龍の巣 4
「話がだいぶ横にそれちゃいましたけど、王様には、もう一度直接会って話がしたいなって思ってるんです」
「そうだな。事情を聞いた身ならば、何か手伝いたいとは思うが……」
エリッサさんは親身になってくれるが。
「一般人が王への謁見なんて、許されるはずないだろう」
と、ジークさんに止められる。
まあ、そうだよな。
会いたいってだけで会えるような存在じゃないのは分かってる。
またパーティを開いてもらう……って言っても前回やらかしてるから二回目の開催は無理だろうな。
多分、次会うのは、二百五十億貯めた後。
あの真っさらな場所で、だろう。
「私からも聞いてはみよう。まあ、あまり良い返事が帰ってくるとは思えないが……」
「いいんです、ありがとうございます」
僕らは、薄暗い巣の中に。
龍の根城ということでその巨体が通れるくらいの洞窟は、天然の鉱物などが思うがままに生えていた。
雑談を繰り返しながら、歩いていると。
「ジークさん、奥に広間が」
僕らの前を歩いていた、ジークさんの部下らしき人たちからの報告が。
「龍の気配は」
「特には」
「……中継地点を立てる。用意をしろ」
端的な言葉で指示を出し、ジークさんは一人さらに奥へ行って安全確認に。
「そういえば、直属護衛隊の部隊の仕組みってどうなってるんです? エリッサさんたち独立部隊が一人で一部隊なのは分かるんですけど、それ以外の組織的なところがイマイチピンと来てなくて。カイナさんたちは、部下なんですか?」
「いや、厳密には違う。まず直属護衛隊は、全ての者がどこかしらの部隊に配属される。街ごとに部隊があるゆえ、スクルド一番隊のように、街の名前が名称になっているパターンがほとんどだ。部隊には、一人部隊長を決める決まりになっている。だから、そこで上下関係が発生する。部隊長と、それ以外の部隊員で上司と部下の関係だな」
「なるほど。じゃあ独立部隊ってのは……?」
「独立部隊は、街の名を冠さない特別な部隊の一つだ。臨機応変に立ち回ることを目的として設立された部隊で、街にひとつといった決まりは無い。独立部隊は、部隊につき一人までの配属になっているため、自動的にその者が部隊長になる。部下は居ない、一人だからな」
あー、何となく分かってきたな。
「つまり、エリッサさんとカイナさんは、別の部隊ってことですか」
「そうだ。だから、本当は直接的な上下関係というのは無いんだ。他部隊の部隊長と、部隊員の関係でしかない」
学校で言うところの、他班の班長と生徒。
会社で言うところの、他部署の上司と部下。
直接的な関係性はないと。
「でも、指示出ししたりしてますよね」
「そうだな。よくカイナたちには指示を出す」
「他部隊にも指示を出せるなら、部隊長とそれ以外の部隊長で上下関係があるって事じゃないんですか」
「いや、部隊長だから指示が出せる訳では無いんだ。普通部隊員は、その部隊の部隊長からの指示のみで動く。他部隊の部隊長からの指示は断るよう義務付けられている。指揮系統の混乱を避けるためだ。部隊長が何らかの理由で指示が出せない場合を除き、普通は部隊の指示は、部隊長が行うんだ」
「でも、エリッサさんはカイナさんに指示が出せる」
「それは……独立部隊長特権というものだ」
「独立部隊長特権……?」
「独立部隊には、幾つかの権限があるんだ。そのうちの一つが、他部隊への干渉権だ。独立部隊長は、独立部隊を除く全ての部隊に指示が出せる。そして、その指示は部隊長であっても覆せない」
え!?
「それは、圧倒的ですね」
「ああ、強制力が大きい権限だ。この権限のせいで、実質的に独立部隊と、他部隊とで上下関係が生まれてしまっている。私としては、部隊同士対等だと思っているのだが、どうもそうは思われないらしい」
エリッサさんはそういうが、傍から見てても対等には見えないな。
だって独立部隊の人って、普通四、五人で形成される部隊を一人で務めてるわけで、単純計算四、五倍のパワーがあるってことになるんだよ。
そんな人と、他部隊が対等ってのはちょっと難しいんじゃないかなって。
「私はあまり使いたくないが、カイナの所属する部隊の部隊長がよく私に指示を仰ぐため、仕方なく行使しているんだ」
「でも、いい関係性を築けてるんじゃないんですか」
「まあ、そうだな。カイナとはここ数年の付き合いだが、同期以外で仲良くしてる唯一の人物と言ってもいい。そんな縁ができたのもこの権限のおかげと考えると、悪いものではないのかもな」
中継地点の設営もいよいよ完了しようとしてたところで、ジークさんが奥から戻ってきた。
設営中の部下……じゃないんだっけ、他部隊の人たちと何やら会話している。
彼の表情は相変わらず暗いが、してるのは雑談っぽいな。
「ジークさんにも、エリッサさんとカイナさんみたいな関係の部隊があるんですね」
「ジークとバステト二番隊は、おそらく私たちより強固な関係性だ。バステト二番隊は、ジークと同期も多く、苦楽を共にしている。今日の任務もジークが指名して彼らが選ばれた」
なんと。
ジークさんって人間関係とか希薄なイメージが勝手にあったけど、指名するほど懇意な関係が。
「実力も申し分なく、特に加入したばかりのサンドラの活躍が目ざましい。まだ十七だというのに、電撃を駆使した戦闘では右に出る者はいないほど。電撃界の貴公子、と呼称してる者もいるくらいだ」
「へぇ……。僕と同い年なのにすごいな」
「ジークとバステト二番隊の結束は、私にとて崩せん。彼らへの指示出しも、ジークの方が優秀なものが出来よう」
「ちなみになんですけど、一つの部隊に、独立部隊長が同時に指示出しすることってあるんですか?」
「複数人の独立部隊長からの指示が来た時は、部隊番号の若い部隊長の方の指示に従うという決まりがある。ジークは独立四番、私は三番だから、私の指示に従う決まりがある。だが、これは混乱を避けるための決まりであって基本的には使われん。今日も、私はカイナたちにしか指示を出していないしな。動きを分かってるジークから指示を出した方がいいに決まっている」
なるほど。
「さて、ユーリ殿、エリッサ殿。設営が出来ましたよ」
「ありがとう、ジャールさん。他の皆も申し訳ないな。さあ、ユーリ、休憩だ」




