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【3000pv突破!】異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
一章 あなたみたいになりたかった
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彼女、離してもらえますか



 あの広場から歩いて数分の場所にある閑静な住宅街。

 この世界じゃ当たり前の西洋風の日常は、たった一本曲がっただけで崩れ去った。



 暗い茶髪のボブカットの女の子を取り囲んで立つ、屈強な見た目の男たち。

 彼女の短髪をてっぺんから掴んで、罵声で脅して、その子から何か奪おうとして見える。


 どっちが悪者かなんて考える間もない。

 囲まれている女の子。彼女が多分、あの子が言ってたお姉さん、アカネさんなんだろう。


 僕とそう歳も変わらないくらいに見えるの彼女の目には、はっきりと殴られた痕がある。

 青く腫れて、ズキズキする痛みが見るだけで伝わってくる、生々しい痕。

 既に目として機能しているのか怪しい程なのに、屈しない意志の表れなのか必死に涙をこらえている。

 長い袖のパーカーで隠れてるから分からないけど、きっとその下も酷いくらいになってるはず。

 重症が容易に想像できるなんて、あまり気分が良くないな。



 自分を含めて、ここにいるみんな言葉を失っていた。壁越しに見る暴行ほど、心地の悪いものなんて無い。

 

「……ふぅ」


 無意識にした深呼吸。

 心を落ち着かせるためにしたはずなのに、どうやら、全く効果が無い。

 


 

「やめてっ……!!!」

 


 彼女の悲鳴は、確かにここら一体に響く。

 だが、助けらしい助けは来ない。


 それもそのはず。

 たぶんこの辺りには、もう人はいない。


 数分前くらいから遠くから響いてくる大きなラッパの音。

 続いて聞こえる歓声は、きっとさっき居たあの大通りから。

 きっと準備もそこそこに、もう既に凱旋が始まっていて、おそらく、この街に住むほとんどの人が、今はあの大通りに集まってるんだろう。



 女の子ひとりの悲鳴なんて、街の歓喜に適うはずが無い。

 誰かを祝うはずの音は、ここに助けが来ないことを僕に何度も告げ続ける。


 僕が行かなきゃ、アカネさんはやられる。

 僕のせいで、彼女はやられる。





 いよいよ僕がやるしかない。

 ぶっつけ本番、こんな僕でも変えられるってところを見せてやる。



 

 物陰から飛び出した僕。

 奴らはまだ、気づいてない。


 

 


「代償変換・特火火炎弾(ファイアボール)


 





 唱えた途端、指輪の宝石が一粒光り輝き消えていく。

 そして次の瞬間には、


 

「……っ! 」


 





 


 目の前で、焔が爆ぜた。







 

 

 僕に完全に背を向けていた奴らのうちの一人は、その炎の玉に直撃し、ただの一発で焼き焦げた。

 途端に倒れ込むそいつを見て、奴らもアカネさんも驚きを隠せない様子。


 


 

「……君は」



 真っ先に僕に気づいたのは、パーカーの彼女、アカネさん。



「おい、お前。今何やった」




 彼女の目線を追って、僕に気づく荒くれたち。

 もう、後には引けない。

 いよいよ始まる、僕の初陣。



「彼女、離してもらえますか」

 









 


――――――――――――――――――――――――


 

 敵は、3人。

 全員が僕なんかより大柄で、筋骨隆々の男たち。

 2m近くはあろう長身から見下ろす視線は、紛れもなく僕を向いている。

 遮蔽は無い。閑静な住宅街にある、路地の一本道。

 枯れ草も、ましてや僕ら以外の人通りもゼロ。

 そして間合いは、十歩ほど。

 もし奴らがその気になれば、一瞬で駆けてくることも可能な距離だ。



「……ちっ」

 


 奴らの手には、武器も魔道具らしきものも無い。

 剣と魔法の異世界にも関わらず、拳一本で臨んで来るのは、背の低い僕を子供だと油断してのことか。

 ……いいや違う。

 奴らはもう、加減や慢心などという言葉を、とうに忘れていることだろう。




 


 なんせ、仲間の一人は、既に僕にやられているからだ。




 


 血走った目、怒りによって浮き出る血管。

 音を鳴らすその自慢の拳は、過去これまでに何十人と屠って来たのだろうか。

 異世界に来たばかりの僕には、分からない事だが。



「おいお前、タダで済むと思ってんのか」


 奴らのうちの一人、目に傷をつけた男が口を開く。


「たかが不意打ちで仕留めたくらいで調子乗りやがって。あんま舐めてると、瀕死じゃ済まさないからな」


 奴のハッタリじゃない脅しに、自然と身の毛がよだつ。

 身体が自然と怯えてしまうのも無理がない。

 目の前にいるの男の威圧は猛獣と引けを取らぬほど。

 数時間前まで一般人だった僕だ、そう簡単に度胸がついてくれるはずもない。


 


 なら、逃げるのか?



 確かに、戦況は圧倒的な不利。

 数も地の利も相手の方が格段に上。

 オマケに奴らの手元には人質が居る。

 下手に手を出せばその子もただじゃ済まないだろう。


「腹は決まったか」


 問いかけに、思わず僕はニヤリと笑う。

 


「ああ」



 返事を受け取った奴は「そうか」とこぼし、前傾姿勢に。

 



 

「じゃあ、死ね」




 


 眼前に迫り来る死。

 こぼれた笑みは、諦めか。

 いいや、違うさ。



「代償変換・時停監獄(ザ・タイム)ッ!」


 

 気持ちの高鳴り、高揚感が抑えきれずに面に出た!

