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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
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初陣

「……代償」

 

 僕の持つ短剣に光が走る。

 柄は太く、刀身は長く、落とす影は凛々しく鋭利に。

 重量が増し、着く先端が地に跡を残す。


「殴り合いと言った割には、鍔迫り合いが好みか」



 変化した剣を前に、男も得物を構え直す。

 さっきの蹴りは、あくまで加減。

 真剣による一撃は、それだけで致命となりかねない。


「……行くぞ」


 先手、向かったのは僕。

 短剣から太刀ほどのサイズ変化に、身体はついていくだろうか。駆ける後ろに、地面を沿って剣は続く。


「はぁあッ! 」


 振り回されるような剣筋は、あまりにも直線。


 ガンッ!


 奴の防御はまるで壁。剣が当たっても揺るがない。

 攻めたはずのこちらの手が痺れるほどに、不動。

 だが、ここで終わる攻撃では無い。


「代償! 」


 変化させられるものなど一つ。

 持つ剣、それは瞬く間に光を纏う。

 と同時に、僕は身体を捻り屈ませ重心を下げる。

 動くイメージはアサシン、秘する一刀を致命の位置へ。


「……っ」


 変化した剣は小刀へ。

 刀身は一気に縮み、奴の剣との接点を急に失ったことによる有り余った余力で切り上げにいく。

 描く銀の弧、その後ろに続く赤のライン。

 手当り次第の攻撃は、奴の腹の表層に傷をつけた。

 

 が、相手だって、木偶の坊じゃない。


「遅いな」

「ぐっ……!?」


 気づいた時には、既に予備動作が済みの右脚があった。

 振りかぶったら、あとは蹴るだけ。

 まるで素振りに巻き込まれるかのような軽さで、僕の身体は彼方に吹き飛んでいく。



「ぐはぅ……っ! 」


 転がりながら地面と摺れる。

 すぐさまかろうじて立て直すも、万全とはもう既に言えない状態。

 生まれた多少のかすり傷と、もっと大きな内側の損傷。

 じわりと痛む彼らは、集中を常に妨げ続ける。

 エーテルの力でいつかは治る、分かっていても身体からの悲鳴はやまない。

 今、蹴られた肋骨を気にかけている余裕なんて無い。




 なぜなら、奴の番手はまだ終わっていないのだから。





 たった一度の踏切りで、彼は飛ばされる僕に追いつく。

 脅威の脚力がなす、そのデタラメな追撃。

 逆手だった刀を持ち直し、その腕力の限りで勝負を決め切るつもりだ。

 喰らえば一溜りもない攻撃に、取れる選択は数しれず。

 飛び上がったまま、振りかぶる一刀。



 ……くっ! 間に合え、代償!








ガぁあああいンッ!








 荒野に響く、2度目の衝突音。

 地面がえぐれかねないほどの衝撃を受け止めたのは、小刀から変化した大盾。

 身体すら覆えるほどの防御面積。

 地面に叩きつけられてでも直撃は防ぐ。


「ぐぐぐっ……! 」


 ただその先は、地面と盾との狭間で膠着状態を演じるほかない。

 ただ亀のように篭もり続ける、それが全てで精一杯。

 防御を解く準備は出来ている。が、タイミングを間違えば、身体は両断。

 ここで勝負を決め切るまでの算段を頭に。

 防戦一方はここが最後、次この形に持ち込まれれば、体力切れによる圧死でKO。その瞬間負けだ。


「だいっ、しょう!」


 小手先でも、使えるものは使うしかない。

 唱えてから、3秒待つ。

 何も変化が起きないと相手が不審がった瞬間に、解除!

 


「……小賢しいな」



 盾の片側に寄せていた身体が、支えをなくして勢いよく転がっていく。




 奴の言葉に構ってもいられず、身体は一歩でも遠くに全速力。

 50m、7秒9。

 この脚が出せる、MAXスピード。

 いくら策の為だとは言え、届くなと祈りながら駆けるこの瞬間は、まるで生きた心地がしないな。


 この状況は、数歩で追いつくウサギとカメ。

 言うまでもないが、奴がウサギで、こっちがカメ。

 童話通りいくならば地道を積み重ねればいいが、そんな余裕、今はどこにも存在しない。


 あの話でカメが勝てたのは、相手が走りにおいて自信を持ち、強く慢心をしていたから。

 もし相手が油断していなかったならば、いくらコツコツ努力しようとも勝ちは掴めなかっただろう。


 カメが勝つためには確実に知恵を絞るしかない。

 卑怯な手でもいいから、何か一手掴む以外方法は無い。

 カメはカメであり続けた。最後まで弱者でいた。

 つまり、相手を慢心させ続けた。

 学ぶとしたならば、そこだ。

 相手が慢心、油断した箇所、ただその一点を貫く。

 


