表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
42/84

だから、殴り合うんだ

「変換の力はこう使う物だろう」



 目の前にいる男は、今、見違えるほどの変貌を遂げた。

 何歳分か若返り、全身に隆起するほどの筋肉。

 背も伸びたんだろうか、ありったけの筋肉が細身の身体にまとわりつき、ただ速く走り、ただ強く殴るためだけの身体つきになっている。




「お前も早くやったらどうだ。もう加減はきかない、その身体じゃ2回で砕けるぞ」

「……何を、当たり前に」


 転移者ならば、こうするのがさも当然かのような口ぶりで奴は言う。


 恐らく奴はそういう世代。

 戦闘と聴いてイメージするのはバトル漫画的な強者なんだろう。

 異能力とかよりも見た目でずっとわかりやすい、変身による怪力と気迫。

 


「この力の強みは、無制限回数の変換。消費するような使い方さえしなければ、その価値を保ち続けたまま何通りもの効力を放てる」


 その言葉の説得力は、その肉体が物語っている。

 魔術で一発、パンチで一発。同じ一発だとしても、魔術そのものを作るのと、パンチを生み出す身体を作るのとでは訳が違う。

 言うなれば工場、攻撃を打ち出す機構を整えてしまえば、あとは体力の尽きるまで無制限に放ち続けられる。

 浪費と投資、こうげき連打とバイキルト、パックのご飯と炊飯機……。

 長い目で見たらどっちが得かは一目瞭然。


 必要な時にだけ変身によって全力を出し、不要な時は別の何かに変えてストックして置く。

 真っ先に魔術をイメージして使い切った僕なんかよりずっと合理的で賢い、脳筋という選択肢。





「やらないのか」

 

 今更何ができようか。

 この地に落ちて持っていた財産は、今はもう無い。

 それでもまだここに居ようとしたのは、僕自身だ。

 

「ああ」

「まさか、お前……。そうか、そいつを狙う事情は、お前も同じということか」

 

 もらった約2億の宝石、その125倍の250億のチケット。

 帰る気がないのなら、換金して豪遊するのが摂理。

 恐らく奴は、あのチケットすらも金に変えた。

 そして持っていたはずの250億は、今奴の手元にない。

 だから奴は、暁音さんを狙っているんだ。


「違う、一緒にするな」

「何がだ」


 男は、淡々と述べる。


「例え理由は違えど、根は同じだろう。元の世界で落ちぶれて、神から恵みを得た上で、また墜ちる。なのにそれでもまだ人でありたいと願うのは、とんだ強欲、筋違いの我儘だ。その武器はなんだ。俺に傷をつけるためのものだろう。他人を犠牲にしてでもおのが欲望を果たそうとする。俺とお前で何が違う」


 敗者には、敗者として負うべき責任がある。

 我儘を言った代償は、その先の人生で払うしかない。


 あの夕、この場所で選んだ間違いの選択肢。

 目の前にあった平凡を生きる道筋を断って、ここに残る選択をしたのは、紛れもない自分。

 二度と戻れなくてもいい、そう思ったからあの日チケットを手放した。

 その選択に後悔はない、選んだことも決断した勇気も全部、誇りにすら思ってる。

 

 友人や家族に会えないことも、アニメやラノベ続きが見れないことも、苦しいなりに受け入れたつもり。

 それらは全て、払わなきゃいけない代償だ。

 この先に待つ全部は、本当は、背負わなきゃいけない代償だ。

 

 だけど、例え強欲と言われようとも、



 筋違いの我儘だと言われようとも、



 腐っていくのを、ただ待つだけのこの日々までもは、






 受け入れられる、はずがないだろう!!!







「……そうだな。だから、殴り合うんだ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