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今、僕、アンダーグラウンドから


  あぁ……とうとう代償の効果が出てきてしまった。


 「痛っ!!!! たたっ……痛! 」


 奴をぶん殴るための瞬間移動、その時足に賭けた代償はこれから数日の歩行力。

 これから数日、なんて曖昧な程度の決め方をしてしまったから、いつから歩けなくなっていつ終わるのかすら自分でも分からなかった。

 代償のレートなんて計算しようがない。

 約10m分の瞬間移動1回分と同じ価値って何日だろうか。


 オマケに歩行力ってのも、まあ雑なもので……。

 どう言った具合に歩けなくなるのかも決めずに発動しちゃったから、痛みで歩行を差し押さえに来た。

 たった今痛感してるけど、まるで足つぼの超絶強化版!

 曖昧な代償がこういう形で取り立ててきたか……!



「えっと、大丈夫かな……? 」


 フラフラに、まるでお酒に酔った鳥のように歩く僕を前に、彼女はいつかみたいに首を傾げる。


「大丈、夫……! 痛っ……! 」

「えっと、ホントに大丈夫? 」

「ホントにホントに、大丈夫」


 大丈夫。ただ、ちょっとばかし痛めた箇所が多いだけ。

 腕と、足と、顔と、腹と……。よくよく考えたら只事ではないんだよなぁ。

 不安げな彼女の表情は、今回ばかりは全身に向けられてるはず。


「って暁音さん! 檻は!?」


 自然と会話していたけれど、彼女はさっきまで檻の中にいたはず。

 あいつが鍵を渡したのか、ルフローヴさんが解放してくれたのか分からないけどいつの間に……。

 

「ああ、あの檻ね。どう考えても人用じゃないよね。あんなサイズの隙間、普通に通れちゃうもん。本気で捕まえる気あるのかなって」

「えっ……あ! 」


 よく見ると、と言うかよく見なくても、彼女を捕らえていたあの檻はなんと言うか……ガバガバだった。

 暁音さんの言う通り、多分獣とか竜とか捕らえておくようのだいぶ大きめサイズ。

 ここに来てからずーっと目の前にあったのに、そんなことにも気づかないなんて。

 あぁ、よくある作画ミスだなって目が自然と見過ごしてたとでも言うのだろうか……アニメの見すぎもここまで来ると病だなぁ。はぁ……。


「なんで気を落としてるの。助けた側がそんなだと、こっちもなんだか喜べないよ」

「いやまあ、なんと言うか……」


 別にこの見落としがなにか及ぼす訳じゃないけど、こんな調子でなにか見落としてるんじゃないかと不安になる。と言うか、不信になる。

 面倒な性格は、今に始まったことじゃない。

 が、これだけやってもまだ変わらない自分にちょっとばかしまた呆れてしまう。

 でもまあ、いつも通りって事なら平常運転はできてるってことだな。うん、それでいいや。



 

 

「それより、また君に助けられちゃったな」


 暁音さんは、後ろに手を組んでテクテクと歩いてる。


「お礼は何したらいいんだろ。何かある? 欲しいものとか」

「欲しいものは無い、けど」

「……けど?」


 聞き返されて、一拍置いて返す。



 

 

「答えだけ、聞きたくて」




 

 途端に彼女の足はパタリと止まった。


 質問する側も自然と唾を飲む。

 独特の緊張感が全身を伝って離れていかない。

 こういう時どんな顔すればいいか……ってふざけてる場合じゃあないんだ。



「暁音さん」



 意を決して、彼女に尋ねる。



「辛ければ辛いでいいし、嫌なら嫌で答えていいから……






 


 一緒に、明日を歩いてくれますか」







 


 想いを伝え、沈黙の待ち時間。

 まるでプロポーズにも捉えられかねない言葉に今頃気づいて、少し焦ったところに夜風が吹き付ける。


「ううっ……!?」


 寒がった僕を見て、黙ったままだった彼女は少し笑う。


 


「もう、しょうがないなぁ」




 そして歩いて、僕の手を取った。

 突然触れる温もりに少しばかり動揺するも、僕は彼女に聞き返す。

 


「えっと、つまりOKって事で…………」


 

 言いかけて、彼女の手の震えに気づく。


「……暁音さん? 」

 

 俯いて黙ったままだった彼女は、零す。


「……ごめん」



 ただ一言、そう言った彼女は顔を上げる。

 さっきまでの笑顔はそこにあって、いつもの彼女はそこにいた。


 けれど、似合わぬ表情はすぐに訪れた。




 



「うぐっ……ごめんっごめんっ……! 私、君にっ!」






 現実に綺麗な泣き顔なんてものはない。

 それを強く思わされるほど、感情的で暴力的で繊細的な泣き様だった。

 僕の手に両手で抱きつくようにして、彼女はその場にへたり込む。

 ただ荒廃したこの土地に、彼女の泣き声だけが響く。

 


 

 

「うあああっ……ああああああああぁぁぁ、わああぁあぁあああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ……」

 



 色づき出す空。

 瞳を閉じる星々。

 来光が朝を告げ、僕らに明日がやってきた。


 


――――――――――――――――――――――――



 あれから一週間。

 街の様子は相変わらずで、治安も景気もあんまり良くはない。

 壊れたあの図書館も、穴が空いたまま営業中。

 雨風はどうするって? それは……


「誰かがバリアーでも貼り続けんと、全部パーやパー! 」


 優秀な直属護衛隊の方々にお守りしてもらってます。



 私たちも相変わらずで、こうして図書館の端のほうを借りて、勉強の続き。


「もう、悠里くんが安易に寿命使うから! 死ぬまで期限が2年と半分しかないんだよ? あんまり余裕ぶってるとあっという間。気をつけないと死んじゃうよ? 」

「ごめん、急いで覚えるからぁ! 」

「全く……、世話が焼けるんだから」


 こんなやり取りができるのも、全部全部彼のおかげ。

 本当に感謝してもしきれません。


「安心するのは250億稼ぎ切ってから、ね」

「……やっぱり無理なんじゃ。チケット代250億を2年半で稼ぐなんて」

「なあにぃ? 私の計算疑ってるんだ? 」

「そういう訳じゃないんだけど……。というか、なんか暁音さん、以前より押しが強くなってない? なんて言うか、ひかえめさがなくなってきたというか」

「ふふっ、そうならそうなんじゃない? なーんて」


 少しからかっちゃうのは、私なりの照れ隠し。

 恥ずかしいんだ。

 面と向かってお礼も言えないくらいに、私は臆病者。



 

「そうだ、言い忘れてた」




 でも、いつの日だって心には彼への思いがあります。


 


「おはよう、悠里くん」

 

 


 急な挨拶に、君は動揺して返す。

 

「えっあっ、おは、よう……? 」


 

 へへっ、ありがとう悠里くん。

 大好きだよ。

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