 奴が切りつけようと迫ったその時だ。

 その瞬間、この背中から奴を突き刺す棘を生やす。



 このスキルに基本的な制限は無い。武器の生成位置だって、事前に入念な想定さえしていれば何処からだって。

 大盾から変化した、小さな宝玉。片手のに収まるほど小型化させたこいつを、次は棘として攻撃に転化。

 奴の腹目掛けて刺す一撃は、奴のスピードじゃ止まりきれずに当たってくれるはず。



 さあ来いと、知識にはあるオフサイドトラップをイメージしながら接近を駆けて待つ。

 流石にそろそろだろうと右手を握りしめ構える。

 だけどどうしてか、一向に足音が迫ってこない。

 不審に思い急ブレーキをかけて、リスキーだけど振り返る。

 




 が、瞬間




 あろう事か、斬撃だけがとんで来た。





「……! 」


 宝玉を再び大盾に。



 寸前のところで間に合ったガード。

 九死に一生、どうやらまだ天は見放してはくれてないみたいだ。


 衝撃を受け止め、後方へと後ずさり。

 斬撃がとぶ。そんなの想定にあるもはずないが、不意打ちを決めようとしていた僕が言えたことでは無い。

 今、相手しているのは同じく転移者。

 代償の力を使えば、頭に浮かぶ大抵の攻撃が実現可能になる。


 盾の裏から覗くと、奴は再び斬撃を浴びせんと剣を振りかぶる。

 手番を返させるには、確実にここをくぐるしかない。

 盾の強度も無限じゃない、なるべく速攻で決め切る。






 作戦変更、パターン2だ。





「だぁあああ!!!」


 無策を演じるための掛け声付きで、盾を構えて来た道を戻る。

 動揺も見せず、構え続ける奴めがけての突進。

 

 奴の構え方的に、次にとんで来るのは真一文字の一線。

 跳ぶか潜るか。

 より無策に見えるのは……


「せーっ、のっ! 」


 掛け声と同時に、盾を代償に変化を起こす。

 









 バサッ……!!!







「……っ」






 現れたのは、あまりにも目を引く巨大な赤布。








 離れた位置から飛びかかってくるそれを見て、奴は何を思うだろう。

 色、形、次に思うは、その面積。

 人ひとり守れる大盾、それと同価値だけの布を用意するとなれば、質にこだわらなければ相当量の大きさになる。

 目の前を覆い尽くす程の赤に、奴は僕の姿を見失う。

 このまま布で覆われれば、何をされるかも分からない。

 

 頼りになるのは、聴覚一つ。

 布が摩れる音、自身の呼吸、竜とエリッサさんとの戦闘音。

 この場を構成する様々が入る耳に意識を集中させ、その斬撃の焦点を定める。


 そしてきっと、いつか奴は気づく。

 この空間に、頼りすべき情報だけが無い事に。






 そう、僕の音。僕が鳴らす、足音だけが無い事に。







 とぶ斬撃、さっきなぜ気づかれたか思い出す。

 地を這わない攻撃に、音は無い。

 地を這わぬ者に、音は出ない。



 僕の居場所、定める剣、



 隠れた居場所は、



 つまり、上!



「……!!!」



 とんだ斬撃。真っ二つになった布の先に、











「いないっ……!?」










 待つのは星空、ただ無限!!!!!!!!!













「そこだぁあああああああああああああ!!!!!! 」



 奴の斬撃でちぎれた布の下部。

 それは、僕の手で渦巻く槍に!

 

「くっ!」


 足音を消すため裸足になった僕による攻撃は、寸前で回避される。

 だが、体勢を崩された奴には付け入る隙、追撃を入れるチャンスが生まれる。

 半分以下の価値まで落ちたこの槍は、再び代償の力で変化する。



 奴がとれるのは、剣によるガードだけ。

 きっと一発目の打ち合いで奴は確信している。

 例えどんな攻撃だろうと、当てさえすれば受け止め切れると、確実に。



 なら、受け止めさせてやろうじゃないか。



「代償! 」



 変化した一撃。

 剣に当たったその物体は、勢いよく音を立てて割れ、輝く破片と雫を辺りに撒き散らす。

 鼻を突く、独特な匂い。






「……酒か」





 まるで自分の次が分かっているかのように言葉をこぼす奴に、僕は仕上げの炎を灯す。


 成功率約三割、灯れ、最後の一撃必殺!!!





「ファイアァァァァァァアアアア!!!!!」

読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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