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俺を誰だと思ってやがる!!!!!!!!


 

 ありったけは伝えた。

 だから、これ以上は暁音さんの決断だ。



 僕の言葉で盤面が変わる訳では無い。

 僕の身体の満身創痍具合いは変わらず、奴もまだだいぶ余力を残してる。



「大層なことをベラベラと。出来るのか、お前に」



 煽り混じりの奴の言葉。

 こんな逆境こんなピンチに、返す言葉はこれしか無いだろ。


 彼の言葉を借りるというのはつまり、己を貫く宣誓だ。

 いつか憧れ、いつか涙し、今でもこの胸を叩き続ける。

 そんな僕の主人公(ヒーロー)も、この状況なら仁王立つだろう。


 今なら言える。

 恥じることなく、彼と自分を重ねて言える。





 この先何が待ち受けようと




 掴む未来は己が全て




 無理を通して通りを蹴飛ばす




 それが螺旋に焦がされた者の




 役目、宿命、生きる定め!!!




 胸の中には、いつもドリルを!




 この戦力差、勝てるのかって……?


 



 舐めんじゃねぇ! 僕を、俺をっ……!






「俺を誰だと思ってやがる!!!」






―――――――――――――――――――――――




「……くっ! 」


 苦虫を噛み潰したような表情の奴は、そのまま走って殴りかかる。

 当然僕には逃げる余裕なんてなく、奴の拳を受け止めざるを得ないはず。

 けど命中の寸前、奴の拳は一瞬すくんだ。

 

バンッ


 今までよりもずっと軽いパンチ。

 途中で勢いを失ってたから、威力はほぼ無いに等しい。

 恐れを成したか、慄いたか。

 そのチャンスを逃すほど、僕は愚かじゃない。


「……必殺」


 "10か20か"代償を定めて、握りこぶしに力を込める。


「……!」


 奴も反撃の気配を感じとったか、回避をとろうと動き出す。

 が、もう遅い!

 左足で踏み込み、渾身の一発をやつの土手っ腹にぶち込む!!!

 










 


 

 のはずが、僕の全身から力が抜ける。





 


「なっ……」


 まるで、さっきの軽いパンチがちょうど僕の体力を削りきったかのように、あと寸前で動かなくなる。

 元より限界を超えて闘い続けてきたんだ、いつ動けなくなったっておかしくは無いけどこんな時ってないだろ…!


 異変を感じとった奴もバックステップを切り返して、再度攻撃の構え。

 失態は2度ないと言わんばかりの鬼気迫る表情で僕にトドメを刺しに来てる。


 スキルを使えば継戦は可能。

 だけど、ここで使ったら!



 

 迷いが判断を遅らせた。











 


雷閃(らいせん)っ!!!!!!」









 

 


 攻撃と同時に吹き飛んだのは、奴の右腕。




 

 まるでいかづちのような瞬間の出来事に狼狽えていると、ようやく僕は目の前に現れたもう一人に気づく。


「何とか間に合った……。

 言っただろ、君を助けられる位置に必ず俺は居るって」


 靡く片翼のマント。貴族らしい高貴な振る舞い。

 その癖ちょっと気持ち悪い言動の、銀髪のガッカリイケメン。




 


「ルフローヴ、さん……! 」




 


 真夜中に轟く雷鳴、此度戦場に現れた彼は、奴と僕の間に立ち、その手に掲げた月光を反射する一刀によって、場の膠着を図る。



「ここまでよく耐えた。ひとまず下がってろユーリ」

「待って……! 」


 思ってもみなかった伏線の助太刀に、僕は待ったをかける。



「決着は、僕がつけなきゃ! 」

 


 相手も僕も、1VS1で始まった闘い。

 ルフローヴさんの介入で、戦況はこちら側に傾き始めるのは間違いないが、それじゃあ何か負けた気がして!

