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失態は覆い隠すもの 2


「しばらくはここを使うといい、……最も、嫌でなければだが」

「ありがたく使わせてもらいます。なるべく早く宿を見つけて、それまでには完璧に整頓するので! 」


 まさかエリッサさんとギブアンドテイクが築けそうになるなんてこの部屋に入るまで思ってもみなかった。

 甘える以外の恩返しが出来そうで、僕の肩の荷が少しだけ降りる。


 

 玄関先で二手に分かれて、僕らは家を出た。

 魔法を学ぶならどこがいいか聞いたところ、王国運営の図書館があるらしくそこがいいだろうと。

 助言に従わせてもらい、僕はその図書館へ。

 エリッサさんは、昨日の後始末のためにあの現場へと向かう。


 エリッサさんと分かれ1人だが、今日は迷わない。

 昨晩書いて貰った地図を頼りに、難なく目指せる。

 汚物通りも盗賊スポットも、今日からもう通らない!



 昨日ぶりに横切ることになるとこなんて、


「よっ! 昨日ぶりだね」


 そう、一風変わった半裸なギタリストの前だけだ。


――――――――――――――――――――――――


「なーんでまた半裸なんですか」

「いやほら、さっきちょっとだけトラブっちゃってねぇ」


 エリナさんは、やれやれと言わんばかりにため息をつく。もうためらいなんて無く僕に向けて諸々を晒し、対した僕も、もう驚きもしない。

 まだ朝も早いというのに、なぜ足の先から恵まれたボサボサ髪までビシャビシャなのか。

 美人は何を着ても似合うと言うが、さすがにグシャ濡れ下着オンリーだけだと……いや、それは言動込だからか。

 黙ってれりゃこれでも絵になるくらい綺麗なんだもんな……。

 素材がいいのにもったいないけど、これが彼女なんだ。



「何があったか聞いても? 」

「大した話じゃないよ。昨日泊まるとこが無くてさ宿の店主に無理やり頼み込んだらゴミ置き場に押し込まれて、100歩譲ってそれは良くても、朝になったら正規料金よこせって言い張ってきて。もう頭にきたよね! 」

「はぁ」

「はぁ、って何? 怒らないの? 」

「いや、ここまでならお互い様だなぁと」


 彼女は目を丸くした後、


「はぁあああ!?」


僕の言葉に毛を逆立てながら頭の先から湯気を出す。


「あーあ、君なら分かってくれると思ったのになぁ。こういうのってね、当事者以外はみーんなそういうんだよ! お互い様ね、なあなあね、って。おかしいでしょ、サービスのサの字もない中で、他のお客と同じお金って」

「まあ、言い分は分かりますけど……」

「だったらもっと怒ってよ! プンスカプン! 」


 よっぽど腹を立ててたようで、擬音をわざわざ口に出す始末。


「それで、なんでそこからびしょ濡れに……」

「ああ、ああ! それでそれでさ、とりあえずボクが払ってもいいと思えるお金だけ置いて出ようとしたらさ、店先で取っ組み合いになってさ。さすがにぃ? 怪我させたら悪いかなぁって、最後の良心だよね、僕がやめて渋々痛み分けを提案したのさ。そしたらあの店主なんだと思う!? お前みたいな獣人には便所の糞がお似合いだって、ヘラですくったのをホイホイ投げてきたの!!! 」

「あぁ、なるほど」


 また、う○ち絡みなのね……。

 

「それで洗ってその格好と」

「そ! 全く、2日連続でこれなんて一体どんな街なのさ」


 エリナさん自体も相当おかしい人ではあるんだけど、毎度事情には同情できる。

 今回も変に意地張ったり、こうして道端で半裸だったり常識があるとは思えないけれど、肩を持つならやっぱりエリナさん側になる。

 お互い様とか言って悪かったなぁ……。


「そこまでになるくらいなら、もう全額払っちゃえば良かったんじゃ」

「なかったんだよねぇ、そもそも」

「……あ? 」


 おい、まて。


「……今なんと? 」

「だからね、ほぼ持ってなかったの、お金」

「……はぁ!?」


 僕の一声が静寂な朝に鳴り響いた。



 …前言撤回!!!

 どうなってんのさこの人!!!

 初めっからねだる気満々だったんじゃないか!!!


「待ってください……昨日ここに来たって言ってましたよね。なんでお金ないんです、まだ初日だったんでしょ」

「いや、お金なら現地調達すればいいかぁ、と……」


 ああ、計画性のないバカだ!

 この街で一番人のこと言えないけど、この人バカだ!


 嘘嘘嘘嘘! 一瞬でも自分を恥じた、自分を恥じる!

 てか、今日こういうの多くない!?



「もう知らないです! 」

「なんでぇ!? 」

「その話は、自業自得で終わり。エリナさんはどの道、茶色にまみれてましたよ」

「そんなぁ……」


 理解者がいなくなってしょんぼりしだす。

 でもその姿に騙されるな、悪いのはこいつだ!




「というかいいね、君はまみれになってなくてさ」


 そう言いながら、棒切れで地面をつつきながら口を尖らせる。



「そりゃあそうでしょう、外から来た人がみんなまみれになるわけじゃないんだから」

「だって、昨日は」

「それとこれとは話が別じゃないですか」


 昨日の僕は金銭トラブルでああなったんじゃない。

 それはそっちも同じだろうに。


「いいや、別じゃないよ」

「……どういうことです? 」

「だって道を知らないのも泊まるとこががないのも、この街の外から来たのが理由だろう? なら僕がまみれた理由も君が昨日まみれた理由も同じじゃないか」


 まあ、言いたいことは何となくは分かるけど。


「ええっと……つまり? 」

「分かりやすく言うよ。君、昨日どこ泊まったの? 」


 ガシガシと先のすり減り始めた棒切れで、まだ地面をつき続けるエリナさん。


「ええっと……エリッサ、あいや、

 昨日知り合った女性の家に、泊めてもらいました」


 直後、カランと音がなった。


 ……ん?



「へ? へぇっ!?」


 落ちた棒切れ。

 口をぽかんとさせ、慌てる彼女の様子で気づく。


「……あ」


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