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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
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君と


 剣を失い、とうとうその両腕を振るうだろう奴は、その言葉と同時に戦闘態勢へ。

 御託はいいと言わんばかりの様相は、全くもって間違いじゃない。

 結局、僕がここで何を言おうと、どんな言葉を語ろうと、あいつに勝てなきゃ何も意味が無い。



 代償の力で引っ込めた靴を元に戻し、意を決す。

 互いに得物を失った。

 あるのは己のその身、ただ一つ。

 殴り合いの結末が例えこの目に見えていようとも、引くことはしない。



 

 

「っ……!?」



 その反応が、力量差の全て。

 僕らの間合いは、一瞬でゼロになる。奴が、駆けた。

 


 攻めのイメージを一瞬でも思ってしまった、自分を悔やんだ。

 目にも止まらぬ猛攻の第一打、血が舞う程の威力の右ストレートは僕の顔へと突き刺さる。


 

 世界から音が消え、視界はゆらぐ。

 この身体は既に、ノックアウト寸前まで追い込まれた。

 ただ、これは試合じゃない。待ったもなければ、判定勝ちもない。

 勝負が決まるのは、どちらかが二度と立ち上がれぬほどに倒れた時だけ。

 


 放たれた二撃目を胸に受け止めると、返り血のついた拳が再び迫り来る。

 手札はほとんどない。しかも、選ぶと言うより捨てるが正しい。どこを犠牲に、どこを生かすか。奴の拳が迫る度に、部位の取捨選択を繰り返す。


 

 左腕による咄嗟の防御。

 直撃を防ぐも、痛みでわかった。

 もう、こっちは使い物にならない。

 


 上を固め出した僕に対し、奴は次は蹴りを選ぶ。

 低空から駆け上がる強撃は、腰を打った。

 確かな痛みが走るが、蹴りの後は大きな隙を生む、この期を逃す他は無い。



「っ……!?」



 だが、痛みと連鎖するように、足に力が入らなくなる。

 そのまま崩れるように、へたり込む。


 動けぬ僕に慈悲はなく、奴は脚を大きくふりかぶる。



「うぐっ……!」



 腹に加えられたその一撃が決定打となり、僕の背中は地に着いた。



「うぇっほぉっ……! かハッ……!!! 」



 見上げる天蓋は、瞬く星と暗闇。

 香るはただ、鉄の匂い。

 奥から込み上げてくる何かを手で抑えると、ドロドロとした多量の血。

 生暖かい血を浴びて赤く染まった右の掌。

 人生二度目の吐血が、まさかこんなに早くにくるとは。



 眺めていると、その奥に奴の姿が。


 




「勝負ありだ」






 ほんの少しだけ切らした息。

 その様は、ウォーミングアップの最中に抜け出してきたスポーツマンのよう。

 ゆっくりとこちらに近づいてきた奴は、何故か、まるでもう勝ったかのように口走る。

 


「ぷっ……! 」



 僕が吐いた血は飛ぶ。



「……っ」



 不意の出来事に、血は命中。

 奴の左の目元は赤く濡れ、まるで傷の様に見えた。



 軽く拭って、何されたのかを奴が自覚する。


「……ちっ」


 倒れた身体に、踏みつけるような蹴りの追い討ち。

 グリグリと、何度も嬲る。

 思わず漏れるこちらの悲鳴など気にもとめず、一度蹴りを入れた腹の辺りを集中的に。



 戦法としては十分に効果はある。

 だが、急所を蹴らずには致命傷に至るはずもない。

 まるで参ったとでも言わせたいのか。

 いつまでたっても、殺す気で来ない。

 ふざけるな。こっちは、お前をっ……!!!



「ううぅあ゛あ゛あ゛っ!!!」



 片脚が宙に浮いたタイミングで、全身を起こし、逆転を図った。


「……!?」


 火事場の馬鹿力とでも言うべきか。

 一転攻勢。体勢は真逆。

 倒れた奴をこちらが抑え込むような形に。

 馬乗りになって、体重の限りの拘束。

 だが、奴の力じゃ抜け出すのは容易いだろう。

 ぶち込めてせいぜい一回、拳を引く時間もない。



 濡れた右手を、奴の目に合わせる。





「代償っ……! 」



 バンッ!




