VS転移者
「帰れ」
隙だらけの僕を前に、奴は攻撃すらせず口を開く。
後ろでは、竜とエリッサさんの死闘。
会話する時間なんて、ここには無いはずだ。
「嫌だ」
「お前の意見は必要ない。命令だ、帰れ」
「なっ!?」
何が目的で、そんな事を。
今さら善人ぶったどころで、印象なんて覆えるものか。
「なら、暁音さんを解放しろ」
「嫌だ」
「なっ!?」
何だこいつ……!!!
この期に及んで、おちょくってるのか。
こっちは刃物持ってるんだぞ、怖くないのか?
「言っておくけど、こっちは覚悟してきてるんだ。本気出したら、こいつで……」
「こいつで、なんだ」
濁した甘さを突いてくる。
いざ面と向かってとなると、言葉は無意識に引っ込むんだな。
ここまで来たなら言ってやる、ぶっこ、ぶっころ……
「ぶっ、ぶっころ飛ばす! 」
死に至らす……とは言えなくて、言葉はまた濁る。
「できるのか」
奴もそれを見透かしてるのか、覚悟を問うような文言。
どうやら、どうしても僕を追い返したいらしいな。
例え何を言われようと、僕はここから引く気は無い。
奴がじゃない、彼女がじゃない。
ここに来たのは、自分の意思。
暁音さんに伝えたいことが、言いたいことがただただあるだけ。それを成すまで、ここからは引かない。
臆病な自分は確かにここにある。
怖い、というか、気持ちが悪い。
吐き気になりきらない不安の種が、身体中に根を張ってる。
今に始まったことでは無いけど、だけど、いつまでたっても一向に慣れることはない。
対処法なんて無い。
手のひらに人を書いて飲み込むみたいな、そんなまじないごときじゃ、この深い根は抜けてはくれない。
十数年とずっといるんだ、そう簡単に行くものか。
今までずっと向き合ってこなかった、いや、向き合ってはその度に負けてきた。
一生勝てない自信すらある、そんな腐れ縁の宿敵。
だけど、今僕はこいつをどうにかしなきゃならない。
出来ることは、対処じゃない。
ただ、覆い込むこと。
皮をかぶせて、視界から今は消す。
そこに確かにある、だけど見えない。
今だけでいい、今だけ、自分で自分を誤魔化す。
たかが言葉のあやかもしれない。
だけど、それで立ち向かえるなら。
最強で、最高。もしくは、自分を支える何よりもの軸。
憧れて、夢に見て、待ちに待ったあの姿を、自分の身体に落とし込む。
少し語気を強く、多少くらいは生意気に。
纏え、自分が思う、理想の主人公を。
「……ああ! 」
返事を聞いて、その重い腰をようやくあげた奴は、傍らに刺さった剣に手を伸ばす。
その一本は、なんてことの無いただ普通の剣のはず。
けれど、それを、彼が逆手に握るだけで、まるで全てが呑まれていくかのように奴色に染る。
気怠げに構え、だけど少し不敵に笑う。
奴の心情は読み取れやしない。
だけど、前を塞ぐ気が僅かでもあるなら、今は真っ向から貫くしかない。
「そうか。いくぞ、……代償」
もう片方、奴の突っ込んでいたポケットの内から光が出る。
「……!?」
奴の姿がその光に隠れ、見失った次の瞬間には、
「ぐっ、はあっ!」
剣を軸にした重い蹴りが、僕の胴に叩きつけられた。
反射神経に自信はない、でも油断したつもりも無い。
警戒だけは解かずにいたさ。
明らかに速い。
エリッサさんほどじゃないけど、普通の人間が出せる瞬発力を大きく超えてる。
あの風貌じゃとても無理。まさかっ……!!!
光が落ち着き、後ずさりした僕の前。
あるのは、さっきとは違う奴の姿。
服の上に浮き上がる筋肉、湯気が経つほどの驚異的な代謝。
肉体年齢における全盛期、そこに代償の力で得た筋力。
もし、自分が肉体強化に特化した人生を歩んでいたら。
そんな理想を、やつはその身に降ろしたんだ。
神様から与えられた、スキルを使って……!
「何を驚く。変換の力はこう使う物だろう」
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