ではなく、その鎧だったのだと理解する。

 




 彼は私に向かって言う。


 


 

「まだ生きてよ、エリッサさん! 」


 


 

 私の言葉をどこまで理解してなのか。

 彼の言葉は、私の胸に深く突き刺さる。


 彼の中には、初めから私を犠牲にするなどという選択肢は無かったのだろう。

 

 私が彼を生かしたように、彼は私を生かした。

 彼は私と同じ罪を抱えてもなお、生きろと言う。


 ……全く、私なんかより、強いな君は。


 そして、



 

「厳しいな、君は」




 

――――――――――――――――――――――――


 僕はエリッサさんの指示を無視した。

 確実を期すために自らが代償になるって事だったけど、そんなの嫌だから。

 エリッサさんを助けるために、僕はここにいて、エリッサさんが生き残るための術はまだいくらでもあったんだ。

 全部試してからじゃなきゃそんなの飲み込めるはずもないさ。



 さっきの攻撃が決め手になって、あの火竜は倒れた。

 いくら竜とは言え頭、生物における急所を穿かれればそれ以上の生存は困難。

 死骸から造られた竜とは言え、この世の理屈通りに倒れてくれてホッとする。

 多分エリッサさんが過度な攻撃力を求めたのは、奴がそんな超常から生まれたからってのもあるんだろう。


 


「厳しいな、君は」

「……えっ? 」


 なにかそんなこと言ったかなと疑問に思うも、インナー姿のエリッサさんは首を横に振って僕の背中を叩いた。


「ううん……なんでもない。行ってくれ、君が助けたかった相手は本来私じゃなかったはずだろう」


 

 

「……はい! 」


 

読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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