 互いを焦がす爆発は、両者に確実な損傷を。

 耳鳴りに身を委ねていると、奴の抵抗により、僕の身体は遠くに飛ばされる。

 何とか身体を起こすと、奴は、片目でこちらを睨んでいた。


「血も所有物か……。だが生憎だったな……この世界じゃ輸血は幼児か年寄りにしか行われない。だから、元の世界ほどの価値は持たん……」


 その言葉の通り、血を代償にした先の爆発は、奴の左眼が焼き焦げた程度で、戦闘においては大きなダメージには無い。


「…………降参しろ。その手じゃ何も握れないだろ」



 さっきの爆発は、奴の目とこちらの手の間での出来事。

 受け止めたのは、奴だけじゃなく僕も。

 その右の掌は、衝撃を直接受けた。

 皮は剥がれ、触れる空気ですら痛みになるほどに。


「嫌だ。握り込めば、まだお前を殴れる」


 発言に嫌気がさしたか、奴の語気が強まる。


「何がお前を駆り立てる。己を代償に、他者を助ける理由がどこにある」



 その問いの返事代わりに、ただ、痛む左手で心臓の位置を押さえた。



「心にとでも言いたいか……。綺麗事が」


 より強くなるいら立ちに、僕は返す。


「どこがだよ。

託したくて、託されたくて。救われたくて、救いたくて。何が綺麗事だよ、こんなの全部わがままだろ。

根っこはお前と同じだよ。お前を殴るのも、彼女を助けようとするのも、全部自分のわがままに従ってるだけだよ。

立派な理由なんてない。指針は、全部自分だよ。

汚いさ、みすぼらしいさ。押さえつけてきた分、子供の頃よりタチが悪いさ。

けど、どうしようも無く湧いて出てくるそんな欲望全部、貫いて、生きたいんじゃないか!!! 」




――――――――――――――――――――――――







 

 もう、やめてよ……。

 





 


「…………降参しろ。その手じゃ何も握れないだろ」



 嬉しいよ、嬉しいけど……。

 そんなになる君を見たいわけじゃないんだよ……。



「嫌だ。握り込めば、まだお前を殴れる」


 何言ってるの、自分の容態わかってないの。

 私が何をしたの、君をそこまでボロボロにさせるほど、私、愚かな選択をした……?

 悪いことなの、ねぇ。君もさっき言ってたじゃない。

 誰がとやかく言えるもんじゃないって、自分のためのわがままだって。

 言わせてよ、叶えさせてよ、最後の最後のわがままだから。お願いだから……!!!



「何がお前を駆り立てる。己を代償に、他者を助ける理由がどこにある。―心にとでも言いたいか……。綺麗事が」

「どこがだよ。託したくて、託されたくて。救われたくて、救いたくて。何が綺麗事だよ、こんなの全部わがままだろ。根っこはお前と同じだよ。お前を殴るのも、彼女を助けようとするのも、全部自分のわがままに従ってるだけだよ。立派な理由なんてない。指針は、全部自分だよ。

汚いさ、みすぼらしいさ。押さえつけてきた分、子供の頃よりタチが悪いさ。

けど、どうしようも無く湧いて出てくるそんな欲望全部、貫いて、生きたいんじゃないか!!! 」



 貫いてなんて立派な事。

 私には無理だから。




「暁音さんっ!!!」




「……えっ、」


 想定のない呼び掛けに、届くはずのない声が漏れた。




「………聞こえてるのかな。分かんない、わかんないけど!!!」



 闘ってる最中だって言うのに、ボロボロになってるって言うのに、彼は私に向かって叫んでる。



「暁音さんのこと、僕はなんにも知らないし、分かりもしない。今まで何があったとか、何してきたとか、きっと僕の想像より辛いことをしてきたってこと以上は分かんないよ!」


 彼が言うほどそんなに酷くない。

 私なんか、ちょっとだけついてなかっただけで、。

 そんな、分かろうとなんてしなくったって……。









「分かんないよ! 」










 えっ……?







 


「言ってくれなきゃ、話してくれなきゃ分からないよ! もしかしたら、話してくれてもわかんないかもしれない。けど、分かりたいんだよ!!! 何を受けて、何を感じて、君が何を抱えてるのか。全部全部分かりたいんだよ。何が好きで、何が苦手で、何を見て、何を聞いて、何を触れて、何を味わって、何が嬉しくて、何が悲しくて、何を大事に思っていて、今君が、どんな世界を歩いてるのか、知りたいんだよ!!!」




 

 知りたいって。

 そんな、聞いて嬉しい話なんてなんにもないよ!





 


「言いたいんだよ!

 分かった上で気休めじゃないホントの言葉で。ダメじゃないって、この先を諦めてしまうほど、君はダメなやつなんかじゃないって、言いたいんだ!!! 」




 ……!




「わがままだよ。ただのわがままなんだよ。でも、抱えたままで終わらせて欲しくないんだ!諦めなんかで終わらせてほしくないんだ!

もしかしたら、待ってる未来はそれほどじゃないかもしれない。もっと酷い結末かもしれない。どん底以上のどん底で、二度と這い上がれないほどの絶望かもしれない。

でも、生きたいんだ!










それでも、君と、生きたいんだ!!!」

















 全て吐ききった悠里くんは、息を切らして、



 


「大層なことをベラベラと。出来るのか、お前に」







 


 そして、彼の問いかけにこう答える。








 


「……俺を誰だと思ってやがる!!!」










 

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