 


「っ!?」


 勢いよく飛びかかったやつの拳は、僕の鼻先スレスレで止まる。

 何が起こったか、奴も仲間も自体を把握出来ずにいる。

 それもそのはず。

 この異世界、魔法で炎や水は出せたとしても、相手の時間を止めるなんて神にも等しい荒業は不可能。

 こんな魔法、有り得るはずがないのだから。


 それが有り得てしまうのは、僕に宿る、まさにチートなスキルの力。



 

 そのスキルの名は、「代償変換」




――――――――――――――――――――――




「代償、変換……」

「そう、それが君に渡したスキルの名称だ」


 渡した、渡された……そんな実感は、正直いって、あんまり無い。

 視界になにか写ってるわけでも、頭の中に何かが浮かんでくるわけでも無い。

 なんでも出来るって言ってたから、全身に力がみなぎってくるとか、そんな感覚くらいはあるのかもって思ってたけど、足の先から頭のてっぺんまで、変わらない。寸分狂わず、僕のまま。



「代償変換、文字の通り、何かしらを代償にし、望んだ物に変換する。まあ、言うだけじゃわかんないと思うから、実演してみよう」


 そういうと、神様は、腕につけてた時計を外す。

 そしてそのまま手の中に握ると、


「――代償」


 と、呟くように唱えた。


 それと同時に、辺りを光が包む。

 発生元は、神様の手の中。


 何が起きてるのか分からず、ただ呆然としながら見守ってると、数秒足らずで光は落ち着く。


 何が起きたか分からない僕の前で、得意げににやける神様。

 その手を見ると、


「……!?」

「どうだ、驚いたかい」


 そこにあった、というよりいたのは、


 骨だけになった、一匹の魚。



 見た目だけなら死んでるはずなのに、何故かそいつはピチピチと尾びれを叩いてる。


「なんなんですか、これ……」


 神様が何をしたかったのか、これだけ見ても、よく分からない……。


「見た通りさ。握ってた腕時計が、こいつになった。それ以上の説明がいるかい……?」

「えっ……!?いや、なんにも分からないんですけど」

「分からないって言われても、まあ、説明できることなんて、8000万の時計がこの骨だけ魚になったってことくらい。代償にした物が、自分の願った同価値の物に変換された。ほんと、それくらいしかないんだけど」

「同価値……あの時計と、それが……!?」


 彼はさらっと言ったけど、その魚が8000万円するとはどうにも思えない。


「そんなに驚くことかい。君の世界には、一杯数万円のコーヒーとか、一枚数億円するトレーディングカードとか、誰が価値をつけたのか分からないような物がいっぱいあるだろう」

「そうは言っても……」

「価値なんてね、結構曖昧なものなんだよ。必要としてる以上に無駄につり上がったり、価値があることに価値をつけたり、みんなが思ってるだけの集団心理の1つに過ぎない。その結果が、このお魚。こいつの役割は、価値を持つこと。それ以上でも以下でもない。なんなら僕の時計も一緒。ね、おかしなとこはないだろ」


 そう言われてしまえば、そうなのかもしれないけど、でも、そのピチピチの骨が8000万円なのは、どうしても納得できない。


「まあ、真面目に説明すると、そのスキルは、君の願いをなんでも叶える。ただし、元にした代償の価値範囲の中で。価値の測り方は二種類。社会的価値と個人的価値。社会的価値の方は、まあ、大雑把に言えば、売りに出される値段くらい。リンゴなら100円、タンスなら1000円、一万円札なら1万円だ。

 反対に、個人的価値は、社会じゃなくて、君自身の持ってる価値。大事にしてればしてるほど、叶う願いの範囲は広がる。何かすごいことしたいなら、揺るがない価値感を持つといい。その分だけ、叶う願いは強くなるから」


「代償に、決まり事とかって……」


「特にないさ。なんなら実物じゃなくてもいい。君の持ってるものならなんでも。握力とか、視力とか、記憶力とか。現にこの後、異世界語を覚えるために、君には覚えてる日本語を代償にしてもらうから」

「……!?」


 さらっとすごいこと言ってない……!?


「願いの方も注意が必要。何でも叶っちゃう反面、大雑把な願いでも、価値さえあれば、現実になる。想定外が起こらないように、念入りなイメージを心がけることが必要だ。現にこの後、君には自分の体内を多少作り替えてもらうから、生半可なイメージだと死んじゃうよ? 」

「……!?」


 だから、さらっとすごいこと言ってない……!?


――――――――――――――――――――――――



「……」


 




「代償変換・特火火炎弾(ファイアボール)ッ!」


 ここにいる全員が、言葉を失っていた。


 指輪の宝石一粒を代償にした爆発は、時間の止まったその荒くれをたったの一撃で黙らせ、息の根が止まりかけるほどの黒焦げに追いやった。



 さすがの火力に残った奴らは、若干だけど怯えはじめてる。


 異世界語を覚えた時と、この身体に"エーテル器官"を作った時、そしてこれで、3回目。

 少しずつだけど、確実に、スキル自体にも慣れ出来てる。


 正直言ってまだ怖いけど、

 だけど、確実に、ちゃんと前に進めてる。

 だからあと、もうひと踏ん張り……!



「ちっ、ガキの分際で……そうか、お前もか」

「お前、も……?」

「そうなら多少のリスク背負ってもいいか」

「さっきから何を……」

「いいぜ、ガキ。最後まで乗ってやるよ、この勝負」


 まずい……!

 相手2人とも、身体を前にして戦闘態勢……!


 急いで僕も、構えなきゃ。

 落ち着け、大丈夫、勝てる……。

 攻めならさっきの大技で、守りならイメージは出来てる。

 傷負ったって、今の僕なら……!





 いよいよ来る、第二波が。

 ここから、正念場!



「勝ったら俺ら、億万長者だぁあああ!!!」


読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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