 

「熱くなるのはいいが、少し冷静になれユーリ。本来、君がしたかった事は目の前のあいつを倒すことじゃなくて、奥のあの子を助けることだ」


 その言葉でハッと気付かされる。

 今は自分のプライドを気にしている場合じゃない。

 悔しさすら飲み込んでまで、しなきゃならないことがそこにあるのだから。


「目的の前にくたばったら、なんのために命張ったかわかんないだろ」

「……そう、ですね」

「それに、俺じゃあいつは倒せない! 」

「……!? 」


 自信満々に言うことでは無いでしょ……って。

 今相手してるのは、彼に一太刀の交わりでそこまで言わせてしまうほどの怪物なのか。

 分かってはいたけど、よくもまあ大見得切ったな自分。

 


「恐らくトドメは君に任せる事になる。チャンスが来たらぶつけてくれ。ありったけ、その手で」

「はいっ……! 」



 


 会話の中、奴はちぎれた腕を代償に、腕を生やす。

 さっきよりかは迫力の衰えたその腕は、もう既に意のままに動くようだ。



「よし! じゃあ、行くぞ……バケモン」

「ちっ、邪魔がぁあああ………………!」


 駆けるルフローヴさんを迎え撃つ姿勢の奴。


 二人の間に走る電流。

 一気に距離を詰め、次に一振。


 

 

「電雷無双刀・無限閃!!!」


 


 出合い頭に放つにしては、強力で絶大な威力。

 必殺技の中でも、奥義と言ってもいいほどの奥の手。

 一度の振りの後、太刀に纏った雷が辺りの宙を舞い、奴に向かって無数の追撃。

 電光石火を体現したかのような攻撃は、奴の表層に無数の傷を付ける。

 続けざまに彼は持ち直した太刀で攻撃を続ける。

 刀と電撃の二重奏、呼吸を摂る暇はもう無い。


 

 さっきまでの闘いが茶番に思えてしまうほどの猛攻に、一見、勝負あったかのように思う。

 が、死闘を演じた僕だから分かってしまう。

 その傷の数が、奴にトドメをさせなかった回数だと。

 決め手に至らぬ理由は一つ。

 タイミングを誤ればたった一手でこちらが死するから。

 

「鬱陶しい! 」


 ガっと、素手で刀を直に掴む。


「……!」


 掴まれた瞬間から刀はビクとも動かせなくなる。

 血が滲むのもお構い無しの握力で固定された刀を介し、どちらかが手を離すまでお互い動きを封じられる。

 

 しかけたのは奴だ。

 掴んだのとは逆の手。

 間合いで動けずにいる彼の身体目掛けて、掌底が飛ぶ。


 ルフローヴさんがとるのは苦肉の選択。

 その刀から手を離し攻撃範囲から逃げる、それ以外に道はなかった。

 後方へ跳び、距離をつくって攻撃を回避。

 エリッサさんほどの鎧を身につけていない彼には、やはり当たればその一撃で決着がつきかねない威力。

 万全の距離を確保した避けだった。



 

 距離が生まれ、互いに睨み合う。


「ちっ……」


 奴は奪い取った刀を無言で代償とし、身体にできた傷を癒す。

 刀が消えたからか雷の発生も止まり、場は完全に振り出しに。


「マジか。念の為、こっちも持ってきておいてよかった」

 

 ルフローヴさんはもう一本、腰から提げていた刀を抜く。


「抜刀、"雷切"」


 鞘に一筋の青い光。

 抜いた刀身には、既に電光が纏われていた。







 


「二度は喰らわねぇよ」








 休息など与えんと言わぬほどに、一気に詰寄る。

 予期していたのかと言わんばかりの奴の的確な左腕の攻撃を避け、彼はもう一度、切り上げる。



 

 


「蒼天雷覇ぁぁぁああああああああああああ!!!!!」






 

 今度は、左腕が飛んだ。



 




 青いイナズマが後に続く一振は確実に奴の腕を切った。






 振り抜いた後、彼は反撃に備えて再び距離を取ろうと後ろに下がった。

 だが、これで終わる攻撃では無い。

 刀は、突きの構え。

 彼が狙うは、恐らく次の再生の瞬間。

 ちぎれた腕を元に戻すその一瞬。

 僅かな隙に焦点を定め、急所を突こうという目論見だろう。


 

