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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
二章 俺を誰だと思ってやがる
30/84

月 2

「さて、手短に済ませてしまおうか」

「そっか、何かあるから”ここ”なんですよね」


 エリッサさんからの手紙には、夜更け前にここにと、僕が読みとばなさいようわざわざ下に傍線まで書いて指定してあった。


「ここじゃなきゃ出来ない重要な事、とか」

「いや、そう身構える必要も無い。内容自体は私の部屋でもできる、ただの伝え事だからな」

「じゃあ、どうしてここに」

「どうしてか」


 エリッサさんは、口元に手をあて少し考え込む。

 ただ、これといって深刻そうな様子でもなく、どう伝えるか言葉を選んでいるだけのよう。


 正直ここは、僕にとってあまり心地の良いところでは無い。


 初めて来た時の面影は、今はもう無い。一線を境にまっさら。瓦礫の跡なんてあったことすら信じさせないほどのえぐれた岩盤の大地が視界を埋めるだけ広がる。

 街中から少し先に急に現れる、深さ20mほどのこの峡谷もどきは、たった数日前、ある一匹の龍が、ただの一息で形成してしまった突然変異地形。

 青白い、わずか一滴ほどの業火による閃光のごとき爆発は、音すら置き去りにする速度で、本来ならこの街ごと、推定300km²の範囲を、この乾いた大地に変えていた。

 どうしてそんなに鮮明に状況を語れるのかと言えば、僕が、その爆発の2番目に間近な目撃者であり、そして、その龍をこの世界に呼び戻してしまった、張本人だから。


「この街に来たばかりの君が迷わず来れそうなポイントは、そう多くは無いだろうと思ったからな。あんな部屋では真面目な話も出来まいと思ってここにしたが、不満だったか」


 あの日、僕を守ってくれた位置の少し手前で、エリッサさんは、いつもと同じように笑う。

 僕が誰より尊敬する彼女にとって、ここはちょうどいい目印の1つ。僕にとっては、抱えきれないほどの勇気を貰った場所であって、同じだけ、自分の愚かさを知ることになった場所。

 それだけの違いだ。


「いえ、全然! ちょっと前の事のはずなのに、結構懐かしいなぁ……なんて」

「ここなら人も立ち入らないだろうから、君も私も気負わず話せるだろうと思っていたが、どうやら先客がいたな」

「あっ、ですね」


 その穴のまだ深さと傾斜の緩やかな位置にいるのは、兄弟のような子供が2人。肌や髪は、随分洗っていないのか汚れて、みすぼらしいくらいに荒れている。


「どうします、どこか別のところに」

「いや、これだけ離れていれば聞こえまい。何より、聞かれて困るようなことでもないからな」

「そう、ですか……」


 何やら小石を積み上げる彼らを横目に、エリッサさんは真面目な横顔で、僕に本題らしき言葉を伝える。


「ユーリ、その腰の剣を抜くのは、何か君にとって重要な時だけにしろ。最近は、反乱を恐れて何かと警備が慎重になってる。君だけに過ちに手を染めることは無いと思うが、くれぐれも誤解をされないようにな」

「はい…… えっ? 」


 あっさりと終わってしまった忠告に、思わず聞き返す。


「それ、だけ? 」

「まあ、そうだな。伝えたい事は、それで全部になる」


 何を背負ってたつもりもないのに、肩の荷がポッと消えてしまったよう。


「良かったです、なんか悪いことしたんじゃないかと若干不安だったので」

「……そうか」


 不安が減ると、この景色への罪悪感もどこか薄れてしまう。きっとこれが油断ってやつだろう。

 責任は取るとは言ってくれたけれど、したこと自体が消えてなくなるわけじゃない。自分も、杭を打たなければ。



 エリッサさんは、あの彼らに目を向けたままだった。

やせ細った手足に似合わぬお腹。歳は恐らく、シナス君と同じくらいだろうか。


「どこの子、なんでしょうね」

「宿無しだ」

「宿無し……」

「定住する場所もなく、頼りにできるほどの金銭も持たない、路端すら追い出されるような賤民。立ち入り禁止をいいことに、人気のないここを仮住まいにする者もいる。彼らもその中だ」

「追い出さなくていいんですか」

「そうだな。ここは、王国勅令の封鎖領域だ。許可なく立ち入れば、場合によるが即極刑も免れない」

「……!?」


 あの時、見つかったのがエリッサさんにじゃなかったら、自分も危うくだったかもって事だよね……。

 立て看板ひとつで済ませていいのかな。勅令の封鎖領域とかかっこいい呼び名なのに雑。なんかもったいないな。



「さて、話は済んだ。わざわざ呼び出して済まなかったな」

「ああいえ、話が出来て楽しかったです。月のこととか、聞かせてくれなきゃ多分知ることもなかったと思うので」

「そうか。愚かな歴史だが、学びになったのなら何よりだ。私は彼らに話をしてくる、先に戻っていてくれ」


エリッサさんはそういうとまた、彼らの方に目を向けた。


「そういえば、あの子たちに親御さんは。孤児なのかな」

「……彼らの親か」


去り際に僕がぼそっと呟いたそんな言葉に、最後、エリッサさんは、普段通りの声で答えてくれた。


「殺したよ、私が」


読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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