 奴は、宙に飛んだ自分の腕を掴む。

 その瞬間、ルフローヴさんは切り返す。


「電光……」

 

 電流のごとき神速の突き。

 無駄のない動き、洗練された匠の所作、突きとして満点の攻撃。恐らく、決まる確率は五割程度だろう。


 

 そう思わせるのは、あのスキルが、






 

 無限の可能性を秘めているから。




 


「……!?」


 

 

 左腕の変換。

 それは治癒ではなく、攻撃に。

 天に掲げられた奴の腕は一瞬にして剣へと変わる。

 そしてそのまま振り下ろされた。






 

バコンッ!






 


 彼の刀をいとも容易く叩きつけによって破壊。

 もう彼に、予備の武器は無い。



 急接近は止められない。

 突きの想定で動いた身体は、刀を失っても直ぐには止まらず、ブレーキはかからない。

 幾ら隻腕だろうと、相手が間合いに入るなら関係ない。

 振れば切れる位置にいるのならただ、その剣を振り抜けばいい。


 

 奴は振る。

 剣の延長には、彼の身体。

 止まらぬ全ての動きに、香り出す死の匂い。

 数秒後には、血に溢れる自らが頭をよぎる事だろう。





 


 それなのに、彼はニヤリと笑う。







 

 

 ……何故って、





 








 

 この戦場には、もう一人いる!!!






 




 


「必殺……っ!!!!!!!!!!!!!」












 奴の足元で屈む僕は、代償の力で無理やりこの場に瞬間移動した。代償は、これから数日分の脚力。

 さっき放とうとしたあの一撃を、もう一度。

 今度は、倒れてたまるものか……!!!


 腕に最大限の力を……!!!




 

 胸の中には貫く意思を!!!





 

 

 ……代償、必殺っ!!!


 







「ギガっ!!!
















 

 

 

 ドリルっ!!!!!!!!





 






 









 


ブレイクぅううぅぅぅぅっっっっつつつつ!!!!!!」















 




 


 渾身の一発は、奴を腹から突き上げる。









 


 


「うおおおおおおぉぉ…………ぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっつつつっつ!!!!!!!」







 

 

 振り抜く拳。



 

 


「だァリァァアアアアアアアアアアアアアアッツ!!!」








 天に掲げ、待つのは満点の星空。



 




 

「ぐぬぁぁああああああああああああぁああっ!!!」






 

 まるで燃え尽きたように果てたこの腕に二度目は無いと、その有様が物語った。

 








 

―――――――――――――――――――――――





 


「……まだ」

 

 奴の生存を確認して、僕は足引きずって奴に近づく。

 やられ声を上げて少し先に吹き飛んだ奴は、"あれだけ賭けた"一撃ですら、まだ、息をしている。


 なら、もう一発。

 

 使い物にならない両足。出し切った右腕。

 次にトドメを撃ち込むとするのなら、恐らく折れてるこの左腕で。

 さっきのと同威力、耐え切れるとは思えないが念には念を入れて。


 



 腹を杭で付かれているかのように地面に四肢を投げ出して、奴はそこに。

 目の前に着くと、まるで待ち構えていたかのような口振りで奴は言う。


「お前、何を賭けた」


 まだ喋れる元気があるのか、"自分の賭けた代償"がこんなものダメージなのかと少しばかり哀しくなる。

 貫くイメージが、このざま。

 やはり、憧れにはまだ程遠い。


 

「寿命、半年」


 

 元の身体換算で、約20年分。

 たった一発に賭けるには重たいと思うけれど、威力として、目の前の敵にとどめを刺せないほどにしか変換されなかった。

 


「……そうか、若いな。けど、いつか必ず後悔――」

「するかよ」


 奴の言葉を遮って言う。

 これが、僕の覚悟の証明。


 

「自分がしなきゃって、思った事になんだ。





 



 懸けられるさ……!!! 」







 